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出版の意義

今月初めて出版を経験したことをお知らせしてまいりましたが、改めて出版の意義について考えています。

世の中で出版されている本は何十万冊もあり、人間ひとりがその本に出会うことができる数には限りがあります。また情報伝達の手段としては、本や新聞雑誌のような印刷物だけでなく、TV、ラジオなどのメディア、ネットを通じた映像やウェブサイト、講演やセミナー、コミュニティでの情報伝達など多様であり、情報はあふれかえっています。

しかも、最近では本が売れなくなってきています。情報の多様化によって、多くの情報を得ようとする場合、あえて時間をかけて本を読まなくてもよくなってきているだけでなく、少子化の加速によって人口減が深刻に影響しているものと思います。しかし、昨今のメディアの軽薄かつウソの情報でなく、本は実に幅広くかつ奥深い情報が凝縮しています。

本を出版するには、構想から企画、執筆、編集構成、入稿まで、本ができあがるまで著者から編集者、出版社まで実に多くの人の努力が必要ですし、時間も相当かかります。短期間に次から次へと出さねばならない新聞、雑誌とは全然違います。もちろん、本でも口述筆記やゴーストライターなど人をかければ短期間に出版は可能ですが、本というのは会社などで資料書類を作成するのとは全くレベルが異なるのです。言い換えるならば、執筆者の魂が凝縮しているのが本なのです。でも、難しい専門書だけが魂が入っているという意味ではなく、気軽によめるノベルでも、コミック本でも、一冊の本として出版させるものには作者が伝えたいことが読者にビンビンと伝わってくるのが本だと思います。

本は次世代への目に見える贈り物

出版した本の題名を「次世代につなぐ中小企業の海外経営」にしたのは、今を生きる我々は何を具体的に次世代に残していくべきなのかを考えるべきであるという思いからでした。

経営には4つの経営資源である「ヒト」「モノ」「カネ」「ノウハウ」がいかに重要かというのが私の経営観の基本にあります。この4つの経営資源を次の世代につなげていくことこそが今を生きるものとしての責務です。最低なのが、今を生きる「カネ」のためだけに経営をやっている経営者であって、しかも今の社会にも貢献できない赤字垂れ流しで労働力を搾取して恥じない経営姿勢は軽蔑に値するでしょう。それよりも、今持ち出しで赤字事業であったとしても、次の世代には大きく花を咲かせ、雇用にも技能を承継して発展していく人づくりに貢献できる事業こそ奨励されるべきかと思います。

本だけでなく、メディアが発信する情報やインターネットの情報も世の中の役に立ち、次世代へのヒトづくり、ノウハウ継承につながるものもあるとは思います。しかしそれらの情報は次から次へと生まれ消えていくものが多く、次世代につないでいく媒体としては本の方が遥かに貢献しているのではないでしょうか。半年前の新聞や雑誌の内容にどれだけ価値があるでしょうか。一か月前のフェイスブックタイムラインやツイッターに次世代につなげられる有益な情報がどれだけあるでしょうか。それよりも100年前の明治時代の文豪が書いた名作の方が、どれだけ多くの人を感動を与えているかを考えるだけでも本の価値の偉大さを感じます。

私自身の過去の会社での業務でも、多くの書類を企画、作成してきました。そのときはそれなりに意味のある仕事で社業に貢献できたと思いますが、今思えば、それらの実績は今の現役世代に形としてつなげてこれた仕事であったかと反省することがあります。いくら中期経営計画や長期ビジョンを策定する中心的役割の仕事をやり遂げたとしても、果たして10年先にその計画書類は、社史に使える部分を除き、書類として残している意味のあるものはほとんどありません。

会社を退職して独立後に中小企業の海外展開支援を通じ、海外事業展開のノウハウをセミナーや研修、個別コンサルなどで、次世代の発展につなげていきたいとの思いをもっていました。ただ、それらは個別企業に対するアドバイスだけでは、世の中全体へのお役に立っていないのではと感じていたところに、出版のお誘いをいただき、本という形で残すことによって、私自身がやってきたことの一端を形にして後世に残すことができるのではないかとの思いを抱くようになり、今回出版に踏み切ったわけです。

本そのものは確かにコストがかかります。しかし形として残すことは、つまり私自身が生きてきた証を世の中に残せるのです。ある面、次世代への遺言でもあるのです。まさしく本は次世代への目に見える贈り物ではないでしょうか。