シェアリングエコノミーの衝撃
ベトナムから戻ってきました。久しぶりの出張で新たな発見がいろいろとありましたが、UBERやGRAB TAXIといった配車アプリを使ったタクシーサービスが一気に広がっていることに大きな驚きを覚えました。
UBERなどの配車サービスは、いわゆる事業ではなく個人の車やバイクを空いたときにシェアするものです。多くの国でタクシー事業者の収入源を侵食するものとして、法的な問題や事故が起きたときの責任問題などで物議が醸されています。日本でも一部の地域で実験的な導入はされているようですが、こういった営業の既得権が絡むものについてはなかなか前に進みません。ところが法律の整備が十分でない発展途上国では、新しい技術が入ってきたときには、その間隙を抜って一気に先行してしまう可能性があります。
UBERを使って車を呼んだ人のスマホでのやり方を横で見ていたのですが、非常に便利なものです。アプリを立ち上げるとどこからピックアップするのか、どこまで行きたいかを地図データから示すだけで、周囲に待機している個人の車が画面に現れます。同時に何分でピックアップできるのか、また走行ルートも地図上に出て金額が示されます。車種もナンバーも表示されて、発注ボタンを押すとドライバーからスマホを通じて受託し契約が成立、ピックアップ場所に車が着いたら、携帯電話に連絡が入る仕組みです。迎車料金もかからず、車種も選べますし、契約時点で料金が確定するのです。ベトナムではUBERもGRAB TAXIとも自動車、単車双方とも対応できます。タイやインドネシアでは以前より会社化したバイクタクシーが走っていましたが、ベトナムではバイクタクシーは全くの個人サービスでした。しかし、今回GRAB TAXIでは写真にあるように緑色のユニフォームで統一してピックアップしやすいようにしているのが目立つようになっていました。
既得権の壁に阻まれて新技術に乗り遅れる日本とは違い、不完全なシステムであっても前へ前へ進めていく国、経済のダイナミズムを改めて感じました。
シェアリングエコノミーが世の中を変える
今、AIだのクラウドだのいったい何が世の中に起きているのでしょうか?そのキーワードの一つが「シェアリングエコノミー」です。ICTの発展に伴って、「所有」から「共有」へライフスタイルの価値観が変わっていることで、産業構造に大きな変革が起きているのです。
UBER、カーシェア、シェアオフィス、クラウドソーシング、Airbnb・・・自分には関係ないと思っている人にとっては、全く感覚のアンテナにはかかってきません。しかし、発展しているビジネスや働き方そのものにも変化を与えていることに気づいている人は少ないと思います。スマホをゲームとSNS、メールでしか使えない人は確実に時代の取り残されます。
経営資源である「人」「モノ」「カネ」「ノウハウ」を駆使して成長戦略を実践するうえで、今まではこれらの経営資源をいかに「所有」するか、内部に資産として取り込めるかで競争力源泉の差別化に繋がっていました。いわゆる規模の経済で優位に立つ大企業の典型的なビジネスモデルでした。しかし、シェアリングエコノミーのイノベーションは、ほぼ100%大企業では無理なビジネスモデルです。後発で大企業が資本にモノを言わせてイノベーションを起こそうと考えてもまず無理でしょう。
さすが大企業でも資産を多く抱えていても強みにはならないと気づき始め、いわゆるライトアセットマネジメントとしてアウトソーシングを活用した成長戦略を進める方向へ転換してきました。極力固定資産は売却してリースに切り替えることにより新技術更新しやすいようにしたり、正社員を派遣社員に切り替えたり、IT投資もサーバーやソフトも自社で買うよりはASPを活用したクラウドサービスやレンタルサーバーにシフトしています。つまり「所有」から「リース・レンタル」を中心としたアウトソーシングへの移行です。
しかしながら、今起きている「シェアリングエコノミー」は、外部のベストの経営資源を単に借りて活用するレベルから、ITの進展により、必要なときに必要なだけ外部価値を利用することで、ビジネスモデルの提供価値を創造する究極のアウトソーシングへとイノベーションが起きているということです。これは持続的な経済発展を図るために付加価値生産性を高める切り口として注目すべき動きです。
シェアリングエコノミーは価値の従量課金
リース・レンタルなどのアウトソーシングとシェアリングサービスとは具体的にどう違うのでしょうか。アウトソーシングは不動産にしても業務委託でも派遣社員採用でも、基本的には一定業務、一定期間の仕事単位に対する一対一の賃貸、請負関係になります。一方、シェアリングサービスの考え方は一対多の「共有」です。
ITの発展により、経営資源の多くはクラウド上で共有することが可能になりました。自分の持っている物理的資産(車や駐車場、空き部屋)やノウハウをクラウドで多くの人に必要なだけを活用してもらう仕組みがシェアリングサービスとして、市場が日々拡大しているのです。例えば、皆さんが自家用車を持っている場合、当然自宅の駐車スペースであれ、駐車場を借りていることであれ、駐車場を確保しています。ということは、通勤に車を使っていたら昼間はほとんど空いているわけです。もし自分がその駐車場を使わない時間、誰かが使いたい場合、有効ネット上で「借りますー貸します」のパーキングのシェアができるようになっているのです。すでに空き部屋を利用してが民泊という新たな市場を創造しています。所有するまでもないが、必要なときにどこか時間貸ししてくれるようなサービスがあれば十分満足できるという市場を生み出すのがシェアリングエコノミーです。
昨今注目を集めているIoTも突き詰めていけば、シェアリングエコノミーに発展していくと考えています。最近、プリントパックやラクスルなど非常に安く名刺やチラシができるようになってきたことをご存じですか。裏表のA4カラーのチラシを1000部作ったのですが、わずか3000円で済みました。これが10000部に増やしてもそう高くはないのです。今まで印刷業者に直接頼むと非常に高くつきましたが、これらの新しい印刷業者はいわゆるビジネスマッチングであって、高い設備を導入しても夜寝ている機械の稼働を上げたいと考えている印刷業者との連携で、空いていた稼働時間を活用して印刷注文をマッチングすることで低コストを実現しているのです。これはまさしく設備機械の共有の仕組みでビジネスマッチングによって市場を開拓していることに他なりません。
今後IoTが発展していけば、多くの製造会社の稼働状況をリアルタイムでモニタリングして、それら製造インフラをうまく組み合わせて製品を作り上げていく新たな製造の在り方につながっていくでしょう。過去は設備を持たないファブレスメーカーが製造委託パートナーと優位なビジネスモデルを作り上げてきました。私の予想では、おそらく製造の企業グループというところからもう一歩発展し、製造ラインのクラウド化がIoTで加速するのでは(しかもここ2-3年のうちに)と考えています。品質保証など解決するべき問題点はありますが、ITの進展である工程に優れたメーカーの製造ラインを組み合わせて、何社かを経て最終のものづくりが完成するという時代はもうそこまで来ています。
働き方も根本的に変わる~あなたは生き残れますか?
これから変わってくるのは「働き方」です。正社員から派遣社員、契約社員に重点が移っていますが、それでも仕事単位での労働力提供にはなっていません。働こうが働きが悪くても決まった給料は支払われるのが今の労働市場です。ところが、今後は「クラウドソーシング」へと急速に移行していくと思われます。具体的には、企業は業務ごとに必要とする人材を雇用するのではなく、仕事単位で発注する、人はその仕事を遂行する能力をクラウド上にアップし、UBERのように必要なサービスごとに業務委託を行うように変化していくと見ています。つまり、一人ひとりが自分が売れる能力を磨き、それを企業がソーシングしてもらうことで仕事を確保するようにならなければ食べていけなくなります。労働者は個人単位で業務契約を行うようになります。おそらく現在のような会社単位でオフィスは意味がなく、単なるコスト圧迫要因になってしまいます。究極的には、働く場所はシェアオフィス化します。スターバックスオフィスのようなものが一般的になってくるでしょう。こんなのは労働者軽視である、労働者の権利侵害だと反発する人が増えるでしょう。おそらく能力の低い人ほどそういう声を上げると思いますが、AIやIoTが進展することの衝撃は、売れる能力のない人の仕事は全てAIに置き換わって消えることが見えてきている点にあります。
既得権者として絶対に受け入れられない!と叫んでいる人を抱えて変化できない企業、国は最早生き残ることはできないのです。信じられないことだと思いますが、もし日本がシェアリングエコノミーによるイノベーションを受け入れられない場合、先行しているベトナムのような途上国より衰退していく姿が現実になってくるでしょう。
これから絶対に儲かる事業、これはITを駆使したビジネスマッチングであると確信しています。