10年後のビジョンをつくろう
10年ひと昔と言いますが、現在の10年間の変化は想像をはるかに超えています。今から10年前に、果たして現在の世の中の変化を先読みできた方はいったいどのくらいいたでしょうか。まさしくiPHONEの第一世代が出てから今年で11年になるのですが、この10年はスマホにあらゆるサービスや機能が凝縮され、アプリによって私たちの暮らしが一変してきたともいえるのではないでしょうか。
スマホにクレジットカードが入り、ポイントカードも入り、交通ICカードの機能も取り込まれ、物品の購入も決済もこの小さな画面で全てが可能になるような姿は誰が考えていたでしょうか。10年以上前の通勤電車では、ぎゅうぎゅう詰めの中を必死に新聞を折りたたんで読んだり、漫画や雑誌を読んでいる人が多かったように思います。それが今ではどうでしょう。電車の中で新聞紙を広げて読んでいる人は非常に減っています。だいたい8割ぐらいの人がスマホを見ているのではないでしょうか。情報もほとんどがネットで入手できるようになり、売買も決済も、コミュニケーションも全てスマホで完了できる世の中になったのです。漫画や雑誌もネット配信で読めますし、TVの番組も配信サービスがあります。以前は何かモノを買いたい、どこかへ行きたい、ホテルやレストランを予約したい、と思ったら、情報をある程度集めた後は、実際にモノを置いていて安く買える店を探し求めてショッピングに時間を費やしたり、電話をかけまくってチケット確保に走ったりしたものでした。これがわずか10年前の私たちのライフスタイルだったわけです。
ところが買いたい本があったとして、わざわざ大きな書店で探し回る時間そのものが無駄に思えるようになり、最近ではAMAZONで一発で探せ、ワンクリックで注文、決済が完了し、翌日には自宅に届けられるのですから、既存のビジネスモデルはこの10年で根本から覆ってしまうのは、誰も想像できなかったのではないでしょうか。余程特徴のある物品販売の小売り業以外は成り立たなくなり、既存のメディアである新聞やテレビなどは見る必要がない時代になってきました。モノづくり産業も機能を形にして機器を売る商売では儲からなくなる一方、肝心の市場を支える生産者人口が少子化によって急減している中、消費が一気に冷え込むのはほぼ避けられない流れになっているのです。
10年先に求められる顧客価値とは
この10年で起きたすさまじい地殻変動は、今後私たちの暮らしや価値観をさらに根本から変えてしまうことになるのです。企業自身もまたそこで働いている労働者、消費者が今こそ真剣に考えなければならないこととは、果たしてこれからの10年先、今の延長線での発想や行動で生き延びることができるのかということです。「今までやってこれたんだから、何とかなるやろう」という甘い考えでは、「どうにもならない」危機が目の前に迫っているのを強く感じるのです。
明らかに顧客が求めている価値は、その形や質を大きく変えているのです。世の中にモノがあふれかえっている今、多くの人はモノを買うことに価値を感じなくなってきています。多くの人がお金を出すのを惜しまないこととは一体何でしょうか。何に対して満足感を得るように変わってきているのでしょうか。この顧客価値の変化を突き詰めて考えることによって、どのようなビジネスが、どのような生き方が価値あるものとして世の中から支持されるものなのかがわかってくるのです。
10年後のビジョンが必要な理由
私が現役時代に勤めていた会社でも毎年経営計画の策定に携わっていました。来年の事業予算の基盤となる事業計画、そして中期の経営の方向性や投資の基本計画となる中期計画、そして将来目指すべき姿を考える長期計画がありました。単年度の事業計画や中期計画では、これからの取組みのために将来予測の正確性が求められます。一方、長期計画、特に10年スパンでビジョンを考えていく長期計画では、なかなか社内でも先を読めている人は少なかったと思います。事業を超えた視点で世の中の変化を感じ取り、どう会社経営の将来構想に結びつけて長期戦略の構築を図るには、社内の知見だけではかなり厳しい取組みになります。社内で議論しても、ほとんど5年以上は先が読めずに、中期の延長線上でストーリーを作るだけに留まるのが実態ではないでしょうか。
しかし、過去10年の変化を真剣に振り返るほど、社内の知見だけでは、企業として生き残っていけないのではないかという危機感を持つべきだと思うのです。技術革新はどこまで進むのか、その技術革新に人口動態や価値観の変化を組み合わせたとき、今の業界はどのような姿に変わっていくのか。その業界が主要と考えていた顧客がどう変わっているのか、規模はどうなっているのか、顧客が求める価値はどうなっているのか、そもそも価値提供のビジネスモデルはどう変化しているのか・・・。こういった外部環境の変化について、できる限り多くの外部知見を取り込み、企業としてのあるべき姿から生き残るための条件をひねり出し、それを達成するためのビジョンと戦略を打ち立てなければ、座して死を待つのみではないかと思います。
今や、大企業はもちろんのこと、中小企業であっても、10年先のビジョンを持たないと、企業として存続することは難しくなってくるのは間違いありません。10年先、今の顧客は存在していますか? 10年先、皆さんの強みは通用していますか? 10年先、皆さんの会社で働いてくれる人はいますか? 10年先、どのような能力を持った人材を確保しておく必要がありますか? 10年先、経営者ご自身は頑張れますか? バトンタッチする人は決まっていますか? ・・・そして、そもそも皆さんの会社は何のために世の中に存在しているのでしょうか。
最近、私のような零細コンサルタントに対しても、大手新聞社から広告枠を特別価格で買いませんかという営業の電話がよくかかってきます。どのような業界でも広告宣伝の効果はありますが、その費用対効果の構造は、ネット広告の出現に伴い、根本から変化してきているのですが、紙媒体でしかも購読者数が右肩下がりでどんどん減っている新聞に加え、多チャンネル化と視聴者数の減少にもかかわらず、質の低い番組を垂れ流しているTV局などの既存メディアが提供する広告価値の劣化に、断末魔の叫びを感じるのは私だけでしょうか。