顔が見える企業 ~顧客に提供する「信頼」の価値~
博多の辛子明太子の老舗「ふくや」の工場見学やワークショップができる情報発信ショウルームを訪問してきました。
ショウルームとしては会社の歴史や企業としての考え方を積極的にPRする機能を持っているわけです。前職においてもベトナムでコーポレートショウルーム兼教育貢献施設の運営責任者をしておりましたので、企業のブランド価値を向上させるためにも重要な役割を持って情報発信の重要性は経験からもよく理解できる存在です。
今回ベトナム経営者とともに「ふくや」が運営する「博多の食と文化の博物館」<ハクハク>を訪問したことで、改めて企業としてのブランド戦略や社会貢献のあり方について深く振り返ることができました。当施設では「ふくや」の主力商品である明太子について理解してもらうためクイズで知識を学んだり、明太子の誕生秘話や会社の歴史とともに工場見学、体験工房が組み込まれており、来場者が楽しく過ごせる工夫がされています。
情報発信の主体は企業理念の発信
この施設は単に「ふくや」の宣伝を目的としたものではありません。いかにして博多の食文化、博多の人の心を大切にしている企業かということがひしひしと伝わってきます。
特に自社の品質管理の考え方やしくみ、実施状況を対外的に積極的に情報発信する機能を持っています。食品を扱う企業にとっては「品質」は命です。品質の安全・衛生管理に万が一にも不具合があると、食品業はその時点で生命線が絶たれます。
「ふくや」は自分たちが信じる品質管理の重要性を積極的、かつ継続的コミュニケーションを図ることで、自社のPRだけでなく博多の食文化を広げる社会的責任を果たす情報発信拠点としてこの施設を運営されています。つまり顧客に「信頼」価値を獲得するための重要な企業活動として位置づけられているのを強く感じました。工場見学においても、品質をいかにして重視しているかを実際に目で見てもらおうという意図が明確でした。
徹底的に品質管理に関する情報を発信することで、顧客が安心して買っていただく信頼を得ることにつながるのです。
次のようなエピソードの説明を受けました。
約10年前、某週刊誌に「ふくやは賞味期限を改ざんし、粗悪な商品を販売している!」という全くの虚報のスクープ記事を掲載されたとのことでした。事実は全く違っており、単に商品発送手続きの際に汚れた包装紙を取り替えていただけのことを、週刊誌の記者が見学で勝手に事実も確認せずに記事にしたものでした。
ふくやは、当然事実誤認であるとお客様に真摯に説明して納得いただいたわけですが、日ごろのふくやの安全・衛生活動に「信頼」を寄せていたお客様は「ふくや」を信じ、病院など週刊誌を置いてい施設に掛け合い、虚報記事が掲載されている雑誌を置かないように要請したり、新聞広告の当記事部分を黒塗りさせることに成功したとのことです。
顧客の信頼を獲得することは、企業にとっては最大の武器です。いくら社内で経営理念が大事、品質第一、顧客サービスが最優先と叫んでも十分ではありません。社会に貢献する企業の存在価値そのものである経営理念は、ステークホルダーに理解してもらってなんぼです。ホームページで企業の考え方を発信するのは真っ先に取り組むべきことですが、「ふくや」の事例は、いかに継続的にステークホルダーとコミュニケーションをとることが重要であるかを物語ってくれています。
前職の会社でも、コーポレートショウルームやヒストリーミュージアムを運営し積極的に経営理念を発信しつづけています。その運営費用も相当かかりますので、社内でも費用対効果の議論はよく起きていました。とりわけ事業部門では経営理念の発信より直接評価に直結する販売や利益に関心が高く、ややもすれば企業としての社会的責任については意識が低くなりがちで、情報発信コストは理解されにくい傾向があります。「ふくや」では創業者の川原俊夫氏の社会貢献に対する強いリーダーシップにより、経営理念の発信を「博多の食と文化の博物館」<ハクハク>を通じて行っておられるのです。こういった地道な情報発信が、顔が見える企業として顧客の信頼の獲得につながっています。企業経営にとって「顧客の信頼」ほど重要な無形資産はありません。金融資産も人的資源も大事です。でも、それらの投資を行うことで最終的に獲得できるのが「顧客の信頼」です。
改めて企業の社会的責任について感銘を受けた見学でした。