「経営デザインシート」は補助金採択に万能
採択されない補助金申請は何が欠けているのか
この一年ほどいろんな形で様々な企業の補助金申請と関わってきました。企業によっては、支援金と同じように適当に申請を代行してくれる人に頼めば国からおカネを貰えるおいしい制度と安易な気持ちで申請する経営者も多いというのが実感でした。
これを機会に設備投資や何かホームページ開設や広告費の原資にしたいという漠然とした思いだけで補助金に申請するのです。そもそも補助金は、IT投資なり、モノづくり技術の高度化の投資であったり、事業再構築など新たな事業戦略を構築してそれに打って出る新たな価値創造の「経営戦略実践」を国として支援するものです。補助金は経営戦略ありきなのです。「支援金」と「補助金」の違いについて理解もしないで申請する企業はまず採択されないのは当たり前の話です。
多くの企業が申請された補助金申請書の経営計画に触れる機会がたくさんありました。一方、数百万円の最新設備を購入したいので、設備の見積書だけを送ってきて、モノづくり補助金の申請代行をいくらでやってくれるかと打診してきたところもありました。そういった補助金を金づるのようにしか捉えていない企業の申請はまず間違いなく不採択となります。即刻お断りしました。
私自身は、企業の補助金申請支援だけでなく、補助金の運用や採否にも一部かかわる機会がありました。企業がその設備を導入してどのような経営を行っていくのか、どういう価値を生み出していくのかが最も重要です。経営者自身が経営をデザインせずに、申請書の事業計画を誰かに書いてもらったものを見ると、評価する視点で見ると一発でわかりますし、まず合格点には届かないと思います。
申請する立場の企業の視点でも、また申請を評価する立場からの視点でもいえることですが、こうすれば間違いなく採択されるのにもったいないと思うことが多々あります。
採択されない理由がわかっているか
以前のブログにも書いたのですが、補助金の審査基準はあらかじめ公募要領に明確に書かれてあります。例えば事業再構築補助金であれば、事業化点、再構築点、政策点それぞれ具体的に書かれてあります。モノづくり補助金であれば技術面、事業化面、政策面について審査されるのは明らかです。
しかも双方の補助金に共通していること、国が一番重要だと思っていることさえわかっておれば、問われたことに対して問われたように答えさえすればほぼ間違いなく採択されるのです。
それなのに何回申請しても落ちるのはどこに問題があるのでしょうか。採否を分ける一番のポイントは「補助事業の具体的取組み内容」の記述で、納得できる具体性がないところにあります。
自社に現在どのような課題があって、この補助事業を実践することによってどう解決していくのかについて具体的に書かれていない計画をあまりにも多くみかけます。債務超過で資金的にも現在の事業が立ちいかなくなっているのに、補助金を貰って巨額な投資を行って、しかも実施体制もスケジュールも現実感が全くないのです。
しかも、そもそも後発で事業を展開しようとしているのに、顧客のニーズ分析も思い込みの部分もあったり、市場規模や競合分析も説得力に欠けるのです。
特に国は補助事業を通じて再三「付加価値額」を上げることに資する事業に着目しています。その結果、どう雇用拡大に貢献し、給与支給額を増やしていくか視点での「投資対効果」に重きを置いているのは、補助事業に直接関わっていなかったとしても、補助金の公募要領さえ読めば容易に理解できます。
補助金申請しても採択されない企業経営者の皆さん、もう一度この観点から自社の申請書類を振り返ってみられてはいかがでしょうか。
経営デザインシートを活用してみよう
補助金申請を支援するコンサルタントはよくSWOT分析手法を駆使することが多いです。それはそれで間違いなく、実際の申請書の事業計画書にはほとんどSWOT分析のマトリクス表を載せています。
しかしながらそれは現在の時点での分析に過ぎない「これまでを把握しているにすぎない」場合が多く、長期的視点で「これからのありたい姿」を語るには不十分であり、「これからの価値創造メカニズム」をどう実現していくかという戦略はSWOT分析からだけでは見えてこない欠点があります。
SWOTから「強み」を活かし「機会」を捉える定番の戦略パターンだけでは訴えてくるものが弱いのです。審査する人の目線で見ると、目指すべき姿や方向性が明確で、そこから何をどういった時間軸でどう実践するかについて簡潔に語られていると説得力が極めて高いのです。当然採択可能性は盤石といっても良いと思います。
SWOTだけでは不十分だとするとどういうツールが良いのでしょうか。
内閣府の知的財産戦略推進事務局が進めている「経営デザインシート」というものに注目しています。
経営デザインシートは、将来に向けて自社が持続的に成長するために、将来の経営の 基幹となる価値創造メカニズム(資源を組み合わせて企業理念に適合する価値を創造 する一連の仕組み)をデザインして移行させるためのシートです。このシートは四つのパートから構成されています。①企業理念/事業コンセプト、②これまでの価値創造メカニズム、③これからの価値創造メカニズム、そして④これまでからこれからの移行戦略です。
これらをたった1枚に書くのです。これだけで経営戦略の全体を俯瞰できます。しかも、時間軸を意識できる「これまで」と「これから」を思考回路から明確に分け、自社の思いや事業概要、価値など大切なことしかけない構成になっており、「経営資源」と「ビジネスモデル」と「価値」の関係性を明確にわかるという利点があります。
元々はシートを書くことが目的ではなく、これまでの価値を生み出す仕組みを踏まえ、顧客・市場のニーズやウォンツに訴求できるこれからの価値を生み出す仕組みを構想し、それに向けて何をなべきか戦略を策定、即ち「経営をデザインする」長期ビジョンを実現するためのツールとして提唱されています。
補助金申請する企業も、経営環境の変化を乗り越え自らの経営革新を実現しようとする企業も、このたったツールは極めて有効に働くと思います。むしろ補助金申請のためではなく、経営デザインを実践するために補助金を活用して経営資源を確保するという発想が必要ではないかと感じています。
私自身も、この経営デザインシートをもっと勉強して、企業経営の戦略支援や人材教育にも活用できればと考えているところです。