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ベトナムあるある!賄賂要求に対応するのはやむを得ない?

東証一部の天馬株式会社のベトナム現地法人への追徴課税をさけるため現地公務員に賄賂を払ったことが判明し、自ら不正競争防止法違反として検察に報告しました。この事件を受けて天馬のガバナンスを含めて大さわぎになっています。天馬はオーナー企業であり、創業家の名誉会長が引退後も役員人事を含めて実権をにぎっていたことが明らかにされ、今回の責任をめぐって株主側からも追及が厳しくなっています。

今回の事件については第三者委員会による検証報告が公開されています。非常に興味ある内容です。

https://www.tenmacorp.co.jp/dl/?no=1558

ベトナムの公務員からどのように賄賂をもちかけられ、天馬の誰がどのように報告して決定したのかが詳細に語られています。現金がどのように用意されて、相手側にどこでどう渡されたのか生々しい状況が手にとるようにわかります。

天馬ベトナムが払ったウラがね

天馬ベトナムは2017年に税関から調査を受けたときに、投資ライセンスの範囲をこえて金型の輸入販売をおこなった商社行為によって、付加価値税の支払いと罰金の合計18億円の支払いを求められ、それを逃れるために税関職員に1000万円の調整金をもちかけて支払っていました。

さらに2019年に税務局から受けた税務査察では法人税の追徴が8900万円指摘されて、それを減免するかわりに1500万円の裏金を支払うようなんとなく示唆されたのです。

2017年は税関職員への調整金で解決したこともあり、2019年の税務局からの追徴にも同様に払ってしまったことが取締役会で共有され、上場企業としてのコンプライアンスの観点からも詳細を調査し、検察庁に自首したという一連のながれです。

ベトナムの賄賂は必要悪と考えていませんか

ベトナムに進出している企業の人間はあまり表だって口にはしませんが、税関や税務局など多くの役所の職員から認可権限をかさにいろいろとウラがねを要求されることがあります。ベトナムに限らず新興国の多くで公務員の賄賂要求は日常茶飯事です。でも、口に出して文句をいったところで、結局ブーメランのように嫌がらせを受けるだけで、あまり表ざたにはしたくないと考えている人が大半です。

それでは実態はどうなっているのでしょうか? 賄賂をわたすことは当然犯罪です。しかも、日本の不正競争防止法やアメリカの海外腐敗行為防止法、イギリスの贈収賄防止法など、先進国では国外での犯罪を国内法で裁くことができる域外適用の法律があります。これらは個人、法人への刑事罰にくわえ、民事制裁や政府処分など非常に重たい罪です。コンプライアンスにおいてもカルテルとともに重要管理の中心にすえられる項目でもあります。

しかし新興国での賄賂問題に直面する海外法人の経営者にとっては頭が痛い問題です。相手は認可権限をもっています。すべて法律に照らして正しいことを主張すれば良いというきれいごとだけで片づく問題ではない、「ベトナムの賄賂は必要悪」と考えている人が多いように思います。新興国ではウラの経済で成り立っている面も無視できない、ある程度ウラがねをつかませることでスムースに社会が動くのならそれも仕方がないではないか!? と考えている方はいったいどれだけいるのでしょうか?

ベトナムに事業をされておられる方のブログで、自分は支払ってはいないが、実際日系企業の95%は何らかの形で賄賂を渡しているはずと述べていました。私が現地にいたときの感覚では、そこまでは高くはないとは思いますが、だいたい半分強ぐらいはおられるのではないでしょうか。なにせ誰も口にしないわけですから・・・。

収賄した側も罰せられるのか

まず認識しなければならないのは、肝心のベトナムの役人は収賄罪に問われるのかということです。今回の天馬の事件を受けて、ベトナム財務省はウラがね収受の相手とされた職員11人に対して15日間の出勤停止となって疑惑調査を指示しました。

結局どうなったでしょうか?

税関職員に1000万円、税務職員に1500万を現金で渡したのは事実です。しかしベトナム側が調査したのは、収賄という犯罪ではなく、ベトナムとして徴収するべき税金の損失があったのかどうか、税関や税務調査は正しく行われたのかどうかという職務の内容についてのことでした。

結局、「税金の損失があったかどうかを裏付ける証拠は何もない」ということで職員は全員職場復帰しています。あたりまえの話ですが、ウラがねを受け取るときにはカバンに入った現ナマを喫茶店など施設外での手渡しです。渡す天馬側は一人でくることを指示されもちろん領収書など証拠に残るものは一切ありません。金融機関を通じてお金が渡されるとすぐに足がつくわけですがここは周到に現金オンリーです。

過去、日越共同イニシアティブという両国政府間で投資環境問題について話し合うときに贈収賄問題の解決がとりあげられたとき、ベトナム政府委員は、「それはいけないことだ、だったら証拠だしてくれ、すぐに改善しよう!」ということは言うのです。ベトナムの社会システムは賄賂で成り立っているのであって、建前ばかり言っても何も前に進まないことわかっているのかという本音をそれを言った直後の薄ら笑いで感じたものでした。

お金を取られたという証拠があるのなら出してみろということです。領収書なしの現金手渡しではほぼ無理ですし、日本企業も名前を出して表には出たがりません。

ベトナム企業のベトナム人経営者と話をしても、この問題がある限りベトナムの社会問題は解決しないと嘆いているくらいなのです。

中小企業やオーナー企業がはまりやすい罠

それでは、長いものには巻かれる考えでないとやっていけないとすると、それこそ天馬の二の舞になるのです。

私が駐在していたときの現地法人に対しても、やはり同様にそういった要求されることがありました。しかし結局一切ウラがねを支払うようなありませんでした。

それでは多くの中小企業や天馬のようなオーナー企業がはまった罠とはいったい何だったのでしょうか。そしてそれら要求に屈した企業とそうでない企業との差はどこにあるのでしょうか?

実際にウラがねを渡した企業に共通した意識があります。「税関や税務局から理不尽な追徴課税を通告された。しかし調整金という方法で職員にウラがねを渡せば大幅に減額または見逃すという打診があった。どうせ日系外資系問わずどこもやっていることで、しょせん表に出ないカネだから、キャッシュが大幅に減ることよりリスクが低い」

直接渡すと贈賄そのものだから、間にコンサルタントに入ってもらって、そこ経由で支払えば領収書もコンサルタント費として処理できるはずと考えたところに、肝心の相手先が足元を見るように、知人の領収書が出せるコンサルタントを紹介するからと罠にはまってしまうのです。

これは完全にアウトです。不正競争防止法から逃れることはできません。

ウラがねを払わずにすませるのには

払わずにすます方法はあるのでしょうか? 実際役人側はところかまわず集ってきます。外資系、ローカル系お構いなしです。

ただ、どうしても理解してほしい点があります。彼ら国家機関の職員は、ベトナムの国のしくみを機能させるために、税金や入国管理、輸出入管理などの業務を遂行しています。法律に則って仕事をしています。法律違反があれば摘発して追徴課税なり罰金を課すのが仕事です。

その仕事を遂行するための権限をかさに賄賂を要求するのはけしからんと思うのは当然です。しかし、査察の結果で追徴する税金や罰金を払うことに、お金を払って手心を加えてもらうと考える方がより罪が重いと思うのです。

追徴課税や罰金の判定に不服があるのなら、不服審査を要求して戦っていくべきです。最終上級の本省での判断に従うという姿勢が必要です。局レベルの職員では、これを機会に私腹を肥やす機会として手を変え品を変えウラがねを要求して解決を提案してきますが、ここは絶対に払ってはいけないのです。

もし投資ライセンスに違反する事業をやったことで税金が追徴されるようなことになったときには、素直に追徴と罰金に応じることです。

そんな巨額な罰金を払うと赤字に陥ってしまうという恐怖感が、安易に賄賂で妥協してしまおうという悪魔の誘いに乗ってしまうのです。

現地の法律に違反したということの原因は、現地政府査察にあるのではなく、自社内部の管理体制の不備にあるというのがほとんどです。社内規定の整備や輸出入書類の管理、物流管理など業務フロー管理、事業ライセンスとコンプライアンス管理、経営帳票の管理など、管理体制について脆弱なところほど、必ず査察で指摘を受けて追徴課税と罰金を受けます。

しかし、それらは身から出たさびです。ちゃんと払うものは払って、次回からそういうことが起きないように社内管理体制の整備を行うことが本来であって、政府機関の職員にウラがねを渡してケチることは本末転倒と気づくことが重要です。