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米中経済戦争がベトナム投資を加速

米中経済対立は益々激化し長期化しています。トランプ政権は9月1日に約12兆円の中国製品を対処うに制裁関税「第4弾」を発動し、家電や衣料品など消費財を中心に15%の関税を上乗せしました。中国も米国の農産品などに報復関税を課した他、WTOに提訴するなど泥沼化しています。その世界経済への影響が段々と深刻化し、財務省が発表した4-6月の法人企業統計によると、製造業の設備投資が2年ぶりに前年割れの前年同期比マイナス6.9%減となりました。

数字で見れば影響はいろんな面で出てきているのはわかるのですが、実際個々の企業はどのように動いているのかについては、なかなか一般紙では見えてこない面があります。例えば中国で投資している日本やアメリカ企業が実際どのように考えて、どう動いているのか、これがわからないとそのサプライチェーンの一翼をなしている日本の中小企業がどう動くことが必要なのかは見えてきません。

いかにMADE IN CHINAを回避するか

米中貿易戦争の拡大で両国間で急激に関税が上昇し輸出入が急減しています。当然のことながら中国、米国で製造されている製品のサプライチェーンにつながっている日本を含めた他国の経済への影響は日を追うごとに深刻化してきています。

日韓問題の輸出管理の厳格化によるホワイト国除外で、グローバルサプライチェーンに影響が深刻だと韓国がわめいていますが、それは全くのデタラメです。米中の問題はそんなレベルではありません。米中の貿易戦争の長期化は、グローバルな産業構造そのものを根底から覆す可能性があります。

グローバル企業の一般的なオペレーションモデルは、中国やアジア諸国で製造された製品を欧米市場へ輸出するものですが、MADE IN CHINAではアメリカ市場へのアクセスが事実上閉ざされることから、まず企業が考えるのは、何とかしてMADE IN CHINAから他の原産国にシフトすることです。製品そのものはいろんな国のサプライチェーンから出来上がっていますので、付加価値基準など原産地基準を何とか組み替えていく中でMADE IN CHINAを回避しようとする動きが出てきます。単純なモデルでいうと、中国で完成品にするのではなく、ベトナムを含むアジア各国に部品の形で輸出し、そこで完成品にすることでMADE IN VIETNAM(または他のアジアの国)を確保してアメリカに輸出することを考えます。

実際、2019年1月から7月の中国からベトナムへの輸入は前年比18.4%増加し、ベトナム輸入総額の29.5%を占めるほどまでになっています。特に、機械・設備・部品が前年比49%増、コンピュータ・電子機器は66%増、繊維・縫製原材料が11%増です。

機械設備や部品が急増しているということは、中国企業の東南アジア投資が急増していることがその背景になっています。中国からベトナムへの新規投資は1月から5月までの間に、約15億6000万ドル(約1700億円)に達し、前年比で5.6倍に増えているのです。中国に次ぐ韓国からの投資が同期間で10億ドル、日本からの投資が7億ドルに留まっていることを考えますと、ベトナムへの外資投資において、中国が初めて新規投資のトップになる可能性が高いと思われます。

具体的にベトナムに生産移転・進出を表明、検討している中国企業は、パソコンのレノボ、化学事業の海利得、家電の和而泰、TCL集団などどんどん増えてきています。自社投資しなくても、今ベトナムの製造会社に多くの中国企業がOEM生産を持ちかけているのです。台湾企業のCOMPALも中国から台湾とベトナムに生産の一部を移管しています。

日本企業も中国生産見直しが進んでいます。シャープが空気清浄機や液晶ディスプレイを生産する新会社をベトナムに設立すると発表しましたし、既に進出している京セラなどベトナム事業を中国からの受け皿として拡張させる方針を相次いで打ち出しているのです。大手企業がそういう動きをするということは、下請けとして中国に展開している中小企業の部品メーカーの海外展開も見直しを余儀なくされます。第二期チャイナ+ワンが動きつつあります。

ベトナムは本当に受け皿になり得るか

中国からの輸入増と投資増加とともにベトナムの対米輸出も急増しています。1-7月の統計ではベトナムの対米輸出は330億ドルと前年比27%超も増加しています。GDPも好調を持続しています。しかし、このまま対米輸出増による経済成長が続くかと言えば大変疑問です。純粋にベトナムで付加価値基準をクリアしているのであればよいのですが、中国企業がベトナムを迂回輸出拠点に利用している面もあり、ベトナムでの現地調達率が低い製品をアメリカに輸出したり、ベトナムの港で積み替えるだけでベトナム製として虚偽申告しているケースもあると思われます。7月上旬には、アメリカが韓国、台湾などからベトナムを経由して輸出した鉄鋼製品に高関税を課す方針を表明する動きも出ています。

基本的にベトナムはまだまだ国内の部品技術力が低く、完成品を作るには多くの部品を輸入に頼らざるを得ない状況であるため、厳しく管理されればベトナム原産とは認められないばかりか、国内産業の競争力が高まらない課題をずっと抱えたままになります。多くのベトナム企業は、特に技術力や品質管理力などの面から、中国に変わるサプライチェーンとしてはまだまだ不十分なのです。

米中貿易戦争を背景に輸出や投資が増えているベトナムですが、技術力や経営力が向上されなければ、中国や外資にいいところ取りされるだけになってしまいます。米中対立を今後の成長発展のチャンスとして、以前からずっと課題とされている裾野産業の育成に本腰をいれることが求められています。特に裾野産業の育成に寄与できる国は中国や韓国、欧米各国ではありません。日本がベストパートナーなのです。ある意味では、今のチャンスに日本企業はもっと戦略的にベトナムに展開するべきです。日本企業、とりわけ中小企業の抱えている少子化による労働力不足、市場成長の低下危機を乗り越えていくためにもベトナムは大きな潜在力がありますし、一方でベトナムは日本の製造力、技術力を求めているのです。ベトナムにとっては中国や韓国とはWINWIN関係にはなりません。一方的に搾取される立場であることを本音のところで見抜いています。

だからこそ、ベトナムと日本はもっと深くつながるべきなのです。