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ベトナム経営者の日本研修での学びから見えてくる日本企業の問題点

ODAの一環でベトナム人経営者育成事業である「経営塾」の研修講師として携わって早や8年になります。ベトナムでの対面講義やオンライン講義に続き、総仕上げの実践研修として日本企業を訪問し、実際に日本企業がいわゆる「日本式経営」をどう実践しているのかについて学ぶ約10日間にわたる「本邦研修」が用意されています。私はこの経営塾において、「事業計画(ビジネスプラン)」の中で実践ワークショップを担当する一方、ここ数年は「本邦研修」のコースリーダーとして訪日研修生に課題設定から企業訪問や日本企業との交流・商談、研修総括発表までの支援も担当しています。

元々講師の役割は日本式経営の本質について講義を通じて一方的に教えることです。しかし、この数年間連続でベトナム人経営者の「本邦研修」での学びに付き添うことによって、明らかにベトナム人経営者としての資質や能力向上の変化を感じることが多くなってきました。そのことで「経営塾」そのもののあり方も明らかに変化の時代を迎えたのではないかと感じます。

むしろ彼らの学ぶ姿勢から日本企業や日本人自身が学びについて気づくべき点が多いと思ってます。

あえて極論を言えば、「開発途上国向けにODAで学びを提供している余裕など日本にはもうないのではないか」、「日本企業や日本人は外国に教えを垂れるほど能力的にもモラル的にも優秀といえるのか」、「そもそも日本人は外国人と比較して勉強が足りないし、競争力もスピードも圧倒的に負けているのに危機感がない」、「少子化で労働人口が急減している現実を直視せず、能力向上による生産性の高度化を実現できないことが賃金の上昇につながっていないことに気づいていない」・・・・・暴論のように聞こえるでしょうか。でも、海外から見た日本のリアルの姿です。

内向き志向の日本企業や日本人が気づくべき外部環境の激変

過去30年、40年、高度成長時代の日本は、必死になって海外に出かけて自ら販路を開発し、海外に通用する商品企画や製造体制づくりなど、積極的に海外に打って出ることで諸外国から経営ノウハウを学んできました。その結果、日本企業は技術力を極め成長発展してきました。富が蓄積されることで、あえてリスクの大きい海外まで出かけていくよりも国内需要でそこそこやっていける経済構造となってしまったように思うのです。

そのため、日本企業や日本人の多くは、日本経済圏で生きていくことで満足する体質に変化してしまったと思います。外部環境変化やリスクを嫌うチャレンジスピリットの低下につながってしまっているのではないでしょうか。

企業の海外展開においても海外赴任に積極的に手を挙げる若手社員が少ないというのは現実ですし、日本人留学生の数も減少しています。少子化で若年層の人口が少なくなっているにもかかわらず、その少ない若年層の関心が、さらに内向きのアニメやゲームに重点がシフトしているのです。

外の世界を学ぶことで、個人だけに留まらず社会や国の将来あるべき姿が見えてくるのではないでしょうか。少なくとも日本が内向きに留まっている間に、諸外国が必死になって外国の経済発展に追いつくために勉強している事実を直視するべきだと思うのです。

そして、日本人はもっと働き、もっと勉強し、もっと海外に出て社会のあり方を見つめるべきではないでしょうか。個人の価値観を優先した働き方改革が全ての基盤であるべきという考え方には違和感を覚えるのです。今こそ海外から日本を見つめなおすことが重要だと思います。

ベトナム人の日本研修で感じたベトナム企業の変化

コロナ前と現在を比較したとき、ベトナム人の経営塾研修生の学びが明らかに変わった点があります。

その第一が、グローバルな社会経済環境の変化について冷静に良く見ていることです。一方で、グローバル環境が大きく変化している中で、ベトナム企業の立ち位置とともに、ベトナム企業が解決するべき課題やベトナム人自身の問題点についても以前に比べて理解度が高まっていると思います。

第二に、ベトナム企業の動きが加速しているということです。日本企業からみたベトナム企業の問題点は、以前は特に品質における信頼性であったり、時間厳守や対応力の問題にほぼ集約されていたと思います。したがって日本企業は自ら子会社を設立する海外展開が通常の戦略パターンでした。ところがコロナ禍の期間中に、ベトナム企業の品質対応力やIT化の取組みなどは、改善度でみた場合には日本企業を上回っているように感じます。

つまり、ベトナムでは企業、人材とも十分国際競争力に耐えうるレベルに達しつつあります。日本企業にとっては、自ら子会社設立で投資するよりも、ベトナム企業と提携なり買収なりで経営資源を補完できる時代になったということを強く感じました。

ベトナム企業が共通する経営課題認識

しばらくコロナの影響で日本研修が延期となっていたのですが、今年8月から連続して4クラスの日本研修を受け入れました。環境変化の中で、経営塾研修生が共通して質問し学びたいと感じている点がありました。

ほぼ二つの課題に集約されます。「経営理念の実践」と「人材管理と育成の実践」です。

本邦研修では、経営塾講義テーマの中から、「経営理念と経営戦略」「生産管理・品質管理」「販路開拓・競争力強化」「人材確保と育成」がどう日本企業で実践されているかについてチームごとに課題設定して最終報告させています。実際総括をするときには、ほぼこれら全ての課題は、経営理念と人材育成に行き着くという結果が見られます。

突き詰めていくと、日本企業でもまたベトナム企業双方において共通する経営課題の根幹ともいえると思います。成長発展している企業は、「何のためにこの事業を行っているのかを明示し企業経営の目的を表している経営理念」が明確であり、「企業経営の根幹である人材育成」の方針と取組みが重要だと考えているところばかりです。

ベトナム人経営者に訪問した日本企業は、経営理念と人材育成ともに先駆者的かつユニークな取組みをされているところばかりで、ベトナム人経営者にとっては非常に有意義な研修であったと総括しています。この二つの課題は、ベトナム企業が悩んでいる重点問題でもあることを示しています。

当初訪日されたベトナム企業経営者の期待は、自らの経営課題について何か具体的な解決策を獲得できるということでした。しかし、日本とベトナムでは企業文化や国民性、職業観の違いがあります。日本企業が実践しているしくみややり方をそのまま踏襲しても、ベトナム企業ではうまくいかないこともあるわけです。

例えば、経営理念を徹底するにはどうしたら良いかという課題については、何か特別な報酬とか行動規範違反に対する罰則などの仕掛けがあるはずだと思っていたようです。ところが日本企業では理念の徹底を図るために、人事制度の報酬や罰則などと連動させるようなことはあり得ないことですが、それなのに日本企業では社長の理念や方針が末端の従業員まで同じように徹底されているのはなぜかということに、最後まで腹落ちできなかった様子も感じました。

人材育成の重要性もしかりです。どうしてもベトナムを始め諸外国では、スキルとモチベーションで成果を上げるために、どう報酬と連動させるか、レベルに達しない人をどう排除するかという人事制度と直結させるところが多いです。どうやれば人が育つのか、という疑問には本邦研修でもモヤモヤ感が拭いきれていなかったようです。

結局は、経営トップが「なぜ」を繰り返し続けることしか解が見つからないのではと納得してもらったのですが、おそらく彼らなら自分なりの方向性をスピード感を持って見つけ出せることと思います。

むしろ日本企業の方こそ、経営理念の実践と人材育成への投資について改めて考え直さないと、いずれはベトナムに追い越されるのではないかと危惧を感じています。