ベトナムのCOVID-19状況から見た日本の問題
この一年間、連日連夜テレビのワイドショウやニュースはコロナばかりです。市役所職員や厚労省の職員だけに留まらず、テレビ局の社員が5人以上で宴会をやっていたということだけで、いかにも犯罪者のように報道されているのが本当にうんざりします。メディアは非常識だと批判するだけで、むしろこの報道自体がさらに社会の閉塞感を焚きつけているように思います。
今年のゴールデンウィーク期間は、三度目の緊急事態宣言での休業要請によって多くの飲食店や百貨店が閉鎖されていました。にもかかわらず人出が減っていない、観光地に県境を越えて他府県ナンバーのクルマが多く訪れているとか、不要不急の外出自粛を都道府県や国が求めても、自粛疲れだというようにメディアはいつも他人事のようにいうばかりです。一方で、人の動きを強制的に制限したりするのは日本ではできないというのを前提条件として棚に上げ、そういった私権制限はやるべきではない、もっと補償や対策をしっかりやれといって国の政策を批判することに終始しているのです。
ワクチン接種が遅いのも国のせい、人の動きが止まらないのも国のせい、飲食店が営業自粛に追い込まれたのも国のせい、病床が不足して入院させてもらえなくなったのも国のせい・・・でも、自分が動くのは仕方ない理由がある、路上で酒のんでも犯罪じゃない、外だったら密じゃないから観光地を散策しても問題ない、ずっと家に閉じこもるなんてストレス。自分はマスクしてるしソーシャルディスタンスをとっているから他人に迷惑はかけてない。だから罰則で行動制限されるなんてまっぴらごめん。私は頑張っている、悪いのは感染状況を押さえ込めない政府や行政のせい・・・。ほとんどの人はこう考えていませんか?
ときどき外国の状況についての報道がありますが、ややもすればワクチン接種が進んでいる国や感染を抑えられている国の表面的な現象だけを取り上げるだけです。結局それらの国と同じことができないにもかかわらず、政府の対応は他の国と比較して問題が多いとあげつらうだけです。
このように考えている人が多くなってきたことが今の事態の原因の一つになっているのではないでしょうか。責任は政府や行政機関、頑張って協力すべきは他人。自分は自由にしたいし行動は束縛されたくない。おそらく現在インドで起きている悲惨な状況が現実問題として日本で起きたとしても、日本人の考え方は変わらないのではないかと思うのは私だけでしょうか。
何も国はもっと強権を発動して私権制限をすべきといっているのではありません。それが唯一の正解とは思いません。ただ、国・社会を構成する国民の一人としてどう行動するべきかについて、単にメディアの一方的なご託宣に踊らされることなしに、どこまで何を許容できるのかを一人ひとりが考えるべき問題ではないでしょうか。感染リスクと私権制限のどちらをとるのか、極端な話、感染して死ぬことよりも死んでも自由の方が大事なのかという悪魔の選択が突き付けられていると思うのです。
実際海外に目を転じ、感染対策に成功を収めていると言われている台湾やベトナムなどの状況を学ぶことで、日本人としてどのように行動するべきか考えるきっかけになります。
ベトナムの現状はどうなっている
ベトナムは比較的感染拡大をぎりぎりのところで抑えています。しかもそのために強烈な規制を行ってきました。社会主義国であることから国による規制は大変厳しく、とても日本では無理と感じられる人も多いでしょう。でもそれぐらいのことをやっているからこそ、感染を押さえ込めているという事実も参考になります。
コロナの感染が拡大し始めて、ベトナムでの総感染者数は5月5日時点で2,996名です。日本での一日あたりの新規感染者数以下です。また総死亡者数は35名で、直近でなくなった方は昨年の9月4日です。つまりこの8か月間死亡者数はゼロを更新し続けています。
新規感染者においては、過去最高を記録したのが1月29日の98名でした。その後最大限の感染拡大防止の規制を行いました。そのためずっと一桁程度の新規感染者数を続けていたのですが、4月末から少し市中感染の拡大がみられ、4月30日に49名が新規感染者となり、さらに厳しい措置が取られるようになっています。
一日何千人単位で新規感染している日本で行っている非常事態宣言の中身とは雲泥の差があります。
4月17日に入国したインド人のケースです。入国後の2週間の隔離期間中に行った19日と30日のPCR検査で陰性となり、その後隔離期間を終えた5月1日にハノイ市内のアパートに移動しました。その後3日に病院で受けた検査で陽性となったのです。その一人が出たことで行った措置は、同じアパートに住む接触者のインド人3人が即、隔離施設に移送され、同じフロアの住民40人以上がPCR検査を受けただけでなく、このインド人が住んでいるアパート(住民1500人)が一時閉鎖されたとのこと。また5月1日に移動したときのタクシー運転手も隔離されています。外国人の入国管理はさらに厳しくなり、入国時の強制隔離は21日間に延長されました。
ハノイ市では5月4日に市中感染の状況を踏まえ、市内のバー、カラオケ、屋台、カフェ、マッサージ店、映画館、スポーツジムなどは、即5日の午前0時から一斉に休業を命令したとのことです。ベトナムですからもちろん休業補償などは一切ありません。
また、ベトナムでは4月30日から5月3日まで連休期間であったのですが、ハノイ中心地のホアンキエム区だけで、マスク着用していなかった134人に合計150万円の罰金を課したとのことです。ハノイに限らず公共の場所でマスク未着用には最高14,000円ほどの罰金が科せられます。
おそらく日本人一般の感覚では、自由主義国ではあり得ない、こんなの日本ではやれないというものでしょう。でもベトナム人の普通の感覚では、国の発展があってこそ個人の人権や自由が保障されると考えている人が一般的です。このあたりが社会主義と民主主義の考え方の違いですし、どちらかが絶対的に正しいであるということを前提に考えると広い視野での判断ができなくなると思うのです。
ベトナムのやり方が必ずしも正しいとは言えないですが、現実感染拡大を抑えることに成功している点にも目を向けないといけないと思います。ただ、自分は自由に外出して行動制限するつもりないけど、感染が収まらないのは自分の行動が原因でなく国の問題と他責にはしたくないと思っています。