チャリティ番組と障がい者雇用のコンプライアンス違反
毎年、この時期になると某テレビ局が障がい者支援の24時間チャリティ番組を行っています。以前からこの番組に対しては、出演する芸能人に高額のギャラを支払っていることや、障がい者を見世物にしているような番組内容に違和感がありました。公共の電波を使い、極端に安い使用料で莫大な利益を上げているテレビ局が、自らの売上から寄付をするのではなく、チャリティの名のもとに割高な広告スポンサー料収入を得て商売をしているという偽善性に我慢がならないことから数年前から一切見なくなりました。
真のチャリティを行うのであれば、テレビ局は24時間分全てのスポンサーを募ることなく自社の出費で番組を作り、出演者全員ノーギャラで協力、寄付全額を障がい者支援に使うというのであれば、社会貢献としての姿勢を高く評価できると思います。1000万以上のギャラをもらって24時間マラソンすること自体に一体どれだけチャリティの意味があるのでしょうか。
障がい者支援は社会全体が支えるべき課題
障がい者支援を目的としたチャリティ番組の欺瞞性もさることながら、マスコミ自身は、障がい者問題に関しては自分のことは棚に上げて政府をよく批判することが多いのが目立ちます。自分たち自身がコンプライアンス違反している自覚すらないようです。
障がい者雇用促進法に基づき、企業や国、地方公共団体などに障がい者の法定雇用率が定められており、その雇用率に届かないところは、100名以上の民間企業では法定人数不足一人あたり月5万円の障がい者雇用納付金を納める必要があります。但し、この納付金制度は罰金でないので、障がい者雇用を免除させるというものではなく、社会的責任ある企業や公共団体として、障がい者雇用を促進するための環境整備や教育体制などが義務付けられているのです。
最近、本来率先垂範しなくてはならない中央省庁や地方自治体で、障がい者雇用の水増し操作が行われていたということが明らかになりました。働き方改革も含めて、国として民間企業には強く指導している一方で、自らは全く変わっていないという役所の世界はよく見られます。役所自身が障がい者雇用を水増ししている限りは、民間企業が本気になって障がい者雇用に取り組むわけはありません。まして国や地方公共団体の法定雇用率は民間企業よりも高いのです。最近特に役人の口きき賄賂やセクハラなどの問題も目立っており、このような役所の不祥事が続くと、社会全体が取り組んでいかなければならない障がい者雇用など一致協力は望むべくもありません。
障がい者は、本人が望んでそうなったのではありません。また本人の言動が起因したのでもありません。生まれつきの障がい者であったとしても、後天的に病気やケガで障がい者となったとしても、いつだれでもそういう立場になる、またそうなっていたかも知れないのです。障がい者も健常者もともに生きるのは当たりまえのことであって、そのための努力は国も公共団体も民間企業も一丸となって取り組むべきものだと思います。したがって障がい者雇用や支援は社会全体で支えなくてはなりません。テレビ局などのマスコミは商売のために取り上げてお涙頂戴的な番組を作るのではなく、それこそ商売抜きで取り組んでこそ社会から支持されると思います。
障がい者雇用違反はコンプライアンス問題
企業のIR情報を見ていましても、障がい者雇用率がどのくらいかについて積極的に開示している企業は非常に少ないと思います。しかし、障がい者雇用は社会貢献活動の範疇ではなく、障がい者雇用促進法をいかに遵守しているかというコンプライアンスの問題として取り上げるべきものです。チャリティ番組を大々的に宣伝している某テレビ局にしてもIR情報に障がい者雇用率についての報告はありません。
今回の中央官庁の障がい者雇用の水増し問題については、同テレビ局も多くの新聞も雇用者数の水増し問題とともに、障がい者の法定雇用率の低さについて徹底的に批判報道を行っていました。毎日新聞などは社説で批判しています。ところが冗談かと思えるのが、マスコミ各社の障がい者雇用率の低さです。マスコミ自身がコンプライアンス意識が低いともいえる報道姿勢なので、法定雇用率を開示しているところはあまりありませんが、ある調査レポートによれば、マスコミ各社の中で障がい者雇用率ワースト1が毎日新聞そのものでした。あとワースト上位に日経新聞や共同通信、読売新聞など名だたるところが連なっています。例の障がい者支援のチャリティ24時間番組をやっているテレビの系列局の多くもワースト20に入っているのです。
お涙頂戴の感動ストーリーでチャリティ番組で利益を上げるよりも、自社の障がい者雇用をまず法定雇用率をクリアさせることが先決ではないでしょうか。障がい者雇用をコンプライアンス問題として経営者が認識することが求められています。