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ベトナム人労働者の失踪者が増加する理由

現在、入国管理法の改正案で新しい在留資格制度の導入によって、さらに外国人労働者の数を増やす方向で検討が進んでいます。もともとは少子化の加速によって根本的に労働力不足がより深刻化している状況を受け、その中でより技能実習制度を拡充していくことが求められています。今まで基本3年で最長5年まで実習を続けることができていますが、今度の改正では技能実習生そのものを5年間の特定技能1号として扱い、さらに熟練した技能を持つと認定された外国人労働者を特定技能2号として5年延長され、永住や家族の帯同も可能になる事実上移民扱いすることがその骨格となっています。

もともと技能実習生や留学生の増加は、国際貢献を目的としたものでした。しかし実態は低賃金労働力の不足への対応であり、外国人労働者にとっては高収入の出稼ぎの機会になっています。こういった本音と建て前の挟間の中で、さまざまな問題がクローズアップされ、特に技能実習生や留学生の失踪者、つまり不法残留者数の増加が社会問題化しています。

ところがその底辺にある本当の理由や背景を見極めることなく、特に野党などはここぞとばかりに政府の政策の失敗を追及する政局の材料に使っているのは大変情けないことしきりです。何でもかんでもパフォーマンスに使い、外国人技能実習生の失踪問題に焦点を当てたヒアリングをTVカメラの前でアピールしたり、ここぞとばかりにベトナム人実習生を国会の本会議場まで連れてきて、いかにもひどい扱いを受けているということを強調し、マスコミが報道ネタにして政府を責めるばかりで全く生産的ではありません。

失踪者数の実態

政府が調査した技能実習生の失踪の理由では、第一の理由が低賃金で、第二が劣悪な職場環境のようです。実習生は不当な扱いを受け、やむに止まれず逃げ出したというような理由を断定的に報道されているようですが、私は非常にこの調査そのものに懐疑的です。確かにベトナム人にアンケートやヒアリングだけで結論を出すとそのようになると思うのですが、いかにも外国人の不法残留者の原因は技能実習制度が問題だと短絡的な視点で、メディアは世論を誘導しています。

平成30年7月1日現在、外国人の不法残留者数は69,346人ですが、一番多い国籍はどこでしょうか? それは中国でもありません、ベトナムでもないのです。それは韓国の12,822人です。ところが韓国人が不法残留している在留資格は、ほとんど全員が短期滞在なのです。もちろん技能実習生などはゼロですし、留学生資格で不法滞在となっている人もほとんどいないのです。つまり短期滞在資格で失踪者となっているのは韓国人が一番多いのです。こういったことはメディアは一切報道しません。

一方、昨今技能実習生といえばベトナム人という印象が強いですが、技能実習生で失踪者となっているのが総数7,814人です。その内、ベトナム人技能実習生で失踪しているのが4,136人で、確かに目立つ数字です。ベトナム人の失踪者総数が8,296人で、韓国、中国に次いで3番目に多く、前年伸び率では32%増と最大の増加国になっています。

本当に低賃金が失踪の理由か?

ベトナム人にヒアリングすると低賃金や職場での酷い扱いが失踪の理由とされるのですが本当にそうなのでしょうか?

ベトナム人技能実習生の失踪者数は4,136人ですが、留学生の失踪者数も何と2,434人もいるのです。留学生は資格外活動として週28時間までのアルバイトなら働くことができます。でも彼らは本業は勉強のはずです。職業の選択はありますので、アルバイトでの低賃金や職場での扱いが失踪の理由にはならないはずです。

技能実習生が日本で働く前には、きっちり面談もされますし、仕事内容も給与も事前に知らされています。最低賃金が適用されるので、いくら低賃金と言えども、ベトナムで働くことと比較すると、遥かに高賃金で働ける出稼ぎなのです。もちろん以前から問題となっている技能実習を受け入れている企業や農漁業産業の中には、ひどい扱いをしているところもあるようです。これは完全に労働基準法違反であり、失踪の原因とされたため、厚生労働省も監視の目を強化していますし、最近では残業代もまともに払わないような企業では受け入れの認可そのものが取り消されるようになってきていて、徐々ではありますが待遇改善は確実に良化してきてます。しかし、それとは逆に年を追うごとに失踪者が急増しているのです。

これは一体何が原因なのでしょうか? 決して低賃金だから失踪するというのは本質ではないと思うのです。

結局のところ、ベトナム人が日本に技能実習生もしくは留学生としてやってくるのは、出稼ぎが本当の目的であることに行きつくのです。技能実習生もしくは留学生でも、日本に来るために送り出し機関で事前教育を受けないと採用や入学ができません。そのために出稼ぎしたい地方の労働者は日本で働くために、送り出し機関から巨額の借金をしてでも来るのです。そして、日本で働いている間に稼ぎ、借金を返して田舎の親元に仕送りすることに必死です。最低賃金やアルバイトでもベトナムでの給与水準からすると高賃金です。でも、日本で日々生活してなおかつ借金を返していくのは大変です。

そうこうしているうちに、技能実習期間の3年、留学の何年が終わろうとする時期が近づいてくると焦り出してくるのです。このまま実習や留学を終えても日本企業で就労できない人が多く(高度エンジニアには就職できる道がある)、ほとんどが帰国しなければならないのです。今まで日本で毎月10万近くの手取りを得ていたとしても、ベトナムに帰って同じような単純労働ではせいぜい2~3万円ぐらいしか稼げません。滞在資格からは必ず帰国しなければならないのですが、そこで日本にいる悪いベトナム人のブローカーがSNSなどで声をかけてくるのです。

「このままでは期限が来たらベトナムに帰らないとあかんな、どやええ仕事あるけど紹介しようか・・・」

実習期間、留学期間の最終年に飛びつくベトナム人があまりにも多いのです。短絡的思考と言ってしまえばそれまでの話なのですが、理由も理解できないことではありません。しかし、これに飛びついたら最後、不法残留者にまともな仕事などあるはずありません。見つかればもちろん強制送還で二度と日本で働くことはできません。見つからなくてもヤバい仕事に手を染めて犯罪者として摘発されるベトナム人が増加しているのです。

けっして技能実習制度のひどい扱いを受けてやむに止まれず失踪せざるを得ない人も、いることはいるでしょうが、本当のところはもっと稼ぎたいという本音と短絡的思考が昨今の失踪者増の背景なのです。

このまま不法残留者を野放しにしておくと、技能実習制度そのものが瓦解しますし、留学生の活用舞台も狭くなってしまいます。無論、ひどい受け入れ企業や名前だけのなんちゃって語学学校などに対する規制は厳しくして淘汰するべきです。一方、出稼ぎを目的としてやってくる外国人については、不法残留の取り締まりを強化していかないと社会不安が拡大していきます。しかし、国際貢献という隠れ蓑で外国人労働者を受け入れるのはあまりにも歪な仕組みなので、上限数をきっちり設定したうえで、段階的に外国人の移民を受け入れ、管理していくのが社会全体にとって最適ではないでしょうか。