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ベトナム企業の経営力向上に伴う日本企業との関係性の変化

JICAのODAの一環でベトナム企業の経営人材育成に関わって約10年になります。もちろん課題はありますが、この間のベトナム企業のレベルアップは着実に質、量ともに相当加速しているという実感があります。一方で日本企業の競争力は相対的に低下し、ベトナムに進出している日系企業の存在感も、他の外資企業やベトナム企業と比較しても陰りがあります。

ベトナム企業の経営力が上がるにつれて、日本企業とベトナムとの関係にも変化が見られるようになってきました。

過去、日本企業はベトナムでローコストのモノづくり拠点として自社の製造子会社を設立展開することから始まりました。当初は部品を現地調達できなかったことから、かなりの部品を日本や中国等から輸入して組立を行うため材料コストがかなり高い状況でした。それでも低い人件費等の固定費でメリットがあったのです。

その後ベトナムのローカル企業でも裾野産業分野が発展し、徐々に日系進出企業にとっても部品の現調化によるコストダウンのメリットが出てきました。そのプロセスにおいて品質と生産対応力が課題であったのですが、この10年ほどでモノづくり企業のレベルが段階的に上がってきたように思います。まだ中国に肩を並べるほどではありませんが、チャイナリスクが顕在化するにつれて、ベトナム活用の重要性が着実に進んでいます。

そして直近では、ベトナムはローコストのモノづくり拠点としてではなく、1億人の人口を有する消費市場としての有望性と若く豊富な労働力に大きな存在感を示すようになってきました。日本企業もベトナム人を労働力不足に対応するために技能実習生として日本で労働力補完として利用する時代は終わりを迎えようとしている変化に気づくべきです。

人口減少が加速する日本。市場規模も縮小し、人材も枯渇し、企業活動が立ちいかなくなっています。トラックやバス、鉄道、タクシーの運転手さえも確保できなくなり、モノと人が動かなくなっていきたのが今の日本です。今までは従業員が足らなくなって外国人採用で対応してきたのですが、円安がここまで進むと外国人がもはや日本に来てくれなくなります。現状を直視したとき、国内市場に依存してきた日本経済の行き詰まりを打開するには、企業や国民がもっと海外に目を向ける以外にないと思うのです。

ベトナム企業が発展するにつれ、今まで日本企業の下請けだけでなく、日本市場に向けても自ら切り開いていこうとする企業も増えてきました。しかしまだまだベトナム企業にとっての海外展開にはノウハウが不足しており、商品開発やマーケティングにも課題が大きいと自覚しています。海外展開するにあたっては信頼できる日本企業との連携も必要だという考えも広がっているように思います。

先端を走っているベトナム企業の経営者が日本企業との連携についてどういう提案をしているかについて、日本企業との商談会でのセミナーでプレゼンした5つの提言を紹介したいと思います。

いかにベトナム企業のレベルが上がってきているかを実感できるのではないかと思います。

①技術と事業を共同で継承発展させる人材・資本連携

ベトナム企業の経営者は、日本企業が事業承継の問題に直面し深刻化していることを熟知しています。事業承継する人材が不足して廃業撤退してノウハウや技能を次世代に承継できないくらいなら、ベトナム企業と共同で人材や資本連携に取り組むことができないかと提案しています。ベトナム人をワーカーとして活用するだけでなく、一緒に経営提携や場合によっては合弁会社の設立、さらに一歩進んでM&Aによって何とか次世代に継承発展できる企業があるはずだという考え方には納得性があります。

②新商品開発、R&D活動の共同開発

日本企業は既に人材不足で技術人材の確保が厳しくなり、イノベーションの力が落ちてきているとベトナム企業の経営者は気づいています。しかし日本には蓄積された技術があり、ベトナム企業は変化対応力に優位性があるので、それらを融合させれば十分活用発展させていけるという自信も持っています。さらに今後ベトナムの市場拡大が確実な中で、ベトナムの市場に合った商品開発はベトナム人のニーズを知り尽くしたベトナム企業と日本企業の技術力の協力関係でWIN‐WINの共同開発が可能になるという提言です。

③両国の持続可能な企業モデルを構築する

今までの日本企業のベトナムでのビジネスモデルは、日本市場や顧客向けに販売する商品の価格面での競争優位性をベトナムで製造することで実現するものでした。また、ベトナム企業にとっては日本企業から製造受託や部品製造を価格面で貢献する価値を提供するビジネスモデルでした。しかしデジタル化が加速し、市場から要求される顧客価値もモノからサービスへ、販売マーケティングもリアルからWEBへシフトしています。価格優位性での両国の補完関係ではなく、顧客価値をベースとした協業関係によって最適地開発、最適地製造、最適地販売で、両国とも持続可能性のあるビジネスモデルを構築する提携を模索すべきではないかという見方をベトナム企業の経営者が持っています。

④ビジネスマッチング活動の継続的強化

両国の企業がより連携を深化させるには、日本企業もベトナム企業もお互いの強みを踏まえたビジネスモデルを構築するためのマッチングの取組みを強化するべきとの意見が多いのですが、今までは企業自身の強みや市場機会に精通していない公的機関がビジネスマッチングのイベント開催に留まっているのが現状です。そのためフォローアップがないため提携実現にはなかなか結びつかないのが実態です。もっと経営支援のコンサルタントや士業などが企業戦略支援の一環としてビジネスマッチング活動の主体になるべきとの意見があります。しかしマッチングのイベントには労力とコストがかかり、支援者への費用対効果が確立できていない問題があります。そのため、どうしても公的機関によるマッチングイベントが多いのは無理からぬところですが、経営アドバイザーの活動としてグローバルの観点からビジネスマッチング活動の強化が期待されています。

⑤両国間で合弁会社を設立して成長発展

完成品機器のメーカーと部品サプライヤーという関係性から、新たなビジネスモデルを構築する段階になってきますと、調達発注の関係ではなく、商品企画・製造・販売のバリューチェーンを両国企業で最適な形で協業していくためのマッチングが求められるようになっています。委託生産や開発協業、流通網の相乗りなど様々な形態が考えられますが、売買による協業体制だけではなく、一歩進んで資本参加による協業や、ビジネスモデルによっては両社による新たな合弁会社の設立が実現できれば、さらに成長発展を加速できるのではないかと考えています。

どうでしょうか。私自身、日本企業のベトナム展開支援してきた立場としても、ベトナムの若い経営者がここまで日越企業の協業戦略について考えていることが驚きでした。今までベトナムを「利用」していた日本企業が生き残るには、「協業」に舵を切り、いかにしてベトナムと連携していくかという戦略の転換が求められているのではないでしょうか。