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海外拠点の経営診断は5Sに始まり5Sに終わる

中堅規模以上の企業では、海外拠点の経営管理がきちんとできているかどうかについて内部監査を行うことが多いと思います。経営管理の監査ですから、もちろん経理や管理のしくみ、実践について不正がないかどうかが中心に行われます。しかし、中小企業になりますとそこまで細かい監査を行う余裕はなく、せいぜい経理責任者が帳簿について定期的にチェックを行ったり、特に仕入れ販売や在庫について差異がないかどうかとか、過剰在庫や売掛金などキャッシュフローに直接影響する部分を精査するのが一般的です。経営全体からみるとキャッシュフローが一番重要で、それに直結している販売、利益、在庫、売掛金を見ておけばだいたい経営がうまくいっているかどうかがわかります。このあたりは経理の主体業務なので、監査といっても経理社員が直接関係するだけという場合が多いのですが、経営全体を支援するコンサルタントとしては、財務指標など経理関係業務だけを主体にアドバイスしているわけではありません。

職場管理の基本の5Sは経営の土台

5Sというとどちらかと言えば生産管理の手法の一つと受け止めている人が多く、生産現場に直接かかわっている従業員以外はあまり関心がない場合が多いです。しかし、製造業に限らず流通・サービス業においても、5Sがまずきちんとできていないと、PDCAも回りませんし、結果職場課題の改善の取組みが進まないため、基本のQCDが達成できないことになります。そうなると顧客の信頼を得ることができないことで、売りも利益も結果につながりません。経営は5Sに始まり、5Sに終わると言っても過言ではありません。

5Sとは5つのSで始まる職場環境管理の基本です。
●整理(せいり:Seiri)
●整頓(せいとん:Seiton)
●清掃(せいそう:Seisou)
●清潔(せいけつ:Seiketsu)
●躾(しつけ:Shitsuke)
全部最初の頭文字が、Sで始まる日本語です。ベトナムでは、うまくベトナム語でSで始まる言葉を当てています。
●Sang Loc (整理)
●Sap Xep (整頓)
●Sach Se (清掃)
●San Soc(清潔)
●San Sang (しつけ)

それぞれに定義があります。

1. 整理(せいり:Seiri)
「いるもの」と「いらないもの」を区分していらないものは捨てること。

2. 整頓(せいとん:Seiton)
必要な素早く取り出せるように置き場所、数量、置き方を決めること。

3. 清掃(せいそう:Seisou)
身の回りや職場を掃除し、ゴミなし、汚れなしの状態にして、同時に点検することです。

4. 清潔(せいけつ:Seiketsu)
ゴミなし、汚れなしの状態を保つこと。

5. 躾(しつけ:Shitsuke)
整理・整頓・清掃・清潔が計画通りに実行され習慣化すること。

税務会計系や人事労務系のコンサルタントからはなかなか気づきを得られることはありませんが、実際、これらを徹底することにより多くのメリットを得ることができます。
• 無駄なスペースがなくなり固定資産を圧縮し資本回転率が高まる。
• 在庫の回転率が向上し資本収益性が改善しキャッシュフローが安定する。
• 素早く現品を取り出せるようになり、生産性が向上する。
• モノの移動が安全でやりやすくなり職場の安全管理が向上する。
• 管理が単純になりムダを排除でき収益性が向上し品質が安定する。。。などなど
逆にこれができていないと、ムリ・ムダ・ムラが恒常的に発生するため、品質が落ち(Q)、コストがかかり(C)、納期が守れなくなる(D)、つまり経営業績に直結する問題の根本原因となるのです。

経営コンサルタントとして診断助言するときにどこを見るか

監査の専門家はまず経理帳票を精査します、そして経営責任者のインタビューを行って、経営管理がきちんと実践されているかどうについて評価をするのが一般的です。しかし、私ならそのような方法で診断を行うことはしません。まず現場を見ます。そして、5Sの観点から30分ほど現場を見れば、だいたいその会社の経営上の問題点を言い当てることができます。その上で、「4ラウンド法」という手法で、1.現状把握、2.本質追求、3.対策確立、4.目標設定をハンズオンで企業責任者と一緒に行うことで経営改善の方向性を診断助言していきます。

あくまで現場を見ることが基本ですが、30分で現場の問題の本質を把握できるはずないと思われる方もおられるでしょう。実際、30分で全ての現場を見ることは無理です。しかし、30分で見るのはたったの3か所で十分なのです。生産工程を詳しく説明してもらう必要はありません。

製造業の場合、現場といえばまず工場です。見学させていただくときには5Sの観点から観察します。整理、整頓、清掃、清潔ができていて当たり前です。これができていない工場で良い製品ができるはずなどありません。ここに問題がある会社は根本的に経営をやり直す必要があります。

むしろ私が工場の現場で見ているのは3点です。まず経営理念やスローガン、現場の管理課題についてきちんと「見える化」つまり掲示されているかどうかです。そして二つ目はモノの動きです。工程間のモノの動きにムリ、ムダ、ムラがないか、材料供給や仕掛品の流れでボトルネックを作っているところはないかということです。そして三つ目は、従業員の表情です。外部の見学者に対してきちんと挨拶をする、従業員同士が声を掛け合って連携しているかどうか、そしていきいきと働いているかどうかを見ているのです。これは工場以外の現場、事務所でも同じことです。この3点を見れば何が問題かだいたいわかります。

30分で見るときに工場以外のところがあります。まず「倉庫」です。「倉庫は経営問題の宝庫」といっても過言ではありません。在庫は経営資源が形を変えて眠っている姿そのものです。倉庫に眠っている在庫をいかに早く現金化するかが経営管理で極めて重要です。在庫は利子がつきません、在庫は時間経過とともに陳腐化します、そして保管費用がどんどん増えていくのです。早く付加価値を付けて現金化しないと経営の足を引っ張ります。ところが、少なければ良いのかと言えばそうではなく、一方で在庫がないと売上につながらないやっかいな存在なのです。普段在庫を目の前にして仕事をしていない場合が多く、特にスペースの問題で外部倉庫を借りているときなど、経理書類以外には実感として理解していない経営責任者や営業責任者が多いものです。私はできる限り倉庫を見学させていただき、きちんと管理ができているのか、雑然と床に置かれていないか、先入れ先出しが徹底されているのかなどをチェックすることで、在庫の問題を短時間で十分把握できます。

最後の5Sチェックの現場は、意外かも知れませんが「トイレ」です。時間があればキャンティーンも見ます。「トイレ」も「キャンティーン」の現場も、だいたい外部の委託業者に清掃業務を任せています。賃貸オフィスに入居している場合は仕方ありませんが、自社工場を運営しているときには、いくら清掃業務を外部に委託したとしても、自社のファシリティ内の責任範囲です。お客様も利用することを考えると、任せっぱなしで良いはずはありません。ベトナム人の従業員にトイレ管理もやれというとモチベーションは下がります。しかし、外部業者とともに気持ち良い職場環境を作ってお客様にも喜んでもらおうという動機付けがあれば取り組み姿勢は変わりますし、従業員もトイレやキャンティーンを汚さずに使おうという意識が芽生え、それがしつけと清掃、清潔の5Sマインド醸成にもつながり、結果として製品のQCD向上にも反映されるのです。

工場ではそういう効果がありますが、一方レストランやコンビニなどの小売店でも、客が借りたトイレが汚くて臭っていたらどうでしょう。どんなに美味しい料理を提供するところであったとしても、もう一回来たい気持ちはなくなってしまいます。汚した本人は決して店の人ではありませんが、常に5Sの観点から職場環境管理を行う気づきや改善活動が定着した職場では、非常に高い経営レベルを達成できているはずです。今までの経験からも、トイレやキャンティーンの汚い会社で業績が絶好調というところはまずお目にかかったことはありません。たかが「トイレ」されど「トイレは経営の鏡」です。

今、ベトナム企業もこのあたりの経営の基本を必死に勉強して、日本企業の良いところをどんどん取り入れています。