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コストが上がったから給料も上がるはず?

日本の給与水準はこの20年以上ほとんど上がってきませんでした。これはずっと価格が下がっていくデフレ経済が続いていたことが原因とというのが一般的な理解かと思います。単純に言えば需要よりも供給が大きい構造が変化できなかったからです。しかし少子化が続いて人口減少による需要規模の縮小が原因とも考えられる一方で、労働力不足も深刻化して供給力も縮小している現象があります。需要も供給も伸びない経済下では成長発展する基盤が削がれてきたわけです。

少子化が深刻化し労働力不足となれば、労働市場の需給関係から通常は給与水準は上がっていくのが自然です。しかし上がらなかったのはなぜでしょうか。日本経済全体が国内需要に安住する体質が染みついてしまい、成長発展するために海外市場を取り込んでいくマインドをもった企業が少ないことに原因があるように感じます。

伸びない国内市場だけに着目した事業を行う限り、成長性は低下するだけでなく、利益を確保するために取るべき手段はコストダウンで価格面の比較優位性を確保するぐらいになってしまいます。もちろん顧客価値を極めた特化した商品開発で需要を確保できるポジショニング戦略が前提となりますが、競争相手も限られる国内市場でも熾烈な競争優位を確保するためには人件費を含めたコストダウンは絶対条件となります。

今までは価格競争の中で円高の恩恵もあり原価も下がり続けていました。しかし人件費は下方硬直性があり、特に日本は労働市場の流動性が低いため、給与水準は下がることもなく一方で上がりもしなかったわけです。また少子化による労働力不足については、外国からの技能実習生等の人材活用で何とか対応してきました。

国内需要依存構造からの転換は待ったなし

ところがもう限界に達しつつあります。国内に留まった事業構造を続けていく限りはどんどん厳しい状況に追い込まれていきます。ロシア情勢に端を発した急激な円安の加速は、国内事業でのコスト構造はさらに厳しさを増してきました。

円安になると原油高を始めエネルギー価格の高騰によってコスト率は一気に上昇、当然輸入資材の価格も値上がりが加速します。これによって消費者物価の値上げが相次いでいきます。ところが人件費は余程の労働力不足が深刻化しないと上昇しません。

物価が上がったから、連動して労働者の給料は上がるものなのでしょうか。労働市場も経済原理で動いています。バイト紹介事業者のCMでも「店長、時給を上げてください」というものがありますが、経営者の立場から見るとそんな単純なものではありません。売上が増えていない状況下で原材料コストが上がっていけば、まずやらなければならないのは固定費の削減です。しかも企業にとって最大の固定費と言えば人件費です。しかし人を減らせばコストを下げる効果はあるものの、付加価値を生み出す源泉は人であることを考えると、売上は逆に落ちていく影響が出ることを考えねばなりません。

さあ、皆さんは経営者としてどうしますか?

当たりまえのことになりますが、一人ひとりの従業員が生み出す付加価値、つまり一人あたりの生産性をいかに高めるかが鍵となります。一人あたりの売上高を高め、一人あたりの総利益をどうすれば最大化できるかに行き着くと思うのです。その結果、生産性を高めることができて初めて給与水準が上がっていきます。この生産性上昇の実現なしに給与水準が上がっていきますと収益は一気に悪化します。

ですから、物価が上がったから給与も昇給していくはずということはあり得ないのです。

高度成長時に海外市場開拓に挑戦しつづけた先人たちの挑戦から学ぶ

少子化が加速する日本経済にとって、最大の課題は生産性を高まること、つまり一人あたりの付加価値額を最大化するために、あらゆる経営対策を行うことに尽きます。付加価値とは「営業利益+人件費」と理解できますし、別の意味では原価を除いた粗利益から人件費以外の固定費を除いた額ということにもなります。その付加価値をいかに少ない人員で実現することができるかが生産性の

指標になります。

粗利益額が少ないというのは、売上が少ないか原価率が高いからです。売上を伸ばすには新しい顧客を開発するか、顧客単価を増やすか、リピーターを増やすかがその手段になります。原価率を下げるには高く売れる高付加価値の商品を販売するか、原価の引き下げを実現しなければなりません。

少子化で国内需要が縮小し、物価やエネルギー価格の上昇による原価率が増加すると、当然収益性は大幅に縮小します。売上が伸びない中で原価高騰を理由とした値上げが通用しないと一気に赤字に陥る可能性が高くなります。こういった状況下では余程の大手企業でない限り給料を上げることは難しく、むしろ人員削減で少ない人員で少ない需要に耐えていくかをまず考えると思います。

つまり、この苦境を打開するには、国外に打って出ることで売上を伸ばすことに挑戦すべきしかないと思うのです。

幸いにも円安ということは輸出競争力が強くなります。輸出によって海外市場を拡大する絶好のチャンスでもあります。ところが、海外展開といっても、言葉ができないとか、商習慣が違うとか、リスクが大きいとか、わからないからやらないといった理由ばかりで、経営者の高齢化が進むとともに企業の挑戦意欲がかなり低下しているのを感じることが多いです。

中国やベトナムなどアジア諸国の経営者と日常接することで、彼らのアグレッシブな成長発展に向けた行動力とスピードには目を見張るにつれ、日本企業の保守的なリスク回避の姿勢というか、チャレンジ精神の低下は、中小企業に限らず大企業の経営者にもその傾向を感じます。

日本企業がずっと国際競争力を失い続けている原因はまさにここにあります。一刻も早くM&Aを含めた事業承継を加速させ、より若い挑戦意欲のある経営者に引き継いでいかないと、このままでは日本経済は本当にダメになってしまうのではと痛感するのです。

私が社会人になった40年以上前のころは、すごい先輩たちが世界中を駆け回っていました。海外市場の販路開拓とともに海外事業拠点をどんどん設立し、海外人材の育成も徹底して行っていました。まさに市場拡大こそが企業発展の基盤であったわけです。日本企業が世界で冠たる地位を占め、抜群の国際競争力を保有していたのです。

ところがこの20年以上、あまりにも日本市場に安住してしまったがゆえに、成長発展に対する貪欲さを失い、貧困を脱却した国民の大半も競争で勝つことによる生き残りのための活力をなくしてしまったと思うのです。国際競争力の点においても、安全保障の点においても、あまりにもお花畑の精神構造が現状につながっているのではないでしょうか。

やはり重要なのは、企業経営においてもまた国家運営においても常に危機意識を持つことと、あるべき姿の目標を明確化し、その目標達成のための課題解決を具体化していくことに尽きるのはないかと思いを強くしています。

皆さんの給料の上昇は、生み出す生産性の伸びに見合っていると思われますか?