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海外経営で苦労する日本人の特異性

私の母は極端な心配性です。「台風がきたらどうしよう」「ドロボーに入られたらどうしよう」「ちゃんと鍵閉めたやろか」「病気再発したらどうしよ」・・きりがありません。私自身もある程度心配性も遺伝で引きついでいるという自覚はありますが、母ほど極端ではなく、どちらかというと「世の中なるようにしかならない」と思う方で、なんか問題が起きたら、それはそのとき考えてベストの対応、選択をすれば良いと考える楽観的なところがあります。割合に環境順応性が高い方で、どんな職場環境でも、またどんな国での勤務でも案外すっと馴染んでメンタル的に落ち込むというようなことはありませんでした。

海外経営においては、異文化コミュニケーションの対応力は最も重要なマネジメントの一つです。私の経験から、海外経営で問題となることのほぼ8割は人にかかわることです。これは欧米でもアジアや中国でも、そして日本でも同じです。日本人の人事管理でも大変ですが、それ以上に海外ではいわゆる「日本人の常識」は通用しない環境で、どう外国人社員のモチベーションを高め、最大の成果に結びつけるかは、非常に高いレベルの異文化コミュニケーション対応力が求められます。ところが、残念ながら海外に赴任される経営責任者のほとんどは人事の専門家ではありません。まして外国人人材活用に長けた方はほとんどいないといっても良いでしょう。

この重要な経営管理の一つである異文化コミュニケーションをどう進めていくべきかについては、会社によっては赴任前研修などに組み込まれているところがありますが、そう簡単に付け焼刃のような研修で何とかなるというものでもないようで、結構現地に赴任されてから苦労されている責任者が多いのです。

まず一番大事なのは、外国人社員をどう管理するかというよりも、日本人が持つ文化的特性を十分に自覚し、その特性と外国人との文化や感覚とのずれを理解することです。そのうえでマネジメントでどう埋めていくかがポイントです。その自覚なしに経営を行うと、とかく全て日本のやり方や考え方が正しく、それを理解させる、やらせるということになりがちで、結果として人が育たずすぐに辞めてしまうことになってしまいます。

典型的な日本人の特性

日本人の文化的特性を理解するには、異文化マネジメントと組織文化研究の世界的権威のオランダのホフステード博士の考え方が非常に参考になります。有名な6次元モデルから世界の国民文化による違いを分析されていて、諸外国の国民と日本人との違いが明確に理解でき、単に日本人と外国人という比較ではなく、各国ごとに分類できているので、相対的比較からマネジメントで留意するべき点がわかります。このホステードモデルを解説するには長くなりますので詳しくは延べませんが、一方、日本で有名な脳科学者である中野信子さんもTV番組で日本人の特性について述べておられた内容と非常に共通項があります。日本人の特異性を理解するうえで参考になります。

世界各国の文化特性を分析すると、日本人が世界で一番極端に出てくる特徴が「不確実性の回避」つまりリスク回避の志向が高いのです。日本人は、「正確性」「安心感」「心配性」のキーワードに代表されるように、あらゆる種類のミスをなくそうとする傾向にあり、常に最高品質の製品を目指す特徴があります。その特徴から、「世界で一番失敗を嫌う」「失敗しないことに心理的に満足する」「チャレンジをしない、したくない」「結果を先回りして心配する」「異様なほどの時間厳守に対するこだわり」という行動、発想パターンをもっています。

一方、国によって相対的差はありますが、日本以外の国民は「失敗しないことより成功することに満足する」つまりチャレンジすることを尊び、「失敗しないかをあれこれ心配するより、とにかくリスクをとって果敢に挑戦する」傾向が強いのです。こういった特徴の違いから海外経営ではどのような影響が出てくるのでしょうか。

プラス面では、約束を守る規律や高い信頼性、常に高い品質を追求する姿勢、おもてなしの心と相手に対する気遣い、チームワークでの協調性、頑張る忍耐力という強いを発揮できると思います。しかし、極端に失敗を恐れることから、リスク対応に異常なほどのこだわりを持ち、「石橋を叩きすぎて渡る前に橋を壊してしまった」例は限りなくあり、自分への責任を回避するために常にコンセンサスの意思決定を重視するあまり、経営の意思決定に時間がかかりすぎてまって外国の競合に成長機会を奪われてしまうのです。不作為による失敗よりも、何かに挑戦して失敗することの方が問題と考えてしまうのです。その結果、いくら競合に競い負けるようなことになったとしても誰も責任があるとは感じない、ここにグローバル経営における日本人の弱さが露呈してるのです。

海外に赴任される経営責任者、そして本社のトップは、この日本人の特異文化を踏まえた海外人材のマネジメントが求められます。将来の失敗をあれこれ心配して何もしない、コンプライアンス規則ばっかり作って安心してしまうだけではいけないのです。もっと海外現地社員を主体に、リスクをとって新たなことにチャレンジする精神を尊重していくべきです。しかし、リスクを取るということと無謀とは違います。「失敗」は当たり前のこと、日常のことと考え、どんなことが起きても全てが想定内として対応できるようにすることがリスクマネジメントの根幹です。リスクを取るためにリスクマネジメントを行うのであって、「何もしないことでリスクを回避する」のは決して経営ではないと思うのです。