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日本企業が大事にする価値観と外国企業の感覚のずれ

日本企業や日本人にとっては当たりまえのことで、なかなか外国企業の経営者には理解されないことがよくあります。これらは商習慣の違いだけではなく、文化土壌や常識に対するずれが原因となっているときがあります。これは外国企業との取引や契約交渉において表面化してきます。この違いの原因を予め理解したうえで外国企業とつきあったり交渉する必要があります。私も過去外国企業と取引や契約の交渉を行ってきた経験があります。そのたびにうまくいかないことにいらいらしたり、相手の不誠実さからやってられないと何度も思っていました。

現在、ベトナム人の経営者を対象としたビジネス研修での講義を行っていますが、研修では日本企業といかにしてビジネス関係を作っていくか、そして日本企業と取引するための最低条件について、日本人が大事にする価値観から理解してもらうようにしています。

日本人が大事にする価値観については、人によって考え方が違うと思いますが、私自身長年の外国人との付き合いを通じて一番日本人の感覚とギャップがあると思われるのが二つの価値観です。

その価値観とは「信頼」と「時間」です。

一般に企業間取引では、サプライヤーに求める条件には、
Functional Value (機能価値)
Quality (製品・人・システム品質)
Cost (グローバル価格競争力)
Delivery (オペレーショナルエクセレンス)
が重要ですが、特にDeliveryには、Lead Time <短納期>だけでなく、Flexibility<柔軟性>、Quick Action<迅速対応力>、そしてAccuracy<正確性>が求められます。普通、機能価値や品質、コストは取引の前提条件であり、ここの条件に合わないところは最初から検討対象外です。むしろ、Deliveryこそが企業競争力の差別化要因となります。Deliveryには企業が最も重視する価値観である「信頼」と「時間」が凝縮されています。

ところが、ベトナム始め日本以外の外国企業の多くでは、この価値観を非常に軽視しているところがあります。研修でも何度も口酸っぱく伝えてはいるのですが、日本人の時間に対する厳しさについて理解できている人は少ないと言えます。

ビジネスの場において、時間がルーズなのはもってのほかというのは日本人なら常識です。ビジネス交渉の場に遅刻してくることはあり得ません。約束した会議の時刻に遅れてくる相手はまず信用されません。短納期が競争上優位なのは当然ですが、それよりも合意した納期にきっちり納入する、サンプルやデータ提出の約束日を守ることの方がより重要です。納入には数量間違いなどを起こさない仕事の正確性、そして万が一約束通りに納入できないときや、顧客からの前倒し要請があったときなどにいかに迅速に誠意をもって対応することができるかで信頼を作り上げていくのです。つまり、時間価値の重要性を理解し、その時間に関する約束をきっちり守ることで信頼を得ていくというのは理解していただけると思います。また、単に納入におけるDeliveryを守るだけでなく、代金支払い日までにきっちり支払う、要望された問い合わせに対しては、すぐに返事対応するというように、顧客にとっての最大の価値である時間の無駄遣いをさせない取引対応が信頼を作り上げていくというのは、ほぼ日本企業の共通認識であろうと思います。

事例として説明するケースとして、例えば20人がまとまってバスに乗って企業訪問する約束をしていたとします。その中の一人が出発時刻に10分ほど遅れてきたとします。ベトナム人の間ではよくある話です。まず20人が揃って時間通りに集合するということはまずありません。必ず何人かは集合時間に遅れてきます。でも、一般のベトナム人にとっては全く違和感がありませんし、企業訪問の約束時間に結局それが理由で10分遅れることになっても、他の19名も特に何も問題を感じていません。私はこの感覚の違いを理解しない限り、日本企業の信頼を得ることはできないし、結局日本企業との取引は難しい
と指摘しています。一人が10分遅れて、その結果20人全員の出発が10分遅れたということは、10分X19人、つまり190分の時間価値をその一人が他の人から奪い取った、つまり泥棒だ(ちょっとキツイ言い方をあえてします)、と言い切ります。製造業の現場では、一分一秒のプロセス短縮を削り取り、その時間価値が利益そのものに直結します。いかに時間を守ることが重要な価値観かをわかってもらうのです。

また日本企業は取引においては、「信頼関係」を重視します。欧米企業を筆頭に外国企業は基本的に取引先を信用していません。だからこそ契約を重視し、とことんまで契約書の細部にこだわり、トラブったあらゆるケースについての利害関係を規定した契約を締結しようとします。一方、中国企業や韓国企業はさらに要注意です。いろんな見方があるとは思いますが、契約すらないがしろにし、両者の合意事項ですら反故にしてても自己優位に事を進めようとする企業が多いものです。支払い期日を意図的に少しでも遅らせて資金負担を抑えるのがむしろ当然、それをやるのが経営者や担当者の力量とすらいう企業があるので、「信頼関係」をベースに長期間での取引でともに発展していくのがなかなか難しいのです。日本企業と新たに取引関係を構築するのが難しく閉鎖劇だとよく言われます。でも、約束をきちんと守れる企業とはお互い信頼関係を発展させていこうと考えるのが日本企業の本当の姿なのです。

「信頼」と「時間」の価値観の違い、感覚のずれを相互に理解することの重要性を日々感じています。