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公的機関の海外展開支援のあり方について思うこと

一般に国や地域の公的機関が実施する支援施策には様々なものがあります。中でも中小企業の海外展開支援については、経済産業省が中心となって進めている中小企業施策と外務省によるODAにつながる社会貢献の一環としての政策的な後押しが代表的です。

その旗振り役となっているのが、経済産業省管轄でいえば、世界中に活動拠点を持っている日本貿易振興機構(ジェトロ)や中小企業庁傘下の中小企業基盤整備機構(中小機構)に加え、外務省管轄の国際協力機構(JICA)かと思います。それらの事業拠点も全国の地域単位で企業支援を行う地域事務所があり、その他にも経済産業省直属の地方産業局があり、それぞれ様々な支援施策を打ち出しています。

一方、国の機関だけでなく、都道府県単位の地方産業部局が海外展開支援の制度を設けたり、セミナー実施や展示会支援を行ったりしますし、各地の商工会議所も海外展開相談の窓口を設けたりしています。

少子化や事業承継の問題が中小企業の存立基盤を揺るがし、サプライチェーンの問題が顕在化するにようになり、国や地域がこのように中小企業政策として国が支援政策を強化すること自体はそれなりに意義があるものとは思います。しかしながら、制度そのものが肥大化し、実施機関によって支援内容の重複が目立つようになっているという印象があります。

ややもすれば、公的機関は中小企業のために知恵を巡らし政策を立案実施することが、企業の成長支援につながるはずであるという確信の元に、どんどん制度が増えていく中で、いかにそのイベントを実施するかということが目的化してしまってはいないでしょうか。本当にその政策は税金投入に見合うだけの経済効果が発揮できているのでしょうか。

企業支援の専門家として具体的に企業に寄り添って支援を行う立場である診断士から見ると、いくら海外展開支援制度を充実拡大したとしても、国や地域の公的機関自身は企業経営の主体者ではないため、本当の企業のニーズを理解できているのか、実際に企画実施しているイベントが自己満足に陥ってはいないかという観点から、あるべき海外展開支援について改めて考えていただきたいところです。

1.国や地域の公的機関による支援制度拡充の弊害

国の支援制度や各種イベントの実施に税金が投入されているのは当然のことです。一部有料で実施したり、参加の補助金という形での支援もありますが、だいたいが無料のイベントとして企画実施されています。

それらの制度は数えきれないほどたくさんあるのですが、その中で一つの事例として経済産業省による「新輸出⼤国コンソーシアム」というものがあります。ジェトロが実施の主体となって、商⼯会議所、商⼯会、地⽅⾃治体、⾦融機関、ジェトロなどの⽀援機関が幅広く結集し、海外展開を図る中堅・中⼩企業等に対して、総合的な⽀援を⾏う枠組みです。具体的にはジェトロが公募した各国・地域事情、実務に精通した専門家が、継続的な企業訪問・商談同席・海外出張同行を通じて、海外展開戦略策定段階から、事業計画策定、実行段階までハンズオン支援を行ったり、個別課題を解決するスポット支援を行うスキームです。

また平行して「新規輸出1万者支援プログラム」を走らせて、同じように専門家による事前の輸出相談や、輸出用の商品開発や売り込みに係る費用補助、輸出商社とのマッチングやECサイト出店支援などを大がかりに推進中です。

海外展開に関する情報提供や相談窓口を充実させることは公的機関の役割としては効果的だと思います。ただ、ありとあらゆるところで無料セミナーが花盛りですし、本来企業自身が個々の戦略として推進するべき販路開拓や外国特許出願、海外展示会の出展、海外ビジネス人材の育成支援、アドバイザー派遣による経営支援、マッチングイベントの実施を無料で実施するプログラムが重複、拡大の一途をたどっています。

『素晴らしいじゃないですか?』『国や地方が専門家支援の活動費用を持って、無料で支援してくれるんでしょ?』・・・・

しかし、国や公的機関が無料で実施するということはその費用は国民の血税から賄われるのです。国全体からみた費用対効果が上がる投資でなくてはならないはずです。将来企業が成長し、利益を上げて税金で回収されなくては意味がない政策であると思います。

ここに2つの問題があります。

一つは、公的機関の制度肥大化による「民業圧迫」が深刻化するという点です。具体的な支援は経営の実践経験を持たない役人が行うのではなく、士業と言われる専門家に公募を通じて短期間の業務委託し、支援対象の企業そのものすら専門家の仕事として発掘営業させています。通常、士業専門家は自らの専門性を訴求し、個別ニーズに合わせたコンサルティングや専門業務受託を直接企業と契約しています。ところが公的機関が予算と自らの組織存在意義のために無料で様々な制度を拡充していきます。結果、新たな制度を企画拡充するほど広く浅い支援制度になってしまい、経済的効果がどれだけあるのか実証することが難しくなってきています。

しかも、公的機関が委託する専門家報酬額は非常に低いのが実態です。この20年ほとんど見直されていません。事前準備に要する労力と拘束時間を考慮すると、時給報酬換算では2~3千円ぐらいであり、つまり広く浅い専門家が採択された限定的な少数の企業を無料で支援しているのです。本来専門家は特定分野に深い知見と専門性によって、顧問企業の成長戦略を支えるのが本来あるべき姿ですが、専門家リソースを安価に業務委託し、中小企業に無料支援するのは明らかに「専門性の質低下を招く民業圧迫」と感じるのです。

二つ目は企業側の問題です。無料支援を受けられるからと、自社の戦略構築を支援機関に丸投げし、安易に専門家の描いたストーリーで実施する傾向があります。そういった企業ほど専門家を活用することをコストでしか考えておらず、専門セミナーも公的機関が実施する無料セミナーばかりを渡り歩き、無料で入手したプレゼン資料を読んだだけで、やれるような気になって満足してしまっている企業を多く見かけます。結局、自社で実施しようとしても無料セミナーだけでは困難ですし、公的機関が実施する無料の専門家派遣を申し込んでできればタダでやりたいと思っています。

公的機関が無料で専門家派遣するのは民業圧迫であり、専門家の質低下につながると申し上げましたが、公的機関の支援は年度予算の壁にぶつかり、委託専門家も年度ごとに採択し直されます。また、年度ごとに国の政策に合わせて支援の焦点が変わってきますので、最終的には採択企業の選別基準もころころと変わり、継続性のない支援になってしまいます。皆さんはあまりご存知ないと思いますが、JETROの支援制度も中小機構のアドバイザー支援やCEO商談会も、またJICAのSDGS支援事業も、採択企業数は極めて少数です。しかし支援事業実績報告はあくまで事例の一つとして大々的に白書などに記載されますので、いかにも効果の上がる事業という印象を与えてしまいます。

認定経営革新等支援機関という万単位の支援専門家が補助金申請や審査に関わっている他の補助金とは異なり、今の海外展開支援関連の制度効果は極めて限定的と言えるのではないでしょうか。

2.中小企業が主体的に取り組む海外戦略を支える補助金制度こそ必要

ジェトロだけでなく地方の公共団体も、中小企業の海外展開を支援するべく、海外展示会出展支援とマッチング商談会に取り組んできました。しかし、私は一貫してこの支援政策は中途半端で本筋を外していると考えてきました。

まず海外展示会支援ですが、だいたい公的機関が海外の展示会を自らの価値観だけで選択し、ジェトロブースとか〇〇県ブースといった公的機関名で一定区画で出展枠を押さえます。そしてその区画を細分化し、出展料無料で中小企業を公募して出展させるのです。企業にとっては出展料なしに海外出展できるので、販路開拓につながると申し込んで出展します。

ところが公的機関は企業を募集して出展することが目的化していますので、ブースコンセプトの指導もしませんし、まして商談の支援やフォローもしません。結果的に公的機関のブース名のファサードばかりが目立ち、来場客にとっては全く訴求力の乏しい展示会ブースレイアウトとなってしまっていることにまだ気づいていません。

マッチング商談会もとにかく海外および日本の企業を集めてイベントを開催することがゴールになってしまっており、なぜ成約に結びつくマッチングイベントになっていないのか、これも本質がわかっていないと感じます。大事なのは販売側、購入側の企業のニーズを分析した上での、マッチング商談の仕掛けと商談会後の案件化の取組みにあります。ところが公的機関のフォローアップは来場者数のカウントと事後のアンケートをアドバイザーに依頼するのみ。これではいつまでたっても成果には結びつかないでしょう、

企業の海外事業戦略ニーズは様々です。単に輸出1万社といった一つの物差しで戦略が集約できるはずもありません。海外展開は持続性のある企業活動の一つの形に過ぎません。輸出だけでなく海外企業間連携もあれば、海外展開のM&Aもあるはずです。これらの企業戦略策定と実践計画を自ら実践していく経営を支援する補助金こそが本来あるべき姿ではないでしょうか。

海外展開するにあたって海外拠点設立に補助金を出すのは税務上問題があるので難しい、だから人材育成とか専門家によるハンズオン支援など日本で経費を出す制度にしていると言われる公的機関の方もおられますが、制度よりも実質が求められます。実際JICAの案件化実証事業では、海外での費用も委託事業の形で出せていますので何とか方法があるはずです。

中小企業自らが認定経営革新等支援機関の中から海外事業専門家の支援を受けて海外戦略を構築し、その策定された戦略を実施するための「海外事業戦略実践補助金」のようなものを創設できれば(輸出1万社みたいな他の制度に包括できるようなものは止めて)、より企業自身が主体的に責任を持った海外展開が可能となり、展示会も自社にとって最適な展示会に自社のデザインとマネジメントで出展することのよって高い費用対効果を生むのではないかと思っています。

とにかく経営の質を高めるためにも無料セミナーを含めてタダの支援は極力なくすべきです。そうしないと本気度の低い参加者をいくら集めてイベントを実施したとしても成果にはつながらず、結果として税金の無駄遣いから抜け出すことができないのではないでしょうか。