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ベトナムで今起きていること

一年ぶりにベトナムのホーチミンとハノイに出張してきました。今回は14日間の長丁場の滞在となり、現地は連日35度を超えていたのが、帰国していきなり寒の戻りで朝は10度を切っているため、さすがに体調を崩して在宅で勤務中です。

今回はほとんど日本人とは会わずに連日ベトナム企業の方たちとの交流ばかりでした。ベトナム人からいろんな話をお聞きする中で、なかなか日本で入手する情報とは違って、生の声から感じる今まさに起きていることについて気付かされることが多くありました。

その中から未来を予測できる社会経済の動きについて触れてみます。

日本の中小企業の投資動向が変化してきている

日本企業のベトナムへの投資に関するデータはJETRO等から入手できますが、投資額の推移だけを見ていますと、プラントやインフラ開発投資などの大企業による投資があった年には大きくぶれるので、特に製造業を中心とした中小企業の投資動向を見るときには投資件数の数字を追いかけています。

実際、コロナ禍を挟んでどのような数字で動いているかをグラフにしてみました。まだコロナ以前の2019年からはほぼ半減したままの状況です。中国リスクのサプライチェーン再編の動きが外資全体に広がりつつある中で、日本政府がサプライチェーン強靭化として国内生産回帰を押していることから、特にアジアの製造業を中心とした海外展開にブレーキをかけている印象を現地でも受けました。

日本資本によって新規開発された工業団地でもリース、賃貸工場ともに空きが出てなかなか売るのが厳しいということや、日本企業以外の外国企業の入居率も高くなってきているとのことを耳にしました。(ただ、これは直接確認したわけではないので確かかどうかは検証できていません)

また私の事業パートナーであります日系企業の法人設立支援を行っているコンサルタントによれば、最近では新規の法人設立案件は極端に減少している一方で、増えてきている引合いというのが、地銀などの金融機関を通じて日本の地方になる中小企業から委託生産先を紹介するのを手伝ってほしいという案件であったり、ベトナムに既に進出している企業のDD、いわゆる企業価値評価の依頼が増えてきているとのことです。

以前の日本企業のベトナム進出パターンといえば、下請け受注を継続するために大手取引先の海外展開に合わせて現地生産工場を設立するパターンと、人件費等の固定費削減によるコストダウン手段としてベトナム等低賃金国に進出して持ち帰り生産を行うパターンの二つが中小企業の主な進出形態でした。

ところがこのパターンによるビジネスモデルはもう限界に達しつつあります。

理由は、現地での競争が激しくなってきたことがまず挙げられます。以前はベトナムローカルの裾野産業はまだ育っていませんでした。しかし、近年急速にボトムアップしてきており、品質面でも十分通用するレベルまで上がってきています。それ故、日本企業としては自社で子会社を設立して投資するよりも委託生産に切り替えた方がメリットが出るケースが増えているのです。

大手取引先にとっても、ローカルの品質レベルが上がってきて十分要求を満たすと判断できたなら、価格的に優位性があるローカルに切り替えるのは自然の流れであって、一緒についてきた下請けの経営まで面倒を見なければならない義務はありません。現地生産子会社を設立してまで対応してきた中小企業にとって、いつまでも既存の取引先に依存していてはやっていけなくなるのに、基本的にものづくりの体制しか構築できないため、自ら製品開発は新規取引先を開発する能力が備わっていないため、行き詰りをみせてきているのが現状です。

また持ち帰り生産型でいわゆるEPEといわれる保税工場での子会社経営を行ってきた企業にとっても大きな壁にぶつかっています。円安の加速と賃金の上昇によって、日本へ輸出する場合の価格競争力が急激に低下しているということです。さらにサプライチェーンのリスク対応のための国内生産回帰が後押しされる状況下で、単なる工場機能だけの海外製造会社を経営的に維持することがだんだんと厳しくなってきていると思われます。

今後海外法人のM&Aが増加する

上記の二つの海外展開パターンが通用しなくなってきた環境の変化によって、今後の事業のあり方として増えていくのが、まずベトナムローカル企業との協業が広がり、新規市場・顧客開発の国際間連携が増えるのではないかとことがあります。

今後は日本企業自身が自社投資で製造子会社を設立して事業を行うという方法だけでなく、レベルの上がったベトナム企業への委託生産を利用した方がはるかに競争力が高くなる場合が増えていくと思います。

写真は私が訪問したベトナム経営塾の受講生が経営する自動車用部品メーカーです。今までのベトナム企業とは思えないほどクリーンな環境で、5Sや従業員教育が行き届いている様子がこの一枚の写真でもわかると思います。今や日本企業を追い越すほどのモノづくりレベルに達しているのではないかとさえ思いました。

確実にベトナム企業との連携によるモノづくりは増加しますし、場合によってはベトナム企業との間でM&Aによる企業統合もありうる時代になってきたとの印象を持ちました。

日本企業の現地法人はビジネスモデルでの壁にぶつかっているだけでなく、後継者問題を抱えており、海外法人の現地化の取り組み課題よりも深刻な親元事業の事業承継から、海外事業を継続できなくなることも増えてくるものとみています。海外事業撤退となりますと、せっかく長年信頼を築いてきた顧客への供給責任や育ててきた従業員の雇用問題も抱えることになります。

それよりも第三者に事業を承継してもらうM&Aの検討は企業としての社会的責任ではないでしょうか。買い手としては海外拠点を一から設立するよりも育った従業員や販路を引き継いで短期間に事業を立ち上げたい日系企業もあるでしょうし、また日本企業の拠点を傘下にすることで日本市場への足掛かりにしたいと考えているベトナム現地資本もあります。

ただ、現在のところ、海外の中小企業経営の課題を理解したM&Aアドバイザーはほとんどいないのではないかとみています。ベトナムに精通した国際間連携やM&Aのコーディネートができるアドバイザーに相談されたい方からのお問い合わせいただければと存じます。

これからの中小企業の海外展開支援のあり方について改めて考え直すきっかとなったベトナム出張でした。