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国際競争力低下の根本原因は理科教育の欠陥にあり

文科省は既存学部を再編して理工系学部を新設・拡充する大学への財政支援を拡大するとのことのようです。理工系人材の強化は国力の競争力にも直結するというのは、デジタルテクノロジーによる進展からも多くの人が既にわかっていることです。しかしその拡大の財政支援はわずか3000億円規模です。

日本はもはや最先端の技術で優位に立っているとはいえません。私自身も元々理系出身にもかかわらず(実際誰も信じてくれませんが・・・)、あまり理数科目が得意だったとはいえず、振り返ると同年代の多くでも、理数嫌いの多くは入試に理数科目を求めない私大に進学していったものです。一般的に理数科目が苦手という子供たちが多いのです。

しかし国際競争において低い技術力では付加価値創造で負けるのは確実であり、国力の基盤を左右するのは理数人材の育成にあるといっても過言ではありません。

今更、政府が理数系学部を拡充支援するといっても、高等教育課程の出口を広げているだけに過ぎないように思います。もっと力を入れなければいけないのは、小学校低学年や幼児教育でいかにして理科好きな子供たちを増やすかにかかっていると思うのです。

本来、子どもは理科が大好きなのに

中学生や高校生で理解が得意、大好きだという生徒はかなり少ないと思います。ところが子どもたちは元々理科嫌いではありませんでした。実際幼稚園では多くの生き物を飼っていますし、虫取りや動物、草花が大好きです。昆虫やカエルなど平気で捕まえて遊んでいます。園児たちは日々の科学体験に「ふしぎ」や「おどろき」の感情を素直に表現します。手品や理科実験での体験に科学の面白さや不思議さに目を輝かせてくれます。

しかし、その子どもたちが小学校に入り、塾に通って、中学生になるころには、多くが理科が不得意、嫌いになってしまっているのです。やはり今の小学校の理科教育に大きな問題があるのは間違いなく、小学校での理科教育の考え方から変えていかないと、国の未来を支える技術人材は生まれてこないと確信をもっていえます。

小学生のお子さんをお持ちの親御さんは、一度教科書をじっくり見てもらいたいと思います。幼稚園で自然体験を通じて科学に興味をもっていた園児たちが小学校に入って、理科をいつどのように学んでいるのかおわかりでしょうか。

小学校1年生の最初から?? いえ、違います。小学校での理科教育はなんと小学校3年生からです。小学校1年と2年の最も重要な2年間に理科は教えられていません。「生活科」というように社会科と何か統合された中身に変質してしまい、事実上理科教育は空白となっています。その結果、3年生から始まる理科では、本来子どもたちにとって楽しい理科実験や工作をほとんど行わず、教科書を中心に理科を勉強させられます。「なぜ?」「わー!」「すごーい」の声は小学校の理科の授業現場では聞こえてこないのです。

小学校の理科教育の実態として、まず根本的な問題は教科書の2年空白の問題とは別に、先生は担任が一人で全教科を教えるため、理科を専攻してきた先生がほとんどいません。スキル的には理科実験ができる先生方が極めて少ないのです。そこへ文科省はこれからはプログラミングだと、小学校の理科教育にプログラミングを入れ込んできたため、理科実験もプログラミングもわかっていない先生が教えている教育現場が広がっています。

つまり、小学校での理科教育は2年間の空白期間の後、3年生から始まって6年生までの4年間しかなく、そこに自然科学とはかけ離れたプログラミングを入れ込んだことによって、ますます理数離れを起こしてしまうことになっているようにも思うのです。

STEM人材育成は学校に任せておけない

STEMとはScience(科学)、Technology(技術)、Engineering(工学)、Mathematics(数学)、つまり理数教育の統合を意味し、子供のうちからロボットやIT技術に触れて、「自分で学ぶ力」を養う新しい時代の教育方法をいいます。

米国でテクノロジー産業が復活してリードするようになったのは、学力の低下に危機感を持った米国政府が力を入れた理数教育の成果であると言われています。

ところが日本では少子化とともに技術力の低下が顕著になってきたにも関わらず、技術人材を育てず、また大事にしてこなかった文系の経営者や官僚が技術人材の海外流出を招いた結果、国際競争力の低下に歯止めがかからなくなってきたのではないでしょうか。

まずは一人でも多くの理科好きの子供たちを増やすべきなのですが、全教科を担当し多忙な小学校の先生に理科を教えることは極めて困難です。そこで重要な役割を担うのが、地域社会であり、企業であると思います。

SDGsも大事だけど社会全体で子どもをもっと大事に育てよう

子どもは未来の社会を支える国の宝です。それを大事に育てていくには、先生や親だけでは限界があります。もっと地域社会が子供たちの目が輝く自然科学に親しむイベントを企画実施すべきだと思いますし、さらに重要なのは企業による教育貢献の取組みです。

昨今の社会的弱者やマイノリティに対する支援がSDGsの基本であるかのような風潮も感じられる一方、少子化対策や子育て支援という名目でおカネを支給するのが政策だといっているように感じるこの頃ですが、それよりも大事なのは子どもたちが社会の変化をリードできるスキルとマインドを持つ人材に育てていくべきかを考えるべきだと思っています。

企業はマイノリティ支援に力を入れる以上に、国の未来を託す子どもたちにもっと投資する支援、とりわけSTEM+ARTのSTEAM人材の輩出に向けた貢献をまず考えるべきではないでしょうか。企業が学校に出前授業で理科教育を支援しているところも一部にはあるようですが、ほとんどは我関せずの対応ではないでしょうか。

常設のショウルームか何かを活用して、企業施設に子供たちを招待して、科学や環境を学ぶ実験教室を主催したり、出前授業などで理科教育支援にもっと人材を派遣したりすることの貢献の方がより社会的意義が高いと思うのです。