SWOT分析に重要な3つの視点
コロナ対策の一環で様々な補助金制度が拡充されています。以前からあるものづくり補助金やIT補助金などに加えて、今年産業界全体でも関心が高い事業再構築補助金などはかなり大規模で最大1億円もの補助金が交付されます。
とは申しましても、補助金は条件さえ合致すればほぼ自動的に支給される助成金や支援金とは全く違います。主体が企業が政策に沿った事業を行うことが基本で、その事業に国が三分の二なり四分の三の補助をしましょうというのが補助金の本質です。
したがって補助金の申請には要件に合うかどうかの審査に加え、事業計画の中身についても一定の基準とともに事業化点や再構築点、政策点などから評価されて採択されることが条件になります。
補助金の種類や予算との兼ね合いから採択率はそれぞれ差があります。事業再構築補助金の場合に限って言えば、全体で採択される率は半分以下です。よっていかに評価点を高くとれる事業計画書を書けるかどうかが勝負の分かれ道になります。
もちろん事業計画をどのような審査されるのかについては、公募要領にきちっと審査項目が書かれているので、事業計画をきちんと作れるところはそう難度が高いということでもないと思います。
しかし実態として、中小企業の事業計画書のレベルと、中堅・大企業が策定する事業計画の中身とでは相当格差があります。これは現役時代の経験に加え、診断士として中小企業支援の立場からも、如何ともしがたい現実です。
よって中小企業が補助金の申請を行うときには、決して独力で行うのは避けた方が無難かと思います。公募要領では応募にあたっては認定支援機関の支援を得て申請を行うように書かれてあります。いずれにせよ企業を問わず認定支援機関に支援してもらって確認書を添付する必要がありますので、事業計画書の策定支援も認定支援機関に依頼するところが多いようです。
ところが認定支援機関の7割以上が税理士や銀行などの金融機関であり、経営計画書策定の専門家とは少し違うのです。当然税理士や銀行も事業計画策定の支援をされているところは多いですが、あくまで税務顧問や金融取引先としての契約業務が本業ですので、補助金の事業計画書評価のスペシャリストでもなく、事業計画の根幹である販売・マーケティング戦略に長けているわけではないということを理解しておくことが必要です。本業の延長戦上で事業計画策定を支援しているということは、支援の対価も別途貰わずボランティアレベルの支援ということも聞きます。これでも採択されれば問題ないのですが、そんなに甘くはないということも知るべきかと思います。
専門のコンサルタントに頼むと手数料が高くてもったいないという企業も多いのは事実です。しかし補助金審査のポイントを熟知していて、事業計画書策定のプロがいるのに、手数料をケチって独力や専門家でない機関に片手間で助言された計画書で応募しても、採択確率は残念ながら低くならざるを得ません。
ではその専門家は誰なのか。それは診断士一択だというのが私の見解です。でも診断士にカネを払って支援してもらっても、診断士自身もピンキリだから、不採択となることもあるだろうし、そうなるとカネを溝に捨てるだけになるから頼まないという企業経営者も多いようです。中小企業診断士の認知度がまだ低いというのもありますが、もっと企業経営者と中小企業診断士が近づく関係になれば、その価値は十分わかってもらえると思います。
私自身は制度上の問題や諸般の事情によって補助金の申請支援業務を直接請け負うことはしておりませんが、日常中小企業が策定される事業計画書を見る機会が多くあります。その計画書が補助金申請されるときに認定支援機関が支援したものか、それとも独力で策定したものかについてはわかりませんが、まあ一般的に中小企業が策定された事業計画書を評価すると、明らかに大企業の事業計画書とはレベルが段違いに格差があります。補助金のほとんどは大企業が申請するには要件合致しないのですが、そういった要件の制限がないとすると鼻から勝負にはなりません。
どこで差がつくのか? それは事業計画書の基本中の基本でありますSWOT分析の視点にあります。
SWOT分析で欠かせない3つの視点
補助金の公募要領で書かれたある審査項目においても、事業の状況、強み・弱み、機会・行委、事業環境等を的確に把握できているかということが明記されています。つまりSWOT分析をきちっとやって計画書を作らないと採択審査の土台にも乗らないのです。
ですからほとんどの応募に書かれている事業計画書にはSWOT分析が書かれてあります。でも、中小企業の事業計画書におけるSWOT分析の突っ込みが表面的すぎるのです。認定支援機関は本当にSWOTの本質を理解して支援しているのかと疑問に思わざるを得ない計画書を見ることがあるのです。ただこれは事業再構築補助金に限られたことではなく、ものづくり補助金でも全く同じ状況なのです。
①競合比較の視点
中小企業が策定したSWOTの強みを書かれている項目を見ると極めて表面的すぎるのです。「〇〇料理については専門性がある」とか「建設会社の社長の〇〇は請負先の医療機関とのネットワークがある」とか「現在の広告業での取引関係で美容業界の事業支援についてノウハウがある」、「〇〇の先IT技術に精通している」といった表現が目立ちます。
強みの分析は、決して主観的なものだけでは意味がありません。強みは競合と比較しての差別優位性のポイントを具体的かつ客観的に数字で納得性のあるものではないと、明確に根拠なしとなって採択はまず無理です。
とにかく競合とどう比較して優位かという点を明確にすることが最低条件ですが、残念ながらどう見ても競合の姿が想定できないようなSWOTには説得力がないというぐらいは、支援機関はアドバイスするべきです。
②時間的変化の視点
強みの分析もさることながら、外部環境の機会や脅威において、時間の概念がない分析をしているSWOTをよく見ます。バランスシートのように、今の時点の状況を分析しても不十分なのです。外部環境は常に繁華しています。競合も日進月歩で切磋琢磨しています。今の時点で競争優位性があったとしても、半年先には競合も進歩して新製品を開発投入してくるかも知れませんし、市場そのものが技術の変化で激減してしまうかも知れないのです。常に何年か先に競合関係や市場環境がどう変わると見ているかの視点を持たないSWOTもこれまた不採択となります。
③顧客価値の視点
強みをアピールするときに、いかに自社の技術やノウハウが優れているか、設備が他社に比べて機能が高く品質が良いものが作れるかという供給者目線でSWOTを書く企業があります。あくまで顧客にとってのメリットがある強みなのか、顧客が本当に望んでいる価値なのか、また商品の機能が顧客にとって十分価値を関じる価格に見合うものなのかという視点に欠けている計画書も多いのです。
以上のように、あくまで一般論として言えば、中小企業が策定する事業計画書の基本となるSWOT分析に、「競合」と「市場」の視点が欠落している、もしくは自分は入れたつもりでも、顧客の目がみたとき全く競争力がないと言い切れるレベルのものが多いのも事実です。
日本企業が過去30年どんどん競争力を低下させてきた原因の本質にも通じるところがあるように思うのです。