新在留資格制度はもっと現実面から改善すべき
ドタバタの国会で外国人労働者拡大を主目的とする入管法改正と新在留資格制度の創設が決まりました。少子化問題が深刻化する中、国は「働き方改革の実現」と「外国人労働者の活用拡大」を最重要政策として取り組んでいます。しかし、企業や国民全体としてはまだまだ危機意識が高まっていないのが現実の姿だと思います。
実際、今回の入管法改正は、人が集まらないがゆえに、外国人労働者を採用するための規制を緩めてほしいという産業界の声に引きずられる形で拙速的に成立した経緯があります。そのため、実際の運用については走りながら考えるというのが実態であり、過去外国人労働者の導入拡大は、本来国際貢献の制度として実施されてきた技能実習制度や留学生拡大が、実質的に非熟練労働者不足への穴埋めに使われてきたという本音と建て前のずれのため、不法滞在者の増大や外国人犯罪増などにつながっている実態を直視した国会の議論にはなっていませんでした。
従って、国民の間にも急増する外国人労働者の受入れへの戸惑いと外国人向け社会制度の未整備が露呈しているため、将来に向けての社会的不安が国民に広がりつつあるあります。最近の世論調査でも、外国人労働者を拡大することの必要性については過半数が理解を示すも、決定された新在留資格制度や入管法改正については拙速であるとの声が多数を占めているのは、現在の国民としての正直な受け止めであると言えます。もっと国、政府として外国人労働者の受入れを拡大するための施策についての国民的合意形成を図るべきであり、とにかく産業界が悲鳴を上げているからと、社会そして企業としての受入れ準備が不十分な状況で、あまりにも拙速的に外国人労働者の受入れ拡大を図ると、取り返しのつかない社会的不安を増長させる恐れが十分にあるように感じています。
外国人労働者の拡大には賛成するが・・
私自身は、今の少子化とこれからの人口動態を考えますと、外国人労働者の導入拡大なしには国の経済そのものがもたない危機感を強く持っています。それゆえ外国人労働者の導入をさらに拡大していく必要性は感じています。
しかし今回の新在留資格制度の立てつけがあまりにも現実をあまり見てない机の上で考えた仕組みを法案にしたために、国会審議でも多くの矛盾が指摘されていたように思います。ただ、現実的には最初から完璧なものは無理であり、走りながら運用状況をコントロールしていく以外にはないように思っています。
新在留資格制度では、本来主旨の異なる技能実習制度を拡大活用することで、いわゆる「特定技能人材」に育った実習生を高度人材として実質移民的扱いで長期活用できるようにするようになっています。しかし考えねばならないのは、技能実習生として日本にやってくる発展途上国の人材は、基本的には出稼ぎ目的であることを正しく認識しなければなりません。彼らは技能を学ぶことが第一の目的ではないのです。以前は日本の技術を学んで本国に持ち帰って活かしていきたいという高邁な目的意識を持って実習に来ていた人が多かったのです。しかし、何年もこの制度が継続してきたことで、都市近郊の教育された出身者から、いわゆる地方出身者にシフトしてきており、彼らのほとんどは出稼ぎが目的であるという現実をまずもって直視するべきです。
根本的に産業界の労働力不足対応、特に労働集約型の事業における非熟練労働者の受け皿として、本来国際貢献が目的である技能実習生をそのリソースに組み込んだことがそもそも無理筋のように思っています。非熟練労働力を外国人で補うには、技能実習制度を拡大利用するのではなく、韓国や台湾などのようにきっちり非熟練労働者向けの別体系の法整備を行い、労働力不足に対応するべきものであると考えます。
ややもすれば日本政府は、ややこしい実務については民間に投げる傾向が強く、法改正の枠組みを中心にやって、あとの管理を民間にやらせて規制管理だけでなんとか回そうとしているように思います。そのため実態をよく理解できずに法整備した中で外国人労働者の導入拡大を図ると、いわゆる悪徳の中間業者が跋扈するようになるのです。実際、韓国や台湾では、高度人材とは別に、非熟練人材を導入するための法整備とともに、導入人員を細かく設定し、国の海外出先機関が採用活動にも直接関与していく仕組みを持っています。
一方、3年または5年かけて企業の努力もあって優秀な実習生として育った人材については、一律国に帰ってもらうのではなく、高度人材として切り替えできるように選択肢を用意しておくべきです。ただ、彼らは日本人と同じ労働観を持っているのではなく、家族や自分自身の幸福実現のために、能力をもっと好待遇で評価され、いとも簡単にグローバルで活躍できる企業に転職していく人材でもあることを、育てた企業自身だけでなく、制度や運用を決めていく国や行政もその認識を持って、もっと現実に即したものに変革していくべきであると考えます。
そのために、今後技能実習制度の改革と同時に労働力不足に対応していくための提案をしたいと思います
① 技能実習制度における在留資格を「特定技能資格」と分離
今回の新在留資格の創設と入管法改正では、5年の技能実習を終えたものは自動的に「特定技能1号」として位置づけられることになっているようです。しかし、本来、技能実習生は日本で学んだ技能を本国に持ち帰り、その国・経済発展のために資することがその目的であり、技能実習生をさらに日本が労働力として活用するのは本末転倒した制度であると言わざるを得ません。技能実習生と専門分野の特定技能資格を明確に分けることにより、短期間に出稼ぎ目的で来日した実習生がなし崩し的に移民化することを防ぎ、一定期間実習を通じて学んだことを自国の産業発展に活用してもらうため、運用面から本来の実習目的に立ち戻り、労働不足対応には別の資格制度の設計が必要と思います。
② 非熟練技能労働者を一定期間導入できる新資格制度と採用を国が直接関与
技能実習生を労働不足対応の受け皿として運用するのではなく、本来の国際貢献の制度に戻すと、非熟練労働者の不足感は解消されないままとなります。韓国や台湾などで運用例を参考に、日本人雇用に影響が出ない範囲で、産業別に上限を設定し、国の機関が採用活動に関与し在留管理を直接行うための法整備を推進することを提案したいと思います。
③ 技能実習制度を通じて育った高度人材を「特定技能在留資格」として扱う選択肢
専門的技術的分野の資格を高度人材の「特定技能在留資格」制度として、技能実習生からの切替と統合できるようにすることで、出稼ぎ目的の技能実習生を排除する一方、技能を持った高度人材を長期間活用できる仕組みとなります。技能実習を通じて培った高度技術を活かすために本国に帰国するのが本来の姿ですが、さらに技能を磨き、日本企業の高度人材として活躍する選択肢も用意する制度を整備することが有益です。
④ 技能実習生および高度人材受け入れ企業の支援強化
技能実習生を単純労働力としてではなく、本来の技能実習のあり方に立ち戻り、活用するための労務マネジメント支援を厚労省の枠組みで管理の視点からだけで取り組むのではなく、高度人材を含めた外国人を活用した成長戦略を後押し支援を中小企業診断士のネットワークを活用しながら進めたいところです。
⑤ 外国人留学生の中小企業就職支援の取組み強化
現在一部の大学が先頭を切って、外国人留学生の日本企業就職の拡大に取り組んでいますが、ま だまだ企業側の認識が追いついていない現状があります。中小企業が人不足に対応しつつ、伸びる海外市場に打って出るためには 多様な人材を成長戦略に活かす機動力が重要です。企業と大学とのマッチング強化により、優秀な留学生を日本企業が採用できるように国、行政レベルでの支援が望まれています。
今は法改正とともに新在留資格制度の実施に向けて閣議決定されたところで、4月からの実施には生煮えの状態で見切り発車するため、当初は相当混乱する状況が想定できます。こういったときこそ企業としての外国人材活用の土台を固めることができる絶好の機会であろうと思っています。
・・・本年のブログはこれをもって最後になります。来年はいよいよ新元号の新たな時代を迎えるとともに、外国人人材の本格活用の実践元年にもなると思います。少子化の危機を乗り越えて成長発展していくためにも、一層の支援活動を強化していきたいと思います。今年は大変お世話になりました。皆さん、良いお年をお迎えください。