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自動車業界の危機感とメディアの凋落

最近のメディア情報はとにかく対立軸を作るために偏向が目立ちます。良い社会を築くための国民や一般社会が望む役立つ情報の発信が極端に減ってしまい、質の劣化に歯止めが効きません。そのため、どんどんテレビ離れや新聞離れといった現象が進んでしまっています。

ネット社会が加速する中で、情報発信の偏向や劣化が進めば誰も見向きもしなくなるのは必須です。「痛い」のは、メディアに携わる人たちが、世の中の変化に対する感度が落ちていることすら気づいていない点にあります。

劣化した番組や偏向した誌面づくりが視聴者や読者から見放されているにもかかわらず、政府や権力、大企業批判をすることが正義であり使命だと、常に自分たちは正しいとの思い込みがあり自己反省をする姿勢に欠けています。そのため、企業自身もメディアに対する価値観が急速に低下し、唯一広告媒体としての優位性すら、対費用効果という面でネットに惨敗となっています。一方で高コストの経営体質を自ら革新する術を持たないまま、遂にテレビのキー局も大手新聞も赤字に転落してしまうようになってしまいました。

この流れはもう止めようがありません。新聞も広告出稿が減っているため広告単価もダンピング状態のようで、TVもコマーシャル枠が埋まらないため、公共広告が多かったり、番組宣伝で貴重な電波を無駄遣いしている状況です。

トヨタのメッセージ

元旦の新聞では多くの企業が全面広告で企業宣伝を行います。これを見ると企業が本当に国民や消費者に理解してもらいたい理念や方向性がよくわかります。トヨタは元旦の広告で次のようなメッセージを伝えました。

停滞する日々の中で、はっきりわかった。

この国の生活が、

移動によって支えられてきたこと。

自動車メーカーだけじゃない。

部品をつくる人がいて。

整備する人がいて。

燃料をいれる人がいて。

そして運転する人がいるから、クルマは走る。

日本の自動車業界で働く人は、550万人。

その思いがひとつになったら、

どれほどの力になるだろう。

いまこそ動き出そう。

動き出せば、風が生まれる。

景色が変わる。あしたに近づく。

新しい日常とは立ち止まることじゃない。

新しいやりかたで、

新しい道を進んでいくことだ。

私たちは、動く。

コロナの影響は様々なところで深刻さを増しています。しかし、朝から晩まで繰り返し同じようなメディア報道に接していると、医療崩壊だの、飲食業界はもうもたないだの、Gotoキャンペーンをやるのはおかしいだのずっと政府批判ばかりです。メディア自身はどうこの国家的危機を乗り越えるために貢献していくのかというメッセージを見たことがありません。

このトヨタのメッセージはもっと深刻で強烈な危機感を訴えているのがおわかりでしょうか? トヨタは今のままでは自動車業界は大変なことになると発信してきていました。コロナの影響といったレベルのものではなく、環境問題への対応、クルマに対する社会的価値の変化、EV化への加速など、この流れは業界そのものが立ちいかなくなるという強烈な危機感があります。

自動車業界とは決してトヨタのような自動車メーカーの集まりだけではありません。裾野の広い部品メーカーだけでなく、整備業界、流通業界、燃料や原材料業界、運輸業界と日本では550万人が働いでいるのです。それら働いている人の家族も含めますと、ざっと2000万人近い人々が自動車業界とともに生きているのです。実に日本国民の数人に一人の割合です。

脱炭素社会の実現に向けて、世界中の環境団体や政府が前のめりになっています。その理念自体は自動車メーカーも反対はしていません。しかしガソリン車を2030年代には販売できないようにする目標が先行しすぎています。確かにEV車種が増えていますし、今後技術の革新が進むことによってガソリン車からEV化へ転換する流れは間違いないでしょう。テスラなどEV車に特化したメーカーが台頭しています。でも事はそう単純ではありません。

今のクルマが全てEV化したら地球の温暖化問題は解決するのでしょうか? 確かにクルマのエンジンから二酸化炭素は排出されなくなるでしょう。でも、EVは充電しなくては走りません。充電インフラを整備するのには社会構造を根底から改革していかなければなりませんし、巨額の投資と技術革新が必要です。さらに問題は電気を作るには、現実的には再生可能エネルギーだけでは無理です。太陽光や風力、水力だけでは支えられませんし、原子力発電は事故リスクからも主力にしていくことは許されなくなっています。つまり石炭や石油、LPGで二酸化炭素を出す火力発電主体の構造から脱却できなければ、脱炭素化発電できずに作られた電気で充電するEVをいくら増やしても、結果的に二酸化炭素を増やすことになってしまいます。

トヨタの社長はカーボンニュートラルの社会を実現するには、EV化だけでなくガソリン車自体の低燃費化も同時に技術革新の努力を続けるだけでなく、充電社会インフラの整備や火力発電比率の低減など、社会全体で取り組まなければならないと強調しています。特に日本の特殊性として、軽自動車がクルマ社会の主力であることも問題です。EV化を進めるには、軽自動車に積める蓄電池の容量では実用に耐えられないのです。また日本の道路事情の点でも、軽自動車しかすれ違うことができない道路が6割以上あるという道路インフラの現状を無視したEV化の議論は意味がありません。つまり、日本の自動車産業に携わる550万人が責任を負っているわけではない、政府もメディアも日本のEV技術は他国に比べて遅れているとか、表面的な現象だけで安易に情報を発信しないでほしいと要望しています。

でも、自動車産業で働く550万人は立ち止まってはいけない、常に変革して新しいやり方で新しい道を動いていく。今こそ動こう。それが自動車業界に携わる人々の使命だとのメッセージです。「動こう」というのは何も人との接触を増やそうという意味ではありません。在宅でも頭とコミュニケーションを動かせるのであって、企業活動を自粛して立ち止まれといっているのではないのです。

「トヨタイムス」はトヨタ自身がメディアになる宣言

広告業界から見ればトヨタは日本最大の得意先でした。しかしトヨタは既に先を見ていました。企業は単に商品を売って利益を上げることを目的としているのではなく、クルマを通じてよりよい社会の実現に貢献することこそが企業の使命であるということを訴え続けていました。もちろん広告を通じて宣伝を行うとともに、番組提供やPR活動などで企業の考え方や取組み姿勢を含めたブランドコミュニケーションを徹底していました。

しかしトヨタは情報発信において、本当に伝えたいことと同時に消費者と直接向き合い双方向のコミュニケーションを図るには、新聞やテレビのオールドメディアでは限界があると気づいていました。しかも無茶苦茶高い広告宣伝費をメディアだけでなく、広告代理店にむしり取られていたのです。いくら重要な情報を広報活動を通じて進めていても、メディアは自分たちの関心のあることしか題材に取り上げません。インタビューを受けても、メディア自身が勝手に描いたストーリーに沿ったものだけを切り取ってきました。

しかしネット社会の到来は、企業それぞれが情報発信拠点となることを可能にしました。「トヨタイムス」は企業としての姿勢を届けるための情報発信メディアとして始めたものと理解しています。最近のトヨタのテレビ宣伝を見てみますと、個々のクルマの宣伝より、「トヨタイムス」での社長からの発信が過半数を占めています。つまり今やCMは、自社の情報発信メディアに誘導するためのもので十分になったと考えているようです。いつまでもテレビ宣伝で新車CMをやっても費用ばかり嵩みますし、新聞広告も読む人が激減している中での効果も急降下しています。したがって今後のブランドコミュニケーションのあり方は、限りなく自社オウンメディアの充実による競争の時代に入ったと言えます。この正月の広告でのCM画像も「トヨタイムス」にリンクされたYouTubeで見られます。

今後はトヨタのような大手企業だけでなく、いかにネットを駆使した情報コミュニケーションの自社プラットフォームを運営していくかが企業間競争の重要な意味を成すものと思っています。海外展開においても、単に海外で製造や販売拠点を展開するだけでは企業責任を果たせません。今後は「情報発信拠点」を戦略的に構築していくことが極めて重要です。

SNSを主体とした双方向コミュニケーションが競合他社との差別化と顧客関係性の強化につながる時代になりました。この時代の変化にあって、今までと同じように良いものを作って、流通チャネルを整備していくだけでは勝つことはできません。直近まではブランドコミュニケーション戦略という切り口でブランド宣伝や広報、CSR活動を行ってきていました。しかし、全てメディア企業の手のひらで踊らされ、効果が曖昧なままに多額の広告宣伝費を払わされていたように思います。

これからは企業自身が意識を変革することで、情報発信の主体となり、自ら双方向コミュニケーションを司ることで顧客価値を創造していけるようになってきていると思います。昨年は、全ての問題はコロナが原因とされてきたわけですが、マスメディア関連業界は確実に奈落の底に真っ逆さまになってきたことは事実です。電通や博報堂、キーテレビ局、大手新聞社が軒並み赤字に転落しました。コロナで企業活動が停滞して広告宣伝費にかける経費が絞り込まれたと分析している金融機関もありましたが、世の中の流れを見逃しているように思います。

広告代理店やメディアの意のままに企業が搾取される時代は過ぎ去ったということを強く感じた年頭となりませした。