コロナ終息後を見据えてやるべきこと
ようやく日本でも緊急事態宣言が出される見通しとなってきました。緊急事態といっても日本以外の諸外国が実施しているような強制力のある禁止措置が取られるのは限定的です。「日本では法律上できない」ということをよく耳にしますし、国というよりも政権に私権制限の権利を持たせると怖いという抵抗感が国民の多くにあり、憲法にすら非常事態条項がありません。そのため外国からの武力攻撃など国家存立基盤事態に直面したとしても、国民の命よりも人権が大事というような本末転倒した憲法改正に関する議論が前面に出てきます。今回のような感染症による非常事態にあっても、一切強制力を持たない自粛ベースでの対応しか取れないため、感染拡大が爆発する懸念が迫ってきているのに補償がないからと集客イベントを主催して若い人たちの間から感染が広がったり、夜のナイトクラブやスナック、カラオケなどの経路がわからない密接空間から感染が拡大しています。緊急事態宣言が出されてももう爆発的感染は避けられないでしょう。
罰則を伴う規制を行うのには日本人にとっては抵抗感が大きいとは思いますが、緊急事態においてもふらふらと町を出歩いて飲みにいったり、パチンコしたりしている人を見ると、世界から見た日本人の切迫感のなさを感じるのです。アメリカやイタリアで起きている爆発的感染者数や死者の数を見ても、日本人はどこか他人事に思っている感覚が鈍い人が多いように感じるのです。
日本を除くほとんどの国の対応を見ると、ほぼ緊急時以外の外出は制限されています。「コロナ疲れ」か何か勝手な理屈をつけて、密集・密接・密閉でなければいいと、地方にキャンプや釣りにいったりジョギングなら問題ないだろうという人が多いのは、外国から見ると全く信じらない現象です。海外各国ではジョギングは取締り対象です。犬の散歩でも不要不急と咎められる行為です。マレーシアでは警察の制止を無視してジョギングした日本人4人を含む11人が逮捕されました。中国では中国系外国人がジョギングをしていたところを止めるように言われたことに従わない様子がSNSにアップされて批判され、結局国外退去だけでなく勤めていた外資系会社からもクビとなりました。
ベトナムは必死に食い止めているが
一方、ベトナムでは感染者数がまだ少ないので、実際日本のマスメディアで報じられることはあまりありません。4月1日現在で感染者数はまだ212名で死者はまだいません。厳格な水際措置や国内での感染対策が効果を上げていると思われます。ベトナムで初めて感染者が見つかったのは1月下旬で、ベトナム政府は初期段階から、中国からの入国制限や、クラスターとなった北部の村を一時封鎖するといった対策を矢継ぎ早に実施したことで、一時は2月半ばから3月上旬にかけて約3週間、感染者を1人も出さない状況が続きました。しかし、3月上旬に欧州からベトナム航空のビジネスクラスで帰国した女性に感染が確認されると状況は一変し、外国人旅行者、海外からの帰国者を中心に一気に感染が広がったのです。
景気の減速が懸念されても、ベトナム政府は何としても水際で食い止めるため、どんどん厳しい制限措置が打ち出され、警戒を緩める気配はありません。このスピード感は日本とは比べようもありません。3月下旬には外国人(外交官など除く)の入国を全面的に停止
するなど、水際措置を一段と強化しました。今ではあらゆる外国人の入国が事実上禁止となっています。国内でももちろん罰則付きで商店の閉鎖命令と移動制限が実施されています。レストランなどは店舗の営業を休止しており、街中はテト(旧正月)休暇がずっと続いているかのように静まりかえっています。スーパーなどに買い物に行くことは許されるのですが、人影はまばらで、個人消費が一段と冷え込んでいます。
消費市場の問題に焦点があたっている印象が強いですが、政府の厳しい対策を受け、製造業でも生産活動を自粛する動きが広がっています。米フォードが生産休止を発表したのに続き、トヨタ、ホンダなども操業を一時中断しました。ベトナム政府は工場の稼働を認める考えを示しつつも、一人でも感染者が出た場合にはすぐに閉鎖すると警告しています。多くの事務管理系の職場では在宅勤務に切り替えているものの、生産現場への
影響は相当深刻になってきています。
こうした情勢下で発表されたベトナムの1~3月期の実質GDPは前年同期比3.82%増と、「過去10年間で最も低い伸び率」(統計総局)となった模様です。中でも感染拡大の影響がはっきり表れたのが、運輸・倉庫と宿泊・外食サービス分野で。入国制限を受けて、航空各社は国際線を相次ぎ運休にしたことで外国人旅行者数は18.1%減少し、宿泊・外食サービス販売額は9.6%減、観光収入も27.8%落ち込みました。今後さらに低下していくものと予想されています。
予測されるベトナム経済への影響
ベトナム政府はウイルス感染の拡大を防ぐため、1日から15日間外出を自粛するよう国民に呼び掛けたほか、ショッピングモール、レストラン、バーなど不要不急の事業の2週間休業も命じた。このため、多くの店舗を持つチェーン店では売り上げがない中、家賃コストがかさみ、その多くは、今後1、2か月の間に経営が行き詰まり、人員削減や店舗閉鎖が加速して多くの労働者が職を失うと懸念されていると予測されています。
消費市場にとどまらず、ベトナム経済の屋台骨を支える製造業に深刻な影響を及ぼしています。欧米、中国の需要低下による輸出の低迷が顕著になってきました。また製造業の62%に部品や資材の供給網であるサプライチェーンに影響があると回答しています。米格付け大手のムーディーズ・インベスターズ・サービスはこのほど、新型コロナウイルス感染拡大がベトナムに与える影響について「国内感染がさらに拡大すれば、ベトナム経済はかつてない困難に直面する」と警告する見方を示しました。この中でムーディーズは、感染の影響は今のところ他のアジア諸国に比べて小さく、国内感染も限定的だとしながらも、主要貿易相手国の経済活動が鈍化しており、ベトナム企業は需給両面で衝撃を受けていると分
析。政府が外国人の入国を原則禁止し、観光産業への悪影響は拡大すると悲観的な見方を示しました。また、外出自粛が求められているために国内消費も細り、失業率が上昇し、借り入れ需要は縮小するという見方です。ただ、悪影響の程度は感染拡大がどれくらいの期間継続するかにもよるとし、それを現時点では誰も予想できないのです。
コロナ終息後に向けて
ベトナムも日本も今やるべきことは、何としても国をあげて感染拡大を食い止めることです。しかし、産業界、企業レベルで考えるべきことは、国に経済支援を求めるだけでは生き残れません。いつかはコロナ問題は終息しますが、いつ終わるのかは誰にもわかりません。その状況にあってまず最優先に取り組むべきなのは、何としても会社と従業員を守り切るためにやれることを全てあることだと思います。サービス業などでは売り上げが一気にゼロになってしまう中小事業者が多いため、つぶれるかどうかの瀬戸際に立たされているところも多いと思います。止むをえず従業員を解雇しなければならないこともあるでしょう。どうしたら解雇せずに済むかという回答はありません。またどれくらいまでなら頑張れるかというのも会社それぞれの財務状況によって違うでしょう。
でもこの苦境の中、世の中がどう劇的に変化しているのかをつかみ、そしてこの環境変化に対応できたところが将来一気に成功するという思いがします。外には出れない今ですが、情報はあらゆるところから入手が可能です。コミュニケーションのあり方もどんどんオンライン化にシフトしています。ネタはたくさん見えてきます。その変化をどうつかめるか、そのために今のビジネスモデルのステージをどう変えるかということがカギになってくると思うのです。
ただ確かなのは、この危機を乗り越えたコロナ終息の時には、世の中はがらっと変わっているということです。終息時には今までの顧客はいないかも知れませんし、同じ商品・サービスで以前と同じように取引できることはなくなっている可能性は高いと思います。研修・セミナーやコンサルティングも今までのやり方は通用しなくなっているでしょう。であれば、今生き残るためにやるべきことは、資金繰りを何とかすることだけではないということを痛切に感じています。
その鍵は、「国・地域を超えた顧客と提供価値とネットワークの創造」にあると思っています。