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B2B製造業にとってのブランド戦略

先週、食品工場などで使われる特殊な難液用ポンプの専業メーカーである「兵神装備」の主力拠点を見学させていただく機会がありました。いわゆる典型的なB2B製造業なのですが、非常に感銘を受けたのが、「ブランド戦略」を重視した経営を行っておられたことです。

ややもすればB2B製造業はブランドを軽視しがちです。通常顧客は特定企業であり、広告宣伝に費用をかけて製品ブラランドを強化するよりも、製品の付加価値や品質、コストダウンに注力する方が重要であると考えるのが普通です。一般にB2Cの事業を行っている製造業では、製品ブランドを強化することによって幅広く消費者にとって魅力的な商品であるとの意識が高まりますが、B2Bの多くの企業経営者の視野には、特定顧客しか見えていませんし、ブランド力強化など意味がないと考えてしまいがちです。実際、前職の会社においても、ブランド投資について社内でコンセンサスを形成するのが大変困難でした。B2Cの民生用商品は製品自体の広告宣伝も当然必要ですので、本社が行うブランド投資についての理解は比較的得やすいものでした。しかし、社内ではいわゆる B2B分野の事業による販売構成比が3分の2以上あり、私が所属していた電子部品関連の営業部門では、コーポレートブランド投資のための本社費用の拠出にはなかなか理解していませんでした。B2B事業部門にとっての顧客は消費者ではなく特定企業や市場であるため、ブランド価値投資そのものはムダなものととらえがちです。またB2CとB2Bでは総利益構造が違うため、ブランド戦略への投資については説得が難しいものです。

しかし、ブランド力向上をやったからいくら売上に貢献するのかといった単純なものではないのです。B2Bの事業部門の責任者はすぐに「費用対効果」の視点で考えてしまいます。ブランド価値がどれだけ上がったら売上増にいくらつながるのかと考えているだけでは視野狭窄に陥ってしまいます。ブランド力の向上というのは、製品や企業自体の社会的価値が上がるということと同義語と考えても良いと思います。つまり社会からの企業に対する信頼感の証ともいえるのです。ブランド力が上がることは単に売上貢献だけではなく、従業員にとっても会社に対する誇りと自信、忠誠心とモチベーションアップといった目に見えない価値につながるものです。その結果、離職率も低下し、優秀な社員が長く活躍してくれることになり、この会社で働きたいという優秀な人材確保といった効果、また困難なときに一丸となって取り組む自由闊達な職場風土の醸成にも効果が発揮されるのです。同じB2B企業であったとしても、ブランドイメージが高い企業と低い企業では、社会からの評価も大きく異なりますし、その結果として実力に大きな差が生まれます。

先週訪問見学さえていただいた兵神装備では、ブランド力強化に非常に力を入れておられます。しかし、単に広告宣伝を行っているというものではなく、ブランド戦略を軸に同時に作業環境の改善とともに、本格的な製品展示場であるプロダクトスクエアの設立、そして環境負荷の少ない研究所の設立に加え、社員の服装やマナーから購買販売まで実に多様な分野のブランド周辺価値の向上に努めておられます。

今まで多くの企業を訪問させていただいてきましたが、この企業ほど社会に向けてオープンにブランド価値向上に力を入れておられるところはありませんでした。大企業であってもこのようなレベルのブランド戦略を実践されているところは希少であると思います。

もっと社会に開かれた企業としての価値発信を

ベトナムに勤務していたときには、コーポレートブランディングの仕事も担当しておりました。大企業でしたので、外部から多くの企業や団体から訪問の要望も受けていました。ご要望にはできる限りお受けしてきましが、大変苦慮したのが当然のように要望される工場見学への対応でした。傘下のグループ会社であったとしても法人としては別組織であり、経営責任も親元事業部門が直轄しているB2B事業が多かったため、対外的に内部を見せることについての抵抗感が非常に強いものでした。B2B企業では基本的に事業内容の細かい部分や生産ノウハウを社外にオープンできません。多くは相手先のブランドで委託生産を受けているために、工場見学させることでどこと取引を行っているかを知られること自体問題であることが多いのです。つまり情報管理面での支障があることに加え、来訪者を受け入れることによる事業拡大につながるメリットはほとんどなく時間と労力の無駄と考えられてしまいます。

実際、ベトナムにある大手企業の多くでは、一般に工場見学をお願いすると断られることがほとんどです。これはある面仕方がないことではありますが、私自身としては、たとえB2B企業であったとしても、もっとブランド価値向上を高めるための努力をするべきであり、地域社会にオープンな企業姿勢を示すことにより、社会や取引先からの「信頼感や安心感」そして従業員からの「誇り」といったかけがえのない無形資産を得ることができるようになると確信をもっています。

工場を見せることで生産ラインのノウハウが漏えいしたり、取引先情報が知られることが情報管理上問題があるのであれば、見学ルートを設置して、室外から見れるような見学専用の順路を組めば、来訪者や地域社会とのコミュニケーションを確立することが可能となります。B2B企業であっても、単に従業員を雇用し、利益を上げて納税するだけでは、企業としての社会的責任を果たしているとはいえないのではないでしょうか。もっと外部のステークホルダーとのコミュニケーションに力をいれるべきであり、見学者を積極的に受け入れ、企業訪問受け入れだけでなく、従業員家族の招待や地域住民との交流イベントなども行うべきでしょう。そういった地域社会や従業員、取引先との関係性づくりを重視する経営こそがブランド価値向上につながるものであり、社会発展のためにこそ企業としての存在価値があるという企業理念と直結しているものと思います。

特に、海外では企業のブランド価値向上の取組みを行っている企業とそうでない企業の差は顕著に出てきます。従業員の定着率が悪いと嘆いておられる出向責任者の皆さん! ブランド価値と社会貢献活動という観点から企業経営を見直すことも有効ではないでしょうか。