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大学の非常勤講師に就任するにあたって

以前のブログで少しだけ触れたのですが、今年4月の新年度から甲南大学で非常勤講師としてデビューすることになりました。

私はもともと工学部の電子工学科という今の私から誰も想像もつかないような分野を卒業しておりましたが、どういうわけか、講師を務めるのは経営学部で「国際ビジネス事情」という講座になります。ゼミに入る前の基礎課程の二年次の講座のため、できる限り多くの人に国際経営分野の専門課程に興味を高めてもらえるような講義が期待されているとのことです。社会人経験のない19歳や20歳の学生を相手に講義をするわけであり、経営理論のような分野は専門の教授陣の講義にお任せして、実際のビジネス世界の姿を体感してもらえるようなものにしたいと思っています。現在、頭を捻りながら前期、後期それぞれ15講のシラバス作成に取り組んでいます。

社会人になってからは、メーカーの商社部門で電子部品の輸出営業を皮切りに、国際営業企画から海外販売会社や本社部門の経営企画スタッフ、海外事業戦略のマネジメントなどの経験の上に、中小企業診断士の資格を生かした海外支援専門の経営コンサルティング会社を経営しています。海外展開を通じて中小企業の成長発展、ひいてはベトナムを始めとした展開国の社会経済発展への貢献を目指して早5年になります。

次世代につなぐ人づくりへの貢献

この5年の取り組みの中では、私自身のキーワードは常に「次世代につなぐ」でした。

昨年出版した本もタイトルは「次世代につなぐ中小企業の海外経営」でしたし、中小企業が今まで培ってきた価値やノウハウをいかにして次世代に継承していくか、そのために一番重要なことは「人をつなぐ」ことこそがその本質であると確信しています。

中小企業からのご相談の中に、「海外市場ならもっと売れるはず、儲けるために売ってくれるチャネルを紹介してくれ」というものが多いのですが、私はまずそのような企業は支援する気にはなりませんし、丁重にお断りしています。

「自社の商品・サービスを使ってもらって人々の暮らしが少しでも向上することに貢献する事業をやってきたが、これを何とか継続発展させて海外のお客様の喜ぶ顔が見てみたい、そのために何としても海外でも基盤を作っていきたいのだけど、経験がない、助けてほしい」「海外に事業を展開して社会に貢献する事業を(社長として)引退しても継続していきたいのだが、海外展開を担う人がほとんどいない、どうしたらよいか」というような相談を受ければ、私は何を置いても全力で支援するスタンスです。

やはり一番のポイントは「次世代にどう人をつないで経営基盤を継承し、競争を勝ち抜いて成長発展するか」につきると思います。いくらたくさん注文をもらっても、いくら儲かる商売ネタがあったとしても、経営を支える人材、モノづくりの人材、課題解決に能力を発揮できる人材、新たな付加価値や競争力を生み出せる人材なくしては、事業は継続できません。いずれ衰退していきます。これは大企業でも同じです。

今、日本の社会は「人不足」の問題に直面しています。これは3Kの単純労働者が不足していて外国人に頼らないとやっていけないというようなレベルの問題ではありません。生産人口数が急減しているので、働き方改革で女性や高齢者にももっと頑張ってもらえるような社会基盤を作っていかねればならないという「数不足」の問題に目を奪われると本質を外してしまいます。

もっと深刻なのは、人の「能力不足」の問題であると思っています。「日本人は能力が低い」と言われると、ほとんどの人はカチンとくると思いますし、メイドインジャパンやおもてなしの心などを称えるテレビ番組を見て日本人の能力は世界に冠たるものと信じて疑わない人が多いと思います。

では、こんなに日本人の能力が高いといわれるのに、なぜ一人あたりが生み出す付加価値、つまり「生産性」が先進国の中で一番低いのはなぜなのでしょうか?

「一人ひとりの能力は高い、でも過剰残業や人の創造性が発揮できないような労働慣行など社会構造の問題が大きい」と反論される人もいると思いますが、残業をしないでも一定の成果を出せるかどうかは、個人の能力の問題にもつながっています。生産性が低いのは、本当に個人能力の問題ではなく、社会や企業側の問題であると言い切れるのでしょうか。

長年海外で仕事をしてきたものの経験として、決して日本人だけが優秀だとは到底言えないと思っています。もちろん国によって、また人によって能力の差は顕著に出てきますし、日本人のような細かい視点や長期的観点からの発想を持てない人がいるのも確かです。しかし、特に最近感じるのは、着実に日本人全体の能力が下がってきていることです。あまりにも豊かになりすぎた結果、日本人自身の能力がグローバルで通用するレベルかどうかもわからなくなっているのではないでしょうか。

日本という殻に閉じこもり、どんどん企業も国全体も高齢化し活力を失っていく中で、次世代を支える人材が数も急減し、かつ海外で戦う能力も意思もない社員も学生も多くなっている現状がどこまで見えているでしょうか。「いや、言葉もできないし海外で苦労などしたくない。日本で楽に仕事ができればいいや」と考える人が増えると、確実に日本という国は衰退していくのは間違いないでしょう。

皆さんは、中国人のアグレッシブさに商売で勝てますか?
皆さんは、インド人の理数能力に勝てますか? 物売りのしつこさに勝てますか?
皆さんは、アメリカ人のフロンティア精神やビジネス創出力に勝てますか?
皆さんは、日本人以外に何か国の人々とコミュニケーションができますか?
皆さんは、そもそも・・・・真剣に勉強してますか?

皆さん、それでも日本人は能力が高いと思いますか?

私もあと何年生きれるかどうかわかりません。昨年、父を亡くしたことで、私自身も残された人生の意味を深く考えるようになりました。大学で講師をさせていただくにあたり、おそらく失望することも多いと思います。しかし、一人でもふたりでも多くの学生たちが、グローバルに人生を生き抜き、社会全体の成長発展を支える次世代の人材として育ってほしいという思いを持って非常勤講師の仕事に取り組みたいと思います。