3つのアウトソーシング形態とコンサルティングの価値
以前は自社の経営資源の豊富さが企業競争力の源泉でした。川上から川下までの垂直統合化ビジネスモデルを構築できたところが圧倒的に優位でした。ところが技術革新のスピードや要素技術のコモディティ化が加速するようになり、競争力源泉は、市場ニーズを掴んだビジネスモデルの独自性と、業務革新スピードと低コスト化、そして外部の卓越したリソースのネットワーク結合力がものをいう時代に大きく変化しました。
この時代の変化は、必ずしも企業規模が大きいところが勝つのではなく、小規模の個人事業であったとしても、十分大手企業と競争していける可能性が高まっていることを意味します。実際、小回りの効かない多くの大手企業が苦しんでいます。ところが新興のIT企業をはじめ、インターネットをフルに活用して次から次へと新しい価値を提供している企業は非常に元気です。それらは決して大規模とは限りません。成長著しい企業に共通している点としては、垂直統合型のビジネスモデルではなく、一様にアウトソーシング活用に卓越している点にあります。小規模事業体ですから、当然外部資源をうまく組み合わせなければ斬新な付加価値を創出することができません。自分自身の力やノウハウだけでは、大手に対抗できる競争力を確保することが困難です。一つの尖がった特徴で特定の市場、顧客で勝負して生き残りをかけるのが中小企業の真骨頂ですが、だいたい尖がった特徴だけでは、顧客が求めるサービス・商品の形にはなりません。ビジネスモデルとして買える提供価値にするにはアウトソーシングが必須です。例えば、正社員を雇用するにしても、派遣社員を活用するにしても、いわば労働力ををアウトソーシングで調達していること同じ意味です。顧客に提供できる商品に仕上げるためにも、労働力の調達なしに競争力ある商品を生み出せないことを考えますと、外部からいかにして経営資源を調達するか、つまりアウトソーシングするかの戦略が競争力の差別化につながる第一歩だと思っています。
三つのアウトソーシング
通常、生産性を高め、付加価値を高めることを通じ、仕事をうまく進めるには、雇用した従業員をどう配置して教育訓練するかということも大事ですが、外部の人材をうまく取り込んで協力体制を作ることが重要です。つまりアウトソーシングの如何によって経営効率が大きく変わってくるのです。一般にアウトソーシングは外部委託のことですが、実際には大別で3つの形態があります。
①業務委託
部品調達もある意味、製造工程の一部を外部の企業に製造委託して調達することと同じです。定型的な業務を外部の業者に任せ、他の付加価値創出分野に自社の経営資源を投入することに集中させることで、全体のサプライチェーンとしての高付加価値を確保したり、自社がやるよりも効率性が高く、コスト削減も可能とするために活用できるメリットがあります。業務委託は社内工程の一部を他社に依存するわけですので、調達先との関係構築や自社でできない技術力の取り込みなどが期待されます。調達部門や技術部門の目利き力が非常に重要です。
②人材派遣
通常、派遣会社が人を派遣し、派遣された人は派遣先の会社の指示で仕事を遂行する形態で、採用コストを控えながらスキルや経験のある人材を獲得することが可能というメリットがあります。日本では30年以上の歴史があって、ほぼ定着した感があります。多様な労働価値観に合わせたものとして肯定的な意見がある反面、労働者の立場からすれば仕事を通じた幅広いスキル開発にはつながらず、労働価値が上がりにくいため、どうしても待遇改善やモチベーション高揚と連動しません。派遣先企業の立場から見れば、派遣社員の比率が増えることで、職場の活性化が進みにくく組織学習能力が低下します。結果として労働生産性の低さから抜けきれない要因の一つになっています。また、①の業務委託を社内に取り込んだ請負形態もありますが、請負業務では派遣社員は派遣先の会社から指示は受けないので、偽装請負という問題がたびたび発生します。また、請負や派遣業務の比率が増え、自分に与えられた以外の仕事はしない人が増えていくと、職場風土全体がギスギスしたものになりがちで、職場から一体感が希薄になって組織革新力が低下していくことに留意する必要があります。
③コンサルティング
アウトソーシングの形態としては、仕事の委託を受けるのが「業務委託」、人の派遣を受けるのが「人材派遣」、両方含まれた人込みで仕事を請け負うのが「請負」になると思いますが、実はコンサルティングもアウトソーシングの一つといえると思っています。「知恵のアウトソーシング」とも言えます。アウトソーシングには、仕事の質を上げるために他社を活用する側面と、仕事の効率化、生産性を上げるために活用する側面があります。中でも「コンサルティング」は、顧客企業の業務に関して、より付加価値を高めたり、効率や質を高めるための企画や提案、助言を行い、顧客企業がそれを実行して成果に結びつける、高い専門性を必要な時に必要なだけ活用できるものです。
コンサルティングの価値をどう取り込むか
コンサルティングの価値は、決して時間単価で測れるものではありません。知恵のアウトソーシングを活用することで、どれだけの無形資産の付加価値資産を企業に提供できるかがポイントです。単位時間あたりのコストで高い安いと判断される企業経営者にとっては、おそらく費用対効果を正しく評価できないのがコンサルティングです。とにかく製品のように目に見えないものにはできる限り金を出したくないという経営者が多いのも事実です。「コンサルタント報酬が○○万円?高いなあ・・・それでどんだけコスト下がっていくら儲かるねん?成果報酬なら考えてもええけど」が特によく関西で聞くセリフです。
しかし、伸びる企業は無形資産を非常に重視します。なぜならそれこそが企業としての競争力源泉になることを理解しているからです。アドバイスを受けた知恵を生かして100%元を取るために、どう価値を創造していくか常に考えている企業が伸びていきます。企業経営者は非常に多忙です。時間当たりの経営者自身のコストや生み出す付加価値は非常に大きい金額です。しかし経営者自身が経営を考える時間はあまりないのです。人件費を節約したり付加価値を上げるために委託や派遣のアウトソーシングを活用するのは一般的になっています。でも、コンサルタントを経営者の右腕として活用し、知恵のアウトソーシングで成果につなげているところはまだまだ少数です。
実際コンサルタントの費用対効果は非常に大きいといえます。常勤でないコンサルタントに例えば月20万円で、ある仕事、もしくは経営助言顧問を依頼するとした場合、経営者は二つのタイプに分かれます。
A経営者は、20万円を払ったコンサルが実際に会社訪問しての相談時間が月何時間かをものすごく気にします。月にどんなときでもフルに助言サービス提供を受ける契約であったとしても、月に例えば2回訪問して合計10時間の仕事を基準に契約したとしますと、A経営者は時間当たり2万円の価値でコンサルタントを判断します。正社員よりも時間当たりの報酬が高いから、コンサル使うよりは社員に仕事させたほうが良いとの意識が先に立ち、結果としてほとんど契約はされません。コンサルタントを時間給の人件費感覚で価値を考える経営者のタイプです。
一方、B経営者はコンサルタントを活用するかどうかの判断基準として、報酬金額よりも目的とコンサルタント自身のノウハウ、専門性を活用できるかどうかをまず考えます。成果は会社とコンサルタントの一体取り組みで生まれる結果なので、いかにコンサルタントの専門性や知恵をどう経営者の知見として役立てるか、社内の無形資産としてDNA化するかを考えます。多額のコストと労力をかけて人材採用しても育成していくのにも時間がかかります。そんな悠長に構えているより、外部の卓越した能力を持った人材を、仕事単位で「クラウドソーシング」してスピードを上げていくことを重視しています。
さあ、どちらの会社が成長発展していくでしょうか。
外部アウトソーシングをフルに活用するには、目標とする付加価値成果を委託先と折半するぐらいの気持ちになれば、非常に大きな効果が生まれると思っています。例えば20万円の報酬を要求するコンサルタントであれば、活用することで40万円以上の新たな付加価値が創出できれば理想的です。これがもし正社員を雇用した場合どうなるでしょう。モデル化するために、例えば15万円の月給と年2回のボーナスを支給する社員の人件費が月平均20万円だったとします。実際には月20万円であっても、福利厚生や人がいることで発生する事務所経費を考えると、月30万円の人件費がかかってしまいます。この社員はフルタイムで働いてくれます。そして生み出す付加価値が、人件費の倍の60万円以上あれば労働生産性としてはある程度ペイしているといえるでしょう。一方、コンサルタントはたとえ月2回の訪問で20万円の報酬だったとしても、訪問日以外も会社のために調査したり資料準備を行ったり、電話やメールの問い合わせにフルに対応します。そして提供できる仕事は、経営者と同じ視点で高度な経営助言を行えるのです。しかも、40万円の付加価値がもたらせれば十分ペイするのです。もし働きが悪くて成果が上がらないのであれば、ほぼいつでも契約を打ち切ることができます。一方、社員は働きが悪くてもそう簡単には解雇することはできません。仕事がなくても給料は払わねばなりません。果たしてコンサルタントに20万円は高い報酬なのでしょうか。
経営資源のクラウドソーシング化が加速する意味
コンサルティングは経営者にとっての「知恵のアウトソーシング」です。入れ替え自由、分野選択自由、期間設定も自由です。今後企業が生き残るための生産性改革にはアウトソーシングは必須条件です。今、外部資源を活用するために仕事のアウトソーシングであるクラウドソーシングが拡大しています。ある仕事を社員に指示するよりも、ネット上に委託したい仕事をアップして全国から専門家を活用できるクラウドソーシングの仕掛けが広がっています。デザイン募集などは完全にその方向に移行しています。おそらく究極的にはあらゆる仕事が正社員ゼロ化へ向かうのではないかと推測しています。仕事を創っていくには、従業員を雇用して事業をやるのではなく、一人の経営者でも全国のあらゆる専門家をネットワーク化して新しい付加価値を生み出していくことがすでに可能になっています。必要な仕事の資源はAIロボットとクラウドソーシングで調達可能になったら、おそらく社員の居場所はなくなっていくのではないでしょうか。
人のリクルートのやり方も大きく変化しています。今までは会社が募集をかけて就職希望者が会社に応募するという形でした。今や人材がどんどん専門家することで、個人一人ひとりが労働提供ポータルに自分を「出品」し、その能力を生かせると判断した企業側が採用するのではなく、仕事単位で個人事業者に業務を発注する形態へ変化する兆しが見えてきています。
一億総活躍社会や働き方改革などの視点は完全にずれていると考えています。働き方改革は決して労働時間の短縮という問題に矮小化してはならないのです。抜本的な労働生産性改革に向けた動きについていけない専門性に劣る労働者、コンサルタントを使いこなせない企業双方とも、時代の変化に取り残される存在になることが見えていないのではないでしょうか。