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事業再構築補助金で思うこと

今、産業界全体で一番話題になっているのが「事業再構築補助金」です。コロナ対策で山ほど政策補助金が予算化されていますが、この「事業再構築補助金」はかつてないほどの規模と、日本の産業構造を大きく変えて再生させるための切り札的な存在として、100万円から最大1億円の補助金がついています。

補助金は給付金とは異なり、国の政策に沿った条件に合致した事業を企業が実施することに対して三分の二とか四分の三という大部分を国が補助するというものです。今回の「事業再構築補助金」は1兆1485億という補助金規模の大きい一方で、かなり条件が複雑で極めてハードルが高いものとなっています。細かい条件については、ここではあえて踏み込みませんが、コロナで苦境に立った企業が、新たに新規事業や新規市場に事業の主体をシフトしていくことを後押しするものです。

ところがこの補助金は適用条件が厳しいため、適当に補助金狙いで計画を出せば採択されるというものではありません。それこそ社運をかけて大きく経営構造を革新する計画を実施していく覚悟が必要です。また、これが支援機関やコンサルタントが支援手数料を稼ぐビジネスチャンスとばかりに、申請代行を引き受けますといった売り込み合戦が佳境を迎えています。

私自身は元々補助金申請支援は主たるコンサルティング業務とはしていませんでした。いわゆる士業の中には補助金・助成金アドバイザー一本でビジネスに特化されている方も多いですが、本来は経営支援によって成長発展にどう貢献するかというのがコンサルタントとしての使命であって、補助金・助成金採択のために申請書類作成を手伝って手数料をいただくことに何か本質とは違うという違和感を持っておりました。

国が支出する補助金や助成金の原資はもちろん私たちの税金です。なぜ国がこのお金を企業に交付するかといえば、将来の大きなリターンを目指した「投資」のためです。ところが以前から指摘されていることですが、この補助金や助成金の投資対効果は非常に低いのです。その効果を高めるために、生産性条件をつけたり雇用条件をつけたりして、生産性や雇用を増やす計画には特別枠として交付金額が大きくなるような仕掛けもされています。しかし、その目論見はうまく機能しているのでしょうか。

実際、補助金や助成金採択に卓越した能力を発揮する企業がいます。とにかく国、地方問わずありとあらゆる補助金や助成金を探求し、本業よりも補助金・助成金に血眼になって、いかにしてコストをかけずに国や公共機関からカネを引っ張ることができる素晴らしい事業計画を作成して採択できる企業がいるのは事実です。

認定経営革新等支援機関は本当に支援できる力があるのか

事業再構築補助金の申請にあたっては、企業は「認定経営革新等支援機関」と一緒に事業再構築の事業計画を策定して申請することが求められています。また、コロナ対応のための一時支援金においても、認定経営革新等支援機関に事前確認の役割が求められています。

因みにこの認定経営革新等支援機関とは、商工会や商工会議所など中小企業支援者や、金融機関、公認会計士、税理士、弁護士、中小企業診断士などに対して国が認定することにより、それら機関が補助金申請や経営革新計画策定支援を受けやすくするためのものです。

昨年8月末時点で36,726機関あり、そのうち「税理士・税理法人」が22,512機関あり、「公認会計士・監査法人」まで含めると24,791機関と税理、会計業務支援機関で67.5%を占めます。他に商工会・商工会議所や銀行などの金融機関、弁護士、中小企業診断士、そして中小企業の経営革新支援に実績のある民間コンサルティング会社が認定されています。またそれ以外にも行政書士や社労士など他の士業であっても、中小企業大学校で支援者研修を受けたり、経営革新計画に主体的支援の業務を行った実績があれば認定されることもあります。

一般にこの認定経営革新等支援機関は、経営のプロ集団として、企業が相談して(国の政策に沿った)経営計画を策定することで、正しく現状を把握し、課題と対応策を明確にすることができるメリットがあるとされています。

ただ、口幅ったい言い方になるかも知れませんが、経営のプロ集団といえるのは36,726機関のうち、いったいどれだけいるのか甚だ疑問です。確かに全体の7割近くを占める税理士や会計士、金融専門の銀行などは財務・税務面でのいわゆるおカネの専門家であることは間違いありません。しかしこの専門家が事業再構築の経営革新計画を策定支援するスキルはどこまであるのでしょうか。マーケティングや販路開拓、組織マネジメント、人材育成や人事労務、ビジネスプロセスといった経営全体を俯瞰して新たな事業分野での経営革新を支援するには、専門家のネットワークを活用する必要があります。

認定経営革新等支援機関であったとしても、経営全般から助言できる能力を備えているのは中小企業診断士ぐらいではないかと思うのです(他の士業から怒られるかも知れませんが)。事業再構築のためには、最低でも企業のSWOT分析から新規事業分野におけるポジショニング戦略をきちっと立て、後発でも勝てる納得性のある経営戦略があって、初めて収支の根拠ある経営計画が策定できるのです。

「事業再構築補助金の申請代行をします」に騙されるな

補助金規模が大きいため、認定経営革新等支援機関のみならず、民間コンサルタントや社労士、行政書士まで入り乱れて補助金申請支援のセミナーや売り込み活動の激しさが増しています。しかし確実に言えることがあります。「事業再構築補助金の申請代行します」という売り込みをしているところはまずやれる能力がないと考えて間違いないです。

国が求めている事業再構築の適用条件を満たし、補助金の支給を受けることができたとしても、実践できなければ大変なことになることが支援代行業者には理解できていないのです。この補助金は企業が生き残れるかどうかの存続をかけた経営再構築の計画に対するものです。うまく計画を第三者に書いてもらっておカネがもらえればラッキー!というようなものではありません。

顧問先を持っている税理士が、その顧問先からの要望を受けて税務申告の片手間にできるようなレベルではないのです。だからこそ認定経営革新等支援機関の約7割を税理士が占めている現状において、支援機関が企業一緒になって事業再構築の経営改革計画を作るだけのノウハウと余裕があるのかどうか非常に疑問に感じています。多分の税理士で認定支援機関となっておられる方の大半は税理士業務で手一杯ではないでしょうか。

実際、同補助金の概要を見てみますと、中小企業診断士自身にとっても極めて難度の高い支援業務となります。しかも、中小企業診断士全員が認定支援機関ではありませんので、限られたリソースで支援ができるのかどうかが不安です。まして認定支援機関の弁護士にとっても、労力の割にはリターンの少ない支援業務になると思われます。

最近、中小企業を取引先に持つ金融機関が認定支援機関の立場から、同補助金申請の支援を行うとアプローチしているとよく聞きます。しかし、肝心の金融機関に事業再編の経営革新計画を策定する能力があるのでしょうか。本当にその取引先が自ら経営革新計画を策定して実践する組織的能力があるかどうかの見極めもせずに、補助金を貰えればキャッシュフローが少しは楽になるからといった程度の認識で、無理やり事業再構築をたきつけているところがあるように見受けられます。しかも補助金は基本的に事後払いです。事業再編で新規参入した市場で事業が再生しなければ後がなくなります。いたずらに債務を増やして抜き差しならない状況に追い込みかねないように、金融機関として取引先企業の経営戦略をきっちり助言できるアドバイザーとともに事業再構築支援に取り組んでもらうべきではないでしょうか。

決して、補助金を貰えるから事業再構築に取り組んでみるかといった考えは安易すぎます。一歩間違えれば真っ逆さまに!?

今月15日よりいよいよ第一次公募受付が始まります。予算規模が大きいので注目を浴びていますが、これだけの条件ハードルが高い事業再構築の経営革新計画をクリアできる企業が一体何割ぐらいあるのか、もう少し様子を見ることも一つの選択かも知れません。

因みに、私は中小企業診断士ではありますが、補助金申請支援はコンサルティングの本来の使命ではないと考えているので、支援先企業のパートナーとして共に経営革新を行っていくうえで補助金支援による貢献が必要と判断するときまでは、当面認定支援機関の登録申請はしないつもりでいます。