外国人労働者の受入れ体制の遅れ
昨今、ベトナム人技能実習生や留学生の話題が途切れることがありません。外国人労働者を受け入れる手段として、元々国際貢献の取組みであった技能実習生や留学生受け入れ拡大が活用されている実態があります。
少子化の加速によって、人材不足が日々深刻化し、さらに外国人労働者を増やすことによって、労働集約的な職場での人材対応を図っていかなければならない切実な産業界の声がある一方、これ以上外国人労働者が増えることによって、治安悪化の問題や社会保障の問題など、いかにも準備不足の中で入管法改正案が審議されています。
反対の声が多いのは十分理解できますし、普通の日本人の感覚では、これ以上外国人が町にあふれ、まして移民が増えることになれば、自分たちへの影響は計り知れない不安があります。
また、外国人労働者が増えないような規制をきっちり整備していくことで、人口減の中でもやっていけるように、それこそ働き方改革をやり遂げて、もっと高齢者や女性に働いてもらえるようにすれば何とかなるという人も多いと思います。
しかし、労働不足の深刻さは想像以上のものです。このまま日本人中心の社会構造や産業を維持しようとしても、実態としてはもう手遅れです。外国人労働者なしには労働力不足だけでなく需要そのものも低下していくのは確実なのです。高齢者比率がここまで上がり、出生数が毎年激減している状況下で、我々日本人自身で国を支えることができなくなりつつある現実を直視しなければならないと思っています。いくら移民が嫌でも、受け入れざるを得ない覚悟が必要です。
そもそも外国人が来てくれるのか
国会やメディアでの議論を見ていますと、常に受け入れる我々日本人の視点しかありません。私たちが受け入れる覚悟をして、治安問題などに対応していけば解決するのでしょうか。
ここで忘れてはいけないのは、外国人労働者側の視点です。日本が新しい在留資格を創設さえすれば、次から次へ労働者が応募してくれるのでしょうか。今の技能実習制度にはさまざまな問題があります。実習生を受け入れる企業自身、単なる低賃金の労働力として捉えているところが多く、労働環境の問題や労働基準法を遵守した賃金を支払っていないなどの問題が頻発しています。またあくまで技能実習が基本であるため、実習計画と労働実態の乖離であったり、厳しい在留資格のため家族を呼べないことや職業選択の自由がないことで、現代の奴隷制度とも批判されるなど、制度に纏わる問題も多くあって、失踪者の増加が犯罪増につながるなど矛盾点が浮き上がっています。
外国人の人材が日本に来てくれるためにも、こういった制度面からの改正は不断の努力で進めていく必要があります。しかし、忘れていけないのは、日本以外の国もこれらの人材を確保するために懸命に努力をしていることです。
台湾は積極的に外国人材を確保している
日本が参考にするべき外国人材の確保の事例は台湾です。台湾は日本のような技能実習生といった本来主旨の違う制度で外国人材を確保しているのではありません。
「高度専門人材」については、日本も積極的に外国人雇用と在留資格の拡大を図っていると同様、韓国や台湾でも優遇しています。台湾では、5年以上台湾に住み、特定の分野で優れた技術を持った専門人材には、「永久居留カード」を発行し、かつ台湾籍を二重国籍を認めるといった制度を持っています。
一方、外国人非熟練労働者、つまり日本に来ている技能実習生レベルの労働者については、「就業サービス法」を制定し、受け入れ分野と業務内容、そして受け入れ人数の枠上限を設定したうえで、移民ではないやり方で、法律に基づいて非熟練労働者を受けれているのです。この外国人非熟練労働者を補助的な「客工」として位置づけ、就労場所、就労時間、賃金が制限されています。行政の組織体制や制度フォローもきっちりとしています。
なおかつ良く考えられているのがこの受け入れの前提条件です。まず雇用主は初めに台湾で求人活動を行わなければならない義務があります。そのうえで台湾人からの応募が全くなかった場合や、もしくは応募数が不足した場合に限って外国人の人材募集許可を申請する立てつけになっています。また雇用主は政府に外国人労働者一人について決められた額の「就業安定費」を納付し、この納付金で台湾人の雇用の安定に役立てることになっています。つまり「台湾人労働者の就業機会を妨害しない場合に限り、外国人非熟練労働者を受け入れ可能」としています。けっして無制限な移民の受入れではないのです。
またこの制度でやってきた外国人非熟練労働者に対しては、労働や社会保障制度で台湾人と同じ待遇を受けることができます。さらに2008年に改正された「就業サービス法」で、転職することが可能となりました。元の雇用主、外国人非熟練労働者、そして新雇用主の3者が合意すれば、雇用主を転換することができるようになったのです。この制度によって、受け入れ企業とのミスマッチに対応することができ、劣悪な職場環境から逃れたい労働者を救うことができるのです。
この台湾のやり方は非常に参考になると思います。技能実習制度による歪な外国人労働者の確保ではなく、きちんと管理されたしくみで外国人の非熟練工を雇えるようにすることで、移民まで踏み切らない形で解決が図れる一つの方法ではないかと思うのです。
最近、ベトナム人の話を聞くと、このように話す人が増えています。
「今までは日本で働いて稼ぎたいという思いが強かった。でも、技能実習生としての経験を通じて、日本で酷い扱いを受けて日本が嫌いになったという友達が多い。こんな日本の制度で働くのは嫌だ。むしろ台湾の方が働きやすいという感じがしている。ただ、まだ日本での給料の方が高いんだよね。どうしたものかな?」