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ベトナムあるある!悩み多き賄賂問題への防止策とは

天馬株式会社のベトナムでの贈賄事件の発覚は、ついに株主総会で社長退任とともに、会社提案の取締役候補8人のうち、創業家出身の常務ら3人の選任が事件の対応に問題があったとして否決されるまでになりました。一部上場企業としてのコンプライアンス上からも社長退任は既定路線であったようですが、この事件を機に創業家の名誉会長による院政経営の実態が明らかになりました。この事件をめぐって株主総会で役員議案が否決されるまでの大きな問題となってしまいました。

税関局と税務局への査察チームへの「調整費」として2500万円で手心を加えてもらって追徴課税と罰金を逃れようとした事件でした。一部上場企業の役員一人の報酬程度にすぎない金額の賄賂でケチろうとしたばかりに、社長以下役員が退任に追い込まれ、企業価値を大きく損なうことになってしまったのです。

ベトナムでの賄賂は誰も渡したいはずがない

外国公務員に対する贈賄は、日本の国内法である不正競争防止法によって海外で行った行為が罰せられます。日本企業や出向している日本人責任者はだれも自ら賄賂を渡して利益を得ようなんてことは考えていません。

しかしベトナムの公務員からの賄賂問題は、ほとんどの企業がなんらかの形で巻き込まれる可能性がある悩み多き問題のひとつです。実際に要求されたときに、出向責任者は自分で判断できないので当然親元に相談します。

そこで親元の責任部門が対応するのはだいたい次のどちらかです。

「なに?うっとうしいこというてくるんだ。そんなに罰金を払わないといけないのか?適当に表に出てこない形で済ませられるなら現地責任者として対応するのが君の仕事だ」

「その問題に軽々しく対応するとコンプライアンス上ゆゆしき問題だ。調整金を払って対応するのが良いかどうかは本社で判断する」

天馬は明らかに後者の方法で対応したのです。現地の天馬ベトナムの責任者は逐一報告して指示を受けて動いていました。要求した裏金を渡すと追徴や罰金が大幅に減免もしくは不問にできることを匂わされます。また払わないとさらに査察が強化されて新たな追徴が発生したり、通関が通らず輸出入業務に支障がでる可能性が高いと訴えたことが想像できます。要求してきた役人の手口として、知り合いとという紹介されたコンサルティング会社を間にかませることで、コンサルティング費として領収書を得て処理できるという苦渋の策を提案して実行されたのです。

海外経営管理力の欠如

天馬はベトナムに限らず他の海外諸国でも事業を展開しています。第三者委員会による調査報告書によれば、他の国でも賄賂とまではいかなくても、結構現地公務員からの要求に対してわきが甘くいろいろと便宜供与している実態が報告されていました。

天馬の海外事業を統括する責任者は本社の経営企画部長でした。結局社長が辞めさせられ、創業家の院政によるガバナンスの問題が露呈するまでに至ったわけですが、実質この賄賂問題をここまでこじらせた実務上の責任はこの経営企画部長にあると思います。

海外経営の重要性と怖さはここにあります。

おそらく現在もそうだと思いますが、天馬には海外事業を遂行する経営体制が非常に弱いということが今回の事件の根本原因です。社長や取締役にとって、海外事業を単なる現地製造工場としか見ていなかったように思います。海外マネジメント体制が未確立なままで、かつ海外経営人材を育成してこなかったつけが一気に噴出したわけです。

現地責任者の判断も相談も間違っていましたし、海外を束ねる立場であった経営企画部長の能力や判断もどうかという気もしますが、おそらく創業家も絡んだガバナンスの問題に頭を痛めて海外まで意識が回っていなかったのではと思うのです。

賄賂要求を未然に防ぐための留意点

日本企業の立場で考えれば、裏金を要求してくるベトナムの公務員が腐敗している方が問題だということになります。ベトナムでも収賄そのものは犯罪です。いくら日本企業が裏金を渡したことがわかったとしても、彼らは証拠が残るようなへまはしないのです。収受は全て現金、書面は一切残しません。

法律の運用においても日本の法律が適用されるわけではないので、「賄賂要求を止めさせてくれ」と文句を言っても何も始まりません。むしろ嫌がらせが増えるので、それならば少額の要求なら払って丸く収めるのが良いと判断しがちになるのが悩ましいのです。

ベトナムの役人は許認可や査察、課税、罰金などの行政処分権限を持っています。ただ誤解してはいけないのは、彼らは何でもいいから集ろうとしているのではなく、必ず法律に基づく許認可や査察の結果に何らかの法律違反があることが前提になっていることです。

つまり賄賂要求そのものは法的に問題であっても、そもそも企業側に何らかの法律違反という隙があったという事実に目を向けてほしいのです。

日本企業の多くはあまりベトナムでの法律を熟知していません。実際に問題が起きてから騒ぎ出すのが普通です。談合やカルテルなど不正競争防止法など国際法や日本の法律に問われる問題については敏感ですが、ベトナムでの税法や行政手続き、労働法や入管などの現地のコンプライアンス違反を未然に防ぐための取組みは非常に弱いです。法律をほとんど理解せずに、問題が起きてから弁護士に相談したり、そういう費用も出せないと何もわかっていない本社に判断を求める企業が多いのです。

一番の対策は、現地のコンプライアンス管理体制をきちっと作り、事後査察で違反を指摘されて追徴課税や罰金を受けにくいような事前対策を行うことにつきます。普段から業務プロセスと文書情報管理を整備しておけば、査察をされても大きな問題を指摘されないようになります。しかし、それをせずに賄賂のお誘いに乗ってしまうと社長のクビが飛んでしまうのです。

日本企業に対する重点査察項目を知ることが第一歩

賄賂要求で一番注意するべき役所は「税関」と「税務署」です。他にも「労働局」や「環境局」、「入管」「消防署」「警察」までありとあらゆるところからカネをせびられる場合もありますが、額が大きく日々の経営活動と直結しているのが「税関」と「税務局」です。

事前に彼らが何を査察することを重点に考えているかについてはまずは知っておくことで、普段からこの重点管理項目について問題が起きにくいように管理することが賄賂問題を起こさないようにする対策の一丁目一番地となります。

税関、税務署ともに過去5年間の事後立ち入り調査権を持っています。したがって外資企業に対して5年に一度必ず事後調査があります。この事後調査で追徴、罰金に相当する違反を見つけ出して、調査リーダーの職権で個人的に裏金を要求するというのがパターンです。

1.税関による重点査察項目

税関は輸出入申告書類の事後5年間の調査権を持っています。いくら輸入許可を出して輸出入できたとしても、事後で申告したHSコードに間違いを見つけたりすると、虚偽申告で関税を意図的にごまかしたと難癖をつけて追徴課税をかけてくることがあります。このHSコードの誤判定は起きやすく、解釈で見解が分かれるときもあって税関によるいいががりのきっかけを与えるのです。

HSコード管理を業務担当者だけに任せるのではなく、判定をだれがどの基準で行ったかを含めて、輸出者側との管理連携が必要です。

2点目はEPE(輸出保税企業)に対する輸入原材料の実在庫と税関登録の在庫数との差異です。保税企業は輸入材料を免税で仕入れていますが、それを使って完成品にしたあとの残りの在庫数が合わないと関税の脱税と指摘を受けます。仕損など歩留まりによって差が出てきますので、それを税関に申告連携できていないと査察のときに追徴がきます。税関はむしろそこに狙いを定めています。

3点目は輸入時の申告額の低さ(低価インボイス額)の問題です。特に親会社から意図的に低い価格で輸入したという疑いで関税額をごまかしたいという指摘をされます。これは税務上の移転価格との問題にも直結しますので注意が必要です。

2.税務署による重点査察項目

税務調査も4-5年に一回あり、4-5人のチームで一週間以上居座ってあらゆる帳簿を確認します。税務調査による加算税、罰金は高額ですので、スムースに調査が進むように事前資料の作成など配慮しつつ、大きな指摘が起きないように普段から税務経理管理を徹底しておくことが重要です。

特に日本企業に対して重点的に査察されるのは次のような項目です。

1)日本人出向者・駐在員関連費用項目

特に個人所得税関連項目が要注意です。日本で出される社会保険見合いの国内給与や賞与を含めて現地で総合課税されます。これを申告していないとほぼ一発で指摘されます。また、出向社員・駐在員の住居手当の額によっては個人所得に含まれることにも注意が必要です。

また日本からの出張者に対して活動経費を現地法人が負担すると指摘されることにも要注意です。

2)海外役務提供

ロイヤリティ、技術支援、ソフトライセンス、経営支援費で日本に役務費を送金する場合には、その役務内容と金額、料率などの契約について細かく指摘されて否認される可能性があります。

3)海外物品仕入れ

輸入の場合は税関申告で明確になっていますが、注意が必要なのは「外国契約者税」です。特に日本から設置サービス付きで設備輸入したときには、設置サービス部分については外国契約者税の対象範囲と見なされますので脱税していないかとチェックされます。

4)他

他に最近よく査察で見られているのは、「移転価格」「在庫違算」「優遇税制繰り越し欠損」「VAT」や他の損金算入の認定などで指摘を受けるようになっている点に注意が必要です。

さあ、どうでしょうか? 追徴を避け、かつその隙を与えて賄賂を要求されないようにするには、上記項目について経営責任者として普段から管理を徹底しておくことがコンプライアンスリスク問題を未然に防ぐ最大の効果につながると思うのです。賄賂問題を深刻化しないためには、輸出入物流管理と調達管理、経理帳票管理をきちっとすることからです。

ベトナム人の管理担当者に任せっぱなしにしていませんか?