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なぜベトナム人は給料を見せ合うのか

日本企業の海外経営で抱える問題の9割は人に関することです。中でも日本人の経営責任者がベトナム展開で戸惑う人事マネジメントは給料や待遇の問題です。日本でももちろん職務のレベルや評価によって給与の差がありますが、まだまだ年功要素が残っており、そう何十倍のも差があるわけではありません。ゴーン会長が20億の年俸を税務申告していなかったということで騒がれていますが、日本人の経営責任者はいくらもらっても億ちょっとのレベルかと思いますので別世界のような気がします。しかし、海外においては給与差というのは相当開きがあるのが当然で、ワーカーの月給が2-3万が普通でも、経営幹部となれば日本人の給料を遥かに超えないと人材を確保できないという世界があります。

それだけに海外で設立した会社で働く従業員にとって、給与については非常にセンシティブな課題であり、日本人のように給与よりも仕事のやりがいだと言っているのは、外国人にとって少し理解しがたいものです。それだけに、海外法人のマネジメントにおいて、従業員の給料査定と昇格、昇給の額は非常に大事なもので、ここを日本人の感覚でやってしまうと社員がどんどん辞めるだけでなく、会社の職場風土の問題が起きてくる原因にもなるという認識が必要です。

なぜ一人ひとりの給料の額を見せ合うのか

日本人経営者にとって、まず戸惑うのが特にベトナムの現地会社で働く現地従業員の給与が常に筒抜けになっていることです。通常、日本人はめったなことがない限り、自分の給料を他人には見せません。まあ何となく評価が高いとか低いとかいうのは感覚でわかりますが、実際自分の給料の額を細かくチェックはしない場合が多いと思います。

しかし、ベトナムでは自分の給料の額を職場で見せ合うのです。昇給月の給料日の次の日には全員が各自の給料を知っているのです。

そして給与査定に不満があれば上司に「なんで〇〇さんがこの給料で私がそれよりも低いのか?」とクレームをしてきます。

私も最初はなぜそうするのか大変不思議でした。ただ、だんだんとその理由がわかってきたのです。まずは給与額や昇給というのは、社員にとっては会社における価値そのものであるという意識が当たり前であることです。日本の人事考課では潜在能力ややる気といったものも積極的に評価します。しかし海外では給与イコール実績評価であることに、もっと気を配る必要があります。例えば平均賃上げの原資を最低賃金の伸びをある程度考慮して10%としたとします。そして日本企業が給与査定を行う場合は、だいたい最低5%から最高評価で15%ぐらいの間に分布させて検討するのが一般的かと思います。

しかし留意するべき点としては、いわゆるベースアップが10%と考えると、5%から10%の昇給者は全員が実質賃金が切り下げと同じと受け止めます。従業員は全員最低賃金のアップ率をわかっていますので、昇給査定とモチベーションの維持は極めてセンシティブな問題です。

もう一つの問題は、ベトナム人同士の潜在的な序列意識です。給与格差が大きい社会にあって、職責つまりどの役職で雇われているかは大きな問題です。役職ごとに給与の上下範囲が決められるのが普通なので、昇格というのは会社を辞めたあとでも、ずっとその人の職歴から判断される社会的価値と連動します。また役職の上下だけでなく誰が重い責任を任されているかは給与に反映されていると考えます。つまり、給与差はその人の会社における価値と同じ意味を持つのです。だからこそ彼らはどちらが上か、どちらが偉いのかを暗黙の序列を認識するために給与を見せ合うのだということに気づきました。

頑張ってくれているから(辞めてほしくないから)君だけに特別ボーナスをというのはある意味非常に危険です。なぜなら自分の価値を職場に知らせたいと考えるので、ほとんどの人はしゃべります。給与について秘密はありえないと考えるべきです。

給与査定は公平公正が最も重要

給与は従業員にとって存在価値そのものを数字化したものという重要性を考えると、いい加減な人事考課や昇給査定はやるべきではありません。ここを一歩間違えると、従業員の間で相互不信が芽生えますし、上司に対する信頼を失いかねません。昇給額は決して鉛筆なめなめで決めてはいけないのです。考えに考えぬいて、実績を正しく評価したうえで昇給額と昇格を決めるべきであって、そのための面談には十分な時間をかける必要があります。少なくとも日本での実績評価面談にかける時間の倍以上はかけてほしいものです。もし給与を見せ合った後で、ある社員が他の人と比べて昇給が低すぎるとクレームをしてきたとしても、しっかりと理由を納得させて、これからどういう仕事でどれだけの実績を残したらどう昇給させるということも明示するべきなのです。

海外の人事マネジメントは非常に難しいです! 日本の経験値がかえって問題を引きおこす原因にもなることに十分注意です。