中小企業の事業承継問題と海外事業
今、日本のモノづくりの将来が危機を迎えていると言われています。中小企業は法人数382 万社のうち、99%の 381 万社を占め、従業員数も 3,361 万人で労働者の 70%を支えています。日本経済の基盤そのものです。大企業も中小企業が生み出す高付加価値商品がなくては生き残ることすらできません。まさしく日本の先端技術とモノづくり産業の成長発展を支えてきたのが中小企業である言えます。
中小企業が存亡の危機
その中小企業が「事業承継問題」から存立の危機を迎えています。事業承継とは子供の世代に経営を継がせる税務対策だけが問題ではありません。次世代にモノづくりの技能やノウハウをつなげなくなってきているのです。日本経済にとっても由々しき問題です。ところが、国や公的機関が実施する中小企業振興政策は、補助金や投資優遇税制などを中心に組み立てられています。はたしてそういった政策が真の産業の強化につながるのでしょうか。中小企業の経営立て直しに有効なのでしょうか。他に展示会支援やアドバイザー派遣などの支援策も実施されていますが、もっと深刻な問題に対して根本的に手が打てていない問題があるのです。
まず、中小企業がこの数年どのくらい業績が推移してきたかを見てみます。
2017 年度の中小企業白書によれば、中小企業の経常利益は過去最高を記録するものの大企業に比べて伸び悩みとなっており、売上推移ではリーマンショックの影響から一旦立ち直った 2011 年から右肩下がりで低迷し、2013 年からほぼ横ばいです。景況感も改善の傾向にありますが、ずっとマイナスが続いています。
中小企業数で見れば、2009 年では 420 万社、2012 年には 385 万社に減少し、2014 年では 381 万社と推移しています。毎年、企業数は毎年約2万8千社減少しています。そのうち約8千社がいわゆる業績不振による倒産ですが、残りの2万社が事業承継できなくなって休廃業となっているのです。 90 年代後半あたりから加速した電機産業や自動車産業の海外展開に伴い、中小企業の海外展開比率が上昇しています。ところが、中小企業の売上高が低迷を始めた 2007 年あたりから連動して、海外展開比率の上昇にブレーキがかかっています。
日本市場のデフレにより業績が厳しくなってきたため、海外市場まで取り組む余裕がなくなってきたとも言えますが、反面、成長市場の舞台が海外に既にシフトしているにもかかわらず、国内市場に留まり続けている中小企業の経営そのものが、全体の売上の伸び悩みにつながっているとは考えられないでしょうか。
結果的に大企業の海外現地での需要を取りこぼし、伸びている海外市場を取り込めなかったことで、企業としての成長発展に活かしきれていないとも言えます。
今後の事業承継はM&Aと海外展開で対応
既に、日本の人口は減少局面に入っていますが、その影響は今後ますます加速していきます。一番深刻なのが総人口の減少よりも生産人口比率の急激な減少です。働き手が少なくなるということは、消費の中心となっている人口が減るということですから、家も売れなければ車も家電製品も売れないため一気に景気が減速します。人手不足に対してどう外国人を入れていくのかという議論もさることながら、消費が冷え込むことの方がより深刻です。
事業を継承するにしても販売先を確保して成長させるにしても人の確保がまったなしです。はっきりしていることは日本人の数が減っていくということです。どうすればよいのでしょうか。労働力も事業継承者も、そして市場も海外に目を向けなければ生き残れないということです。
労働力が不足し市場が小さくなるということは、会社の数は間違いなく右肩下がりの傾向が続きます。2035年には会社の数も国内販売も半分で十分ということになります。そうなるとどういうシナリオを描かねばならないのでしょうか。
事業承継の問題から今後M&Aが一気に増えてくると思います。会社の数を減らし大きな事業単位に収斂させることで、シナジー効果による事業規模の拡大と成長戦略の実践が大きなトレンドになります。第一後継者がいない会社が増えているわけですから、単に廃業に向かうのではなく、従業員の雇用や技能を次世代にバトンタッチしていくためにも、国策としてM&Aを加速させねばならないと思います。
もう一つのシナリオは、一気に海外展開による海外市場での販売を拡大させることです。経産省はTTP対策という政治的背景から、世界に打って出る日本ブランドで輸出を推進する政策で、「新輸出大国コンソーシアム」というような非現実的で効果の薄い(と私は感じています)支援制度を実施しています。事態はもっと深刻です。中小企業のノウハウ、事業基盤を次世代に継承させる意味でも、もっと海外市場でどう戦うか、そのためにどう海外に投資してどう経営をグローバルに発展させていくか、ここにもっと支援の中軸を置くべきです。中小企業の灯りを次世代にバトンタッチできなければ、日本経済は「はい、終了~」になってしまうことを懸念しています。