家電量販店が消える日
皆さんの今の仕事はこれから10年先に果たして生き残れているでしょうか。このコロナ禍の一年で世の中のあり方、仕組みが一気に変化しました。まだまだ先と思っていたことのほとんどがオンラインで実現可能となっています。オンラインでできるとなったということは、それまで人手に頼らないとできていなかった仕事がなくなったということでもあります。人が動くことで生まれていた価値が不要となったともいえます。
直近では飲食業や観光関連産業が直接的なコロナの影響を受けていますが、たとえコロナ禍が終息したとしても、以前と同じ市場構造には戻りません。オンラインでデジタル顧客価値を生む社会構造に変化したことを考えると、今後あらゆる産業が構造改革を迫られ、今後消え去る業界は拡大していくでしょう。
現在の仕事が今後もある保証はない
コロナで多くの人は在宅の時間が増えました。営業時間短縮や外出自粛で飲食店に行って食事をする回数が確実に減り、街ではUBER EATSなど宅配の自転車が走り回っています。今まで買いたいものがあったら、ショッピングに出かけて商品を探していたのが、ネット通販で本も家電も家具も日常品も食品も衣料品も、あらゆるものが簡単に探し出してポチっとするだけで買える便利さを改めて体感してしまいました。今まではデパートや小売店、コンビニなどへわざわざ出かける必要もなくなり、重たい商品を抱えて持って帰る苦労もなくなり、翌日には玄関先まで宅配業者が届けてくれます。
商品の探索という点では、どんな量販店であってもこだわりの商品を扱う小売店であったとしても、DX時代を迎えた今、ネット流通に勝てません。住宅地の本屋さんはもうほとんど消えてしまっています。通勤の帰りに繁華街の大型書店によく立ち寄りますが、有名なK書店でも書棚には多くの本が並んでいますが、実際KIOSK端末で本を検索しても在庫がないことが多いですし、検索ワードも入力しにくく使いづらいです。AMAZONで検索すると一発で絶版本まで見つかりますし、すぐにオーダーしてクレジットカード決済、翌日か翌々日には送られることを比較すると、本を買うために書店に行くこと自体、時間の無駄という思いが強くなってきました。果たして10年先にリアル書店は生き残っているでしょうか。
新聞、テレビに代表される既存メディアは生き残れるでしょうか。これは他のブログでも触れていますが、おそらく10年を待たずおそらく消え去ると思います。情報出力機器としてのディスプレイとプリンターさえあれば、ほとんどの情報ソースはネットが主体となるのは間違いありません。新聞発行部数は限りなく弾道軌道を描いてゼロに向かっていますし、テレビ番組の質は低下、企業広告はすごい勢いで既存メディアからネット広告へ出稿量が逆転してしまいました。
自動車業界ではEV化への流れが加速し、10年後にはガソリン車が売れなくなる時代がそこまで来ています。これは自動車業界の構造を根底から覆すことになります。クルマの駆動がガソリンエンジンからモーターに変わっていくということで、既存の自動車メーカーと下請け部品業界は生き残れるかどうか正念場を迎えます。
一方、最近とみに感じるのは私の出身企業の業界であった日本の電機業界の未来です。正直なところ非常に悲惨なものであると言わざるを得ません。果たして現役の後輩社員たちはどこまで深刻に受け止めているのでしょうか。電機業界に限らず、全ての業界において皆さんの仕事がDX時代も存在できるのか今一度考える必要があります。
家電量販店は消える運命か
今から30年以上前、それまで家電販売力の象徴とさえ言われていた街の家電販売店のネットワークは、時代の変化とともに、新興の家電量販店に逆転されて以降、家電販売店の危機打開と量販店流通網の開拓が家電業界の歴史となりました。
ところが他の業界が直面しているDX革命は、家電業界の未来も根底から揺さぶっています。この傾向はコロナ禍以前から顕在化していたものですが、最近一層加速の勢いがつき、このままでは家電量販店の業態が激変し、電機業界そのものが行き詰まる姿がますます見えてきたように思います。
DX革命に対応できない根本の原因は、ハードからしか顧客価値を考えることしかできない業界風土にあると思っています。もちろんソフトやソリューションによる顧客課題の解決価値が重要ということは頭ではわかっています。でも、課題解決の商品企画の発想がハードの差別化から抜けきらないのです。家電量販店でも店員は機能の説明と価格比較しかできず、これではネットでの商品情報以上の価値を流通で提供できないのです。
先日、家の近くの家電量販店(J)で地域クーポン券を使おうと立ち寄ったのですが、正直これはダメだと思いました。買いたかったのはZOOMや動画撮影で使いたいHDMI入力のスイッチャーとコンデンサーマイク、また冬でも部屋の暖房効率を上げるためにサーキュラーファンも探していました。ところがネットワーク関連機器はだいたい大手電機メーカーでは品揃えが少なく、海外の新興メーカーが扱っている場合が多いため、その量販店では取り寄せもできないとのことでした。繁華街での量販店(Y)ではある程度取り扱っていますが、比較選択できるほどの品揃えはなく、すぐにほしい場合にはどうしてもAMAZONでの購入が早くで便利です。またサーキュラーファンも(J)では売り切れてありませんの一言でした。わざわざ来店して商品を買おうとしても売れ筋の商品しか扱っていないので、二度と行かないとの思いを感じました。
商品の品揃えも不十分、店舗での商品説明もメーカーからの派遣社員に任せきり、価格もネットより高い、こういった量販家電店のネット販売に対する優位性はどこにあるのでしょうか。
元々、街の家電店では従業員も家族のみで商品を陳列するスペースもないところが多いので、店舗は工事を必要とする取り寄せた冷蔵庫やテレビの配達品置き場となっている現状であり、これでは品揃えの点でも商品選択の点でも、とても既存の電機販売店には顧客は寄り付かないのは当然と感じたものです。
ネット販売のアキレス腱
街の家電販売店、家電量販店ともに最早ネット販売には太刀打ちできないのでしょうか。消費者は単に安い商品を早く届けてくれるネット販売に全て満足しているということではありません。ネット販売のアキレス腱を見極めることで生き残るための処方箋が見つかるはずです。
ネットの家電販売における限界は、家電を扱いながらも消費者の家の中まで入ることができないことです。消費者が家電を買う動機は、何らか不便や不満を抱えている生活において、買いたい家電によってその問題を解決したいというものです。そのために詳しく機能を調べ、他社と比較し、そしてサービス内容や価格を含めて総合的に一番価値の高そうなところを選びます。つまりその比較するための最適な情報を提供するにはネット情報だけでは不十分です。実際、商品概要欄の情報だけでポチっとネット注文し商品を受け取ったとき、色やデザイン、手触りが期待したいものとは違っていたとか、部品が不適合であったことで失敗した経験は一度や二度ではありません。交換できるサービスがあったとしても、手続きが面倒で満足感は必ずしも高くはありません。
ここに家電に限らず街の販売店や小売店が対抗していける余地があります。消費者の各家庭に実際に入り込んでいろいろとお悩みや買いたいものの相談を受けることで、電球や蛍光灯の交換一つにしても、絶対に接続プラグのマッチングで買い間違いは起きません。新しいテレビを買いたいとの相談も実際に家に入って受けることで、インテリアにマッチングしたお奨めデザインやサイズを提案できますし、メンテナンスの注文を受けたり、寿命が迫っている家電の情報もサーチできるので、商談成約の可能性が非常に高くなります。
あれほど街の家電店は量販に潰されると言われ続けても、地方の町村地域などではなくてはならない存在として生き残り続けているのです。いくらAMAZONが品揃えが豊富で納期は早いといっても、屋内全体のコーディネートや家電製品の情報提供、迅速な据え付け、修理対応、配線、電気工事までワンウィンドウで対応できるのは街の家電店が圧倒的に優位に立てるのです。AMAZONには個人の家庭まで出張サービスする機能はありません。
そこで街の家電店はフルにネットのプラットフォームを駆使して販売店としての調達能力を高め、どのような顧客要望にも対応できることが生き残れる条件になってくるでしょう。店舗は限られた商品を並べるよりも、未来の夢のライフスタイルを提案できるような建材ショウルーム的な動画プレゼンの機能を持たせることで、生活相談の場としてお茶を楽しむ憩いのスペースにすることも効果的ではないかと思います。
家電量販店も同じことです。ただ、このままでは「消える日」が現実を迎えてしまいます。リアル店舗がネット店舗との差別化をどう確立するのか、ここに全ての解があるように思っています。