飲食店経営に補助金は社会的意義があるのか
今から約一年前のブログで、「実は飲食店の経営が一番難しい」ということについて書いています。
実は飲食店の経営が一番難しい | 株式会社リープブリッジVJパートナー (leapbridge-vj.co.jp)
このときはコロナの影響によって非常事態宣言で休業を余儀なくされ多くの飲食店があえぐ中にありながらも、生き延びるために何とか踏ん張っている飲食店経営の実態を見ると、飲食店経営は実は最も高い経営能力を求められるものであり、その辺の大会社のサラリーマン社長よりも遥かに優秀でないと務まらない職業だと思っています。
ただ実態は飲食店の経営者の経営的スキルは決して高くないというのが実感です。以前のブログにも書きましたが、飲食店経営は経営のありとあらゆる要素が凝縮した非常に難易度が高い事業です。ただ、参入障壁がすごく低いのです。たとえ経営の勉強をしなくても、料理のスペシャリストでなくても、やってみたいという気持ちといくばくかの店舗開設のための初期投資の資金さえあれば誰でも始められます。サラリーマン生活に飽き飽きし、退職金を突っ込んでやってみたかったカフェを開業したいとか、(客として)好きだったラーメンとかデザートの美味しさを(私と同じように)多くの人に喜んでもらいたい、といった軽~い気持ちで始めてしまうのが悲劇の始まりです。
好きなことができて儲かる、こんな素晴らしいことはないのですが現実はそうはいきません。毎年多くの飲食店が参入してくる血で血を洗う厳しい事業です。資金繰りに投資回収、仕入管理、在庫管理、顧客開発、人事管理、商品開発・品揃え、広告宣伝にマーケティング、損益分岐点・・・経営のプロでもこれだけのことを一人で切りまわすのは至難の業です。
飲食店は大概が小規模店でオーナー一人で全てやらなければならないのがほとんどで、しかも仕事は仕込みや経営管理など、営業時間以外も内容的も時間的にも相当ハードです。経営コンサルタントなしでよくやっているなとつくづく思います。
それで、3年以内の廃業率はなんと70%、5年で80%と言われています。つまり5年先に生き残っているのは5社の内1社だけという超厳しい業界なのです。しかも今はコロナの影響が以前にも増して直撃を受けています。
補助金事業でも安易な計画が多すぎる
政府ではコロナ対応で傷ついている中小企業を支援するべく様々な補助金制度を拡充しています。モノづくり補助金やIT補助金、小規模事業者持続化補助金に事業再構築補助金・・・など、月次支援金や今月から始まる事業復活支援金など条件さえ揃えれば支給される支援金とは違い、事業をどう立て直していくかの事業計画が審査採択されて初めて交付されるというのが補助金制度です。
中小事業者の経営者自身が自ら事業を再生する経営革新計画を立てるスキルがない人も多く、大抵の方は認定支援機関やコンサルサントの支援を受けて申請されています。採択自体もそう簡単ではなく、支援機関がハンズオンで指導しても採択率は3割から5割程度といった厳しいものです。
私自身が中小企業診断士として各種補助金申請を支援する立場か、またはどの補助金の申請を審査する立場かについては明らかにはしませんが、申請される事業計画書に触れる機会は非常に多いです。おそらく累計では数百件の補助金申請の事業計画書の中身を熟読しています。
その経験から特に感じるのは安易な計画がかなり多いということです。もし私が審査官の立場なら即刻不合格判定をするようなものです。申請者の多くは、今の事業に様々な外的要因によって課題を抱えておられます。その多くが売上減少に直面しているというもので、それを打開して成長発展するために、新たな付加価値を生み売上を伸ばすべく設備投資や新技術を導入したい、新たな顧客拡大を図るためにIT技術を活用して非接触型のビジネスモデルやウェブサイトを作りたい、はたまた行き詰まった事業を再構築して新規事業で成長戦略を実践していくための投資原資を確保したい・・・といったような案件が多くあります。
ここで最も大事なのは、今の既存事業をどう革新するかという戦略抜きにはあり得ないと思うのですが、既存事業の課題を棚上げしておいて、新規事業の構想ばかりの机上計画があまりにも多いのです。
例えば、一人親方の土木・建設をやっておられる建設業者が、昨今の公共事業が減少してきたということで、もう一つの事業の柱を立てたいと、隠れ家的な高級旅館をやろうという計画には驚きました。一方で既存事業は多額の借金で債務超過状態、宿泊業の経験も人材もおらず、これから人を採用して、客単価いくらで部屋の稼働率を根拠なく60%と置き、新規事業での売上計画を算出し高い投資対効果があるというのです。
これ以外にも首をかしげることが多いのですが、新たな事業をやろうとする割には、今の事業をどうしたいのかが見えて来ず、新規事業も異業種での人材ネットワークでシナジーがあるといった「わけわかめ」なのです。またどういうわけか新規参入にあえて「宿泊・飲食業」を選んでくる経営者が多いのです。
コロナの影響が深刻な「宿泊・飲食業」をどう革新するかという計画は納得性がありますが、それも大概が判で押したようにテイクアウト事業に乗り出るというものが多く、また他業種から事業革新も「宿泊・飲食業」への参入というものが目立ちます。
投資規模が比較的小さいからかも知れませんが、あまりにも「宿泊・飲食業」の事業リスクを過少評価している経営者がいかに多いことかを感じさせられます。それほど簡単なものではないというのは廃業率の高さからも明らかです。
牛宮城の失敗から学ぶべき
多くの芸能人がサイドビジネスとして飲食店を経営する例が多いのですが、そのほとんどがうまくいっておらずいつの間にか潰れてしまっているとは思われませんか?
「牛宮城」という渋谷で焼肉店を例の宮迫博之氏が開業しようとした経緯が揉めて、結局開業できないままに破産で廃業するということがネット上で話題となっています。真実のところはわからない点もありますが、オリラジの中田氏のYouTube大学で飲食店経営がうまくいかなくなる理由について「牛宮城」を引き合いに出して潰れるのは当然と解説していました。
見解自体はいろんな意見があって当然と思いますが、飲食店の廃業率が高い原因として納得できる点が多いように感じます。
一言でいえば、原価計算と固定費のマネジメントができない経営者が、自分がやりたいことを実現するために固定費をかけすぎてキャッシュを創出できないことに尽きると思います。「牛宮城」の店づくりになぜ牛の頭の装飾品が必要なのかに始まり、店の家賃に1か月300万もかけて出店し、この家賃だけでなく人件費や光熱費の固定費と材料費を含めた経費がどれだけ出ていくのか、それを回収するための集客数と客単価をどう設定して実現するかの損益分岐点分析ができないとあっという間に破綻するのです。
補助金を申請する宿泊・飲食業の経営者はだいたいコロナのせいによる売上減少を訴えます。でも計画書を拝見するたびに感じるのは、「コロナ以前の問題」が見えていないのが目立ちます。このような経営者が策定した計画書に補助金を突っ込むのは税金の無駄遣いといっても過言ではありません。
補助金をもらうことありきで策定した計画書かどうかは、最初に見た途端一発で見破られるものです。これは認定支援機関の方もよく理解しておいていただきたい点です。経営者の真剣な思いから策定したものなのか、コンサルタントが体裁よくまとめただけなのかもすぐ見抜くことができます。
私のところにも補助金申請の支援依頼が来ますが、「補助金をもらうために申請を代行してほしい」という動機の方はお断りすることにしています。そういう申請はまず採択されない率が高くお互い時間の無駄になるからです。
本当に苦境を克服したい、補助金で背中を押してもらえたら復活できる、成長発展計画を実現できると信念ある経営者であれば是非応援したいと思っています。