アフターコロナでサプライチェーン再編は既に動いている
日本ではまた感染者が増えているというワイドショウ報道が毎日朝から晩まで延々とされ不安をあおっています。海外の状況についても感染者数が全世界で何千万人の達したとか、一方で国内の企業が経営危機に陥っているニュースばかりです。こういうときこそ視野を広げてアフターコロナの世界はグローバルにどんな動きが加速しているのかを注目するのが必要です。少なくともワイドショウや一般紙を見ていてもほとんど正しいリアルタイムの情報は手に入りません。
コロナと中国による覇権主義が今後世界のあり方に大きな影響を与えるのは間違いありません。この影響の広がりと深さ、そしてその変化スピードに関する真の姿を理解するには自らアンテナの感度を高めたいと考えています。
有益な情報を得られる機会が広がった
最近テレビや新聞特に一般紙を見る必要性がなくなったと感じます。実際ほとんど見ることもなくなりました。専門的かつ実態を正しく把握するための必要な情報を入手するにはネットを検索すればほとんど手に入ります。
一方でピンポイントで詳しい情報を入手したり勉強するには講演会やセミナーなども大変有益です。しかし、首都圏が情報発信拠点であることから、参加したいセミナーなどの多くは東京で開催されていました。関西圏も多くのセミナーに出席する機会はありますが、地方ではわざわざ出張して聴きに行かねばならず、どうしても情報格差が発生していました。
ところがコロナ危機によってリモート環境が一気に整備され、セミナーの多くでウェブセミナー化が進みました。東京で開催される貴重なセミナーにわざわざ時間とコストをかけて参加しなくても、ウェブセミナーで自由に参加する機会が広がりました。
今までのセミナーでは会場のキャパシティがありますので、定員が100名というように非常に限られていました。しかしWEB化することによって、事実上セミナー参加者数の上限と地域制限は一気になくなった印象です。
昨日、ジェトロのベトナム・ハノイ事務所がが主催するウェビナーでのオンラインセミナーが開催されました。
セミナーのテーマは、「ポストコロナ世界で飛躍するベトナム経済」~投資分野の新たな法制度整備の現状と生産体制再構築に向けた課題~でした。【JETROセミナー次第】
コロナの影響で具体的にベトナム経済がどのような影響を受けているのか、進出した日系企業が今どういう状況におかれているのか、そして今後の見通しやベトナム政府がどう考えているのかといったテーマの情報は日本では入手できません。特にコロナの影響と中国リスクへの対応からサプライチェーンの立て直しが叫ばれている中で、製造業にとってのサプライチェーンのコア地域となる東南アジア各国での再編の動きがどう進んでいるのかという情報は喉から手が出るほどほしい内容でした。
以前、ジェトロハノイでもベトナムに進出した日本企業を対象にいろんなテーマでセミナーを開催されていました。しかし今回のウェブセミナーでは、ベトナム政府幹部によるプレゼンもあり、ウェビナーへの参加者はなんと1000名を超えているとのことでした。
日本に拠点がある企業にとってはなかなか海外現地での生の情報に触れる機会が限られています。一方でコロナ危機は情報受発信のDXを根底から変革してしまった感を強く持ちました。
なおさら旧メディアの存在価値はさらに低下していくでしょう。
ベトナムのトランスフォーメーションは既に先に進んでいる
コロナに関するベトナム関連の情報は、国による強い規制によって押さえ込んでことで死者数は唯一ゼロであるという表面的なニュースしかメディアは報じません。
コロナの影響で現地の日本企業やベトナム地場企業が今具体的にどう動いているのかまとまった情報としてほとんどわかっていません。コロナの影響と米中の対立が激化する中でサプライチェーンがどう寸断されたかということについても、マスク供給不足など戦略物資のリスク対応という観点だけ報じられるため、産業界全体の真の動き、特にスピード感はまったくわからないわけです。
しかもベトナム政府がどう分析して、どう投資政策を考えているかについては日本国内のメディア情報では全く意味があるものに接する機会がないのが実態でした。
細かいことは割愛しますが、昨日のセミナーをウェブ拝聴することで、大変有益な最新情報を手に入れることができました。ジェトロによる具体的な日系企業への影響度調査結果やベトナムの輸出入の推移、投資額の変化推移、そしてGDPの部門別影響や今後の見通しなどはリアルの姿として非常に参考になりました。
それよりも感心したのが、ベトナム計画投資省のHOANG局長が説明した投資法や企業法の改正でした。過去はベトナム政府は外資を誘致するといっても規制が多く、投資法や企業法もややもすればいかにして国内産業を保護するかに重点があったように思います。
ところが、今回驚いたのがコロナの影響を踏まえて、国家戦略としてコロナ危機を機会に変えていくための投資優遇政策を素早く投資法改正に反映する動きをしていたことでした。
- 科学的研究結果から形成される製品の生産 ・ 経営 、 イノベーション活動 、 バリューチェーンおよび産業クラスターの構築または参加に寄与することができる製品の生産 、サービス提供を投資優遇の対象として追加する 。
特別投資優遇の検討と認可を政府首相が行う仕組みを構築する 。
最長で 22.5 年間の法人所得税 の税率を 5%~ 10% とし 、 さらに最長で 22.5 年間の延長ができる 。
最長で 6 年間は法人所得税 を免除し 、 次の 13 年間は CIT を 50 減額する 。
ベトナムは以前よりR&D投資に優遇措置を行っていましたが、彼らは既にアフターコロナ時代に生き残る条件は、「イノベーション」であり「サプライチェーンの産業クラスター化」であると見据えています。それに寄与する外国人投資家からの投資を優遇するというものです。この優遇策はかつてないほどの内容です。ベトナムでの一般企業の法人所得税率が20%であることを考えると破格です。
日本政府のコロナ対応はいかにしてカネをばらまくかのレベル
コロナ危機による事業者への影響は深刻です。日本政府は持続化給付金はじめ、最近では補正予算に基づく大規模な家賃補助給付金の制度が始まります。ただ、どうしてもカネをばらまいている感が抜けないのです。当面は経営危機ですからキャッシュを渡すことが有効かもしれません。でも、もう一歩先を見てほしいのです。
金融支援や給付金、納税延期などの措置も大事でしょうが、ベトナム政府のプレゼンを聞いて、コロナ危機をきっかけに国のあり方をどう革新していくのかという視点が欠けているという印象を持ちました。
これからはDXによる付加価値が勝敗を決めるということはあちらこちらで述べられています。しかし、DXにおいてなぜ日本はアメリカや中国に大きく遅れをとってしまったのか、それを克服して競争力を取り戻すために、どこにどれだけの投資を行うのかという国家戦略が求められます。これは教育投資を含めてです。
少子化で労働力不足だからといって、外国人材を受け入れることだけがその解決策だというレベルでは国際競争には勝ち残れません。DXによるイノベーションを実現するために日本人だけの能力や数では立ち向かえないのであれば、その分野での超優遇政策による外資導入を戦略的に進めるべきだということを強く感じました。
ビジネスイノベーションを実現する企業を支援するために単なる補助金という支援策ではなく、法人税の免除や社会保険料まで一気に負担を減らすというような、縦割り支援策では行えないところまで実現できるような投資優遇まで踏み込まないと産業構造は変わっていかないと感じました。