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中小企業が生き残るには海外事業が命運を握る

中小企業がコロナ後に生き残るためには事業を抜本的に再構築を図らねばならないという危機認識から、今年は過去最大規模の補助金である「事業再構築補助金」や、過去からのコロナ対応型の拡張としての「ものづくり補助金」「IT補助金」「小規模事業者持続化補助金」など、かつてないほど多種多様な補助金公募が実施されています。

これらの補助金申請の支援を通じて事業の持続発展や再構築で産業構造を大きく変革していることがその要件とされているため、企業にとっても企業支援専門家や金融機関にとっても、コロナをきっかけに企業経営の革新を実現するための活動が期待されています。

ただ、過去最大の予算を投入するわりには、政策効果として果たしたどうかという印象があります。これらの補助金の実施主体者は経済産業省の中小企業庁です。私が違和感を感じるのは、これらの制度の視点がどうしても「日本国内」を向いていることです。日本経済の深刻な構造的問題の根元にあるのは「少子化による人口減少」です。消費者も労働者も減少することで市場が縮小し、生産人口も減ることは避けられず、その結果余程一人あたりの生産性革新を起こせない限り、GDPは低下していく、つまり国としての経済縮小は確実に起こりうる未来です。

だからこそ今までの事業に固執している限りは国が衰退していく不都合な真実を何とか回避できないかと、国として過去最大の補助金を突っ込むので、民間企業に事業再構築で生産性革新(国が表現している生産性革命という言葉には違和感がありますが)を起こさせようとしているのです。

今の補助金制度で生産性革新は可能なのか

一番大規模な補助金制度である「事業再構築補助金」は、第一回の申請に対する採択結果が出ています。全部で4回ほど公募が行われる予定です。現時点では第二回公募に対する審査中で、おそらく八月の中下旬には採択結果がでると思います。そして第三回目の受付が八月末から開始されることになっています。

他のものづくり補助金も主旨は少し異なりますが、だいたいどういった要件が必要であったり、審査基準などからも割合共通した採択されるための必要条件ということはつかめます。どのような案件が実際に採択されているかについては、採択結果について全て中小企業庁のHPで案件名が公表されていますし、どのような事業計画書が要望されているようなものかについても事例が出ています。ここさえ十分分析すれば新規案件の採択率はほぼ確実に高まります。

この採択事例を見て感じたことがあります。今の日本企業の内向き姿勢です。第一回採択された企業の事業再構築テーマを見ると、ほとんどが国内事業から一歩も国外に出ないものばかりでした。採択された数千件全て見たわけではありませんが、海外市場に目を向け海外事業展開で再構築を図っていこうという事業再構築案件はまず見かけません。国内事業での再構築ばかりの案件に、巨額の税金を投入する補助金が中小企業全体の成長発展のリターンにつながってくるのでしょうか。

確かに海外事業でグローバルに打って出る事業再構築で苦境を乗り越えていくのは困難だと思います。海外市場といっても販路も持っていないし、海外取引をやれる人もいない、リスクも大きすぎる・・・。しかし、日本の産業構造は大変革待ったなしです。自動車産業を支えてきた多くの中小製造業者にとって、クルマそのものがEV化そしてデジタル化が加速的にかつ現在進行形で事業環境が大変革するのは確実で、仕事そのものがなくなってしまう可能性を考えた場合、事業再構築の視点を日本市場に求めている限りは限界があると思うのです。

しかし採択された事例を見る限り、自動車製造事業が構造的に変化していくことに対し、もっと精密加工技術を極めるために高度加工製造装置を導入することで、今後伸びる市場の航空宇宙用部品やロボット用部品、医療機器用部品の市場開拓に挑戦するといったようなものが、事業再構築補助金やものづくり補助金に典型的にみられる事例です。ところが、日本での製造加工という土俵から一歩も出ていないように感じます。航空宇宙、ロボット、医療といった今後世界的に拡大が期待される市場に対して、日本の製造業の多くの経営的視点は、日本での取引先ニーズや製造加工技術から再構築していくというものです。

これは単に一つの例に過ぎませんが、他の採択案件を見ても似たり寄ったりのところがあります。

日本企業の成長発展は海外展開の挑戦の歴史が礎

かつて日本企業がグローバルに事業展開に舵を切った転換点は1985年度のプラザ合意による急激な円高でした。輸出加工貿易の経済構造で高度成長を実現してきた日本企業が、このまま日本でモノづくりをしている限りは生き残れなくなる強烈な事業環境変化でした。

急激な円高に対応するべく汎用品を中心に製造を国内からアジアにシフトが進みました。85年度時点でわずか海外生産比率は2.9%だったのが、海外生産の加速化が進み、96年には10%台、2012年には20%台まで高まりました。ところが円ドルレートが近年は100円台と安定していることで、以降は25%前後で足踏みしています。

また米中貿易リスクの顕在化とコロナ危機によって、サプライチェーンの見直しの必要性や、イギリスのEU離脱、ミャンマーのクーデターなど海外リスクが高まる中で、企業活動は国内回帰の傾向も強まってきました。しかし、日本からの輸出競争力が低下する中で、海外事業による収益モデルの確立や投資収益を確保していかなければ日本経済は立ちいかなくなる懸念があります。

日本経済は国内消費に支えられているから、外需依存の他の国と比べて経済的に安定しているという専門家の意見をよく聞きます。でも、少子化が加速することは確定している日本経済にとって、国内需要に依存している経済構造では早晩立ちいかなくなります。

コロナ禍の今こそ海外にもう一度視点を戻し、「海外でいかに儲けるか」「海外でいかに成長していくか」の観点からの事業再構築が待ったなしのような気がするのです。特に、日本にとってASEANはプラザ合意後に加速した海外拠点のクラスター地域です。海外現地法人の累積経常利益を算出すると、ASEANは欧米や中国を凌ぐ最大の収益源です。製造業では中国での経常利益がトップ、非製造業では米国がトップとなりますが、全産業ベースではASEANが最重要地域です。

どこでどう展開するのが最適かについては、個別の業種や企業によって違ってきますが、プラザ合意やリーマンショック以来の劇的な事業環境の変化に直面しています。しかもコロナ禍による窮境に加えてDX革命が同時に起きているのです。このままでは顧客も市場も気がついたときには消滅してしまっているほどの激変です。

事業再構築を通じてビジネスモデルを変えないと生き残れないという危機感を多くの経営者が持っています。しかし、その革新するビジネスモデルを考えるときに、いつまでも日本国内に留まっていては行き先は見えてこないように思います。

ただ、残念ながら今の認定支援機関のほとんどは海外に精通していない地元の商工会議所や地域金融機関、または税理士です。中小企業診断士も海外事業展開の支援経験者は非常に少ない状況ですが、全国的に海外事業支援専門家のネットワークづくりに取り組んでいます。

中小企業が生き残るには海外事業が運命を握ると思っています。今こそ海外事業展開への挑戦を!