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企業は従業員教育投資をまじめにやっているのか

最近は政府が打ち出す政策の「働き方改革」というキャッチフレーズにはずっと違和感があったのですが、今年はいよいよ「生産性革命」というわけのわからない言葉には、違和感を通り越して、実務を知らない役人が言葉遊びをしているという印象しかありません。「革命」という語感からは歴史的な政治体制の革命には程遠く、いわゆる革新政党自身の有言不実行の口だけメッセージといった空虚なイメージしか持てません。

おそらく企業経営者のほとんどは「生産性革命」といってもピンとこないのではないでしょうか。少子化による人口減少の中で、働き方改革」の行き着くところは、一人あたりが生み出す付加価値である「生産性」を人口減少のスピード以上に高めていくことで、GDPが減少して社会が持たなくなるのを食い止めることにあります。GDP=労働者一人あたりの生産性 X 労働人口という経済成長の単純な算式を満たすには二つしか方法がありません。それは働く人を増やすか、働く労働者が生み出す付加価値を高めるの二つです。

生まれる子供の数が年を追うごとに減少していくのを放置していくと、将来国、社会を支えることはできません。少子化が加速している今、労働者不足だけではなく、事業を承継する経営者も不足し、どんどん企業数が減っています。企業が減って、労働者が減っている社会では税収も低下し、地方の過疎化がどんどん進んでいるのが実態です。そのために労働者数を何とか確保しようと、女性、高齢者の活用を広げていくための「働き方改革」であり、「外国人労働者の増加」なのです。

そこで欠けているのが、「生産性」の向上取り組みです。国の政策としては、中小企業を中心にIT化投資への支援であったり、モノづくり設備の新規投資を後押しすることで、企業がより高い生産性を実現して、賃金上昇も達成することで消費市場の活性化を目指しています。しかし、これらはあくまで設備投資の範疇です。もちろん設備投資を行うことでより高い付加価値の製品を作り出すことができます。「生産性革命」で取り組もうとしている今年度の予算概要を見ても有形資産への投資支援です。

教育は最も効果の大きい生産性向上投資

以前から企業は内部留保を貯めすぎていることが指摘されてきました。内部留保とは自己資本のうちの過去からの累積剰余金を意味しますので、現金を貯めているというのとは全く違くのですが、事業投資に振り向けずにどんどん預貯金残高が積みあがっている企業は、ある意味社会的責任を果たしていないということも言えます。

企業経営においては人件費は固定費の多くを占めるため、人に関する費用を何とか抑えようとする意識が働きます。社会保険料の負担も大きいため、昇給も抑えようとするだけでなく、人をコストとして考えがちです。ここに経営の大きな誤解があります。確かに財務諸表においては人は損益計算書におけるコストとして把握されます。ところが、人は重要な経営資産でありながら、損益計算書上にもキャッシュフロー計算書だけでなく、貸借対照表にも一切資産には出てこないのです。流動資産でもなく、固定資産でもなく、そして無形資産でもないのです。人件費総額というコスト面でしかわかりません。しかし同時に人は投資なのです。企業は人がいなくては事業ができません。人が付加価値を生む源泉です。でも、人それぞれがどれくらいのコスト(人件費)でどれだけの付加価値(生産性)を生むかという決まった算式はありません。人を教育して能力を高めることで、より高い付加価値を生む存在になるのです。

でも、人ほど不確実性の高い投資はありません。人ほどコストに見合った能力と付加価値を発揮してくれるかどうか保証のない投資はありません。設備投資はある程度、投資によって結果が見通せます。つまり投資収益性が計算できるのです。しかし、高い給料の人材が付加価値の実績を上げるとは言い切れません。一方、能力が高い人材を育てても、採用しても、能力を発揮して実績につながるかどうかは、能力の高低だけの要因ではなく、本人のモチベーションや適切な適材適所での人材活用による人事管理の優劣によって付加価値は大きく結果が異なってきます。

つまり、「生産性革命」なるものを本当に実現しようとするのであれば、有形資産投資への政策に傾注するのではなく、もっと人材の質向上への教育投資や組織革新への投資に着目するべきではないかと思います。生産性向上には教育投資が最も効果が大きいといえます。

日本企業の教育投資は貧弱

人をコストとしてしか見ない企業が多いためか、日本企業の教育費は、欧米企業と比較すると1/3のレベルです。欧米企業は研修費を除いた人件費総額の3%を教育関連投資に振り向けている一方、日本企業はわずか1%しか投資していません。大企業と中小企業では差がありますが、実質中小企業ではほとんど教育に予算を振り向けていない実態があります。

中小企業にとっても人は大事だという意識は高いですが、一方でどういう教育訓練をやっているのかという質問に対して、その多くの回答は「OJTとoff-JT」を組み合わせてやっているが、Off-JTの研修では仕事への効果が見えないとOJTを中心になってやっているとの声が多いのです。ところが、実態は上司に仕事を指導してやっているというだけで、OJTの教育体系も確立しておらず、指導者に対する教育研修も何もやっていません。従業員教育は口では重要と言われても、実際には投資でなくコスト意識から脱皮できていないため、全く生産性向上の成果につながらないという現状が浮かび上がります。

それではどの人材にどのような教育、研修を行うべきなのでしょうか。適当に公的機関が開催している教育セミナーに従業員を参加させても効果が薄いです。企業の経営課題も事業領域も、組織構造も従業員レベルも経験も違うのです。そのあたりの画一的な研修プログラムを提供している人材育成コンサルタントの言うがままに研修を依頼するだけでは無駄な投資となってしまうでしょう。

経営実践経験のある経営コンサルタント自ら企業の人材育成課題を分析し、最適な研修を企画提案して自ら指導できるところと人材育成顧問契約する協力関係を結んで取り組むのが一番効果的だと思います。

人材育成を生産性効果につなげるカギ

人材の生産性効果は最も不確実な投資です。しかし最も大化けするのが教育投資であることも事実です。人材の生産性効果は、「能力」X「モチベーション」の掛け算で結果につながります。

どんなに能力の高い人材に恵まれている企業でも、人を最大限に生かせる仕組み、最適配置がなければ宝の持ち腐れです。一般に大企業は優秀な人材を根こそぎ確保しているにもかかわらずその人材を生かし切れていないところがほとんどです。いくら従業員の能力が素晴らしくてもトップが企業戦略を間違えて生かしきれずにリストラしてしまったり、窓際で飼い殺ししているのは社会に対する背信行為といってもよいのではないでしょうか。リストラや早期退職で大企業を離れた人材が生き生きと中小企業の経営を引っ張っているという姿を至るところでみます。

教育訓練で従業員の能力をいかに高めようとも、やる気を最大限に引き出せる風土、人間関係、処遇、成長戦略が確立していない企業では、生産性革命の効果はほとんど望めません。

能力はゼロ以上の数字で測定、評価は可能ですが、モチベーションは評価は非常に難しいです。1から5といった整数では評価すると間違えてしまいます。モチベーションはマイナスがからプラスまで大きくぶれるのです。つまりマイナスのモチベーションは、どんなに高い能力があっても、何倍ものマイナスが増幅してしまいます。

しかも難しいのは、モチベーションは研修で高める効果は非常に低いということです。いくら研修をさせてもモチベーションは高まりません。本人のやる気を高めるには、処遇も大事ですが、最も大きな影響を与えるのは、経営者、幹部との人間関係です。その意味でも本人に対する研修よりも経営者、幹部のマインドセット研修や評価者訓練が非常に大事であるのです。