経営の【磨き上げ】とは買収されるような企業経営を目指すこと
海外展開を起爆剤に成長発展を目指す多くの中小企業にとっては、海外事業経営はかなりハードルが高いと感じて二の足を踏んでおられるところが多いと思います。
今、経営環境は国際関係リスクや少子化加速による国内市場の縮小とともに、事業承継や労働者不足に直面しています。このまま日本に留まり、部品製造の下請けを始め日本企業や日本人相手のビジネスモデルではもう継続することができないという切羽詰まった状況になりつつあるのではないでしょうか。
親族承継も難しく、事業の強みを支えてくれてきたベテラン社員のノウハウも後継者がいないまま引退されてしまった会社は、M&Aで第三者承継つまり事業売却しようにも、債務超過状態でかつ借入金が多すぎる状況で特段競争優位性がなければ、誰も買手が現れず廃業に追い込まれます。後継者がいなければ事業売却か廃業しか道はありません。
日本の産業競争力全体の発展性を考えた場合、後継者がいないのであればできる限り早くM&Aに踏み切り、その経営資源を活用してグローバルに成長発展を目指す若い活力ある経営者に承継させるべきなのです。
そのためには経営者の決断が最も重要なのですが、経営者として体力的にもようやく決断を下し、事業を売却しようとしても強みがなければ誰も買いません。M&Aは就職活動と全く同じです。どんなに誇れる事業をやってきたという自負があっても、財務状況がボロボロで、従業員もアルバイトばかりで、他社が有しない技能をもった人材がいるわけでもなく、営業力も提案力もブランド力も競争優位性があるわけではない、既存の顧客や販売チャネルにも疑問が残る・・・・。こんな企業を誰が買いますか。
就職面接を受けるときに、この人を是非採用したいと思わせるには、能力だけでなく人生観、自己啓発の姿勢など多方面から評価すると思います。M&Aも同じですが、人の履歴書や職務経歴書にあたるのが会社の財務諸表であると思います。月給30万円の価値があるかどうかを見極めて採用するのと同じように、企業を買収するときの対価は、今の純資産(債務超過はほぼ問題外)に将来だいたい3年間に確実に得られると思われる営業利益を足したものが、だいたい評価額の出発点として買収に値するのかどうかを見極めていきます。
つまり、いずれ事業売却しなければ今の従業員の雇用を守れないのが明らかなのであれば、業績が順調な時期から将来を見据えて、いつでも買い手企業や事業提携したいという企業から目をつけられるぐらいの企業経営の【磨き上げ】を実践することが必要ではないでしょうか。
経営革新を行って成長発展ビジョンを実現するんだという経営者としての思いを強く打ち出し、経営改革と経営体質の強化を実践するというのは、何も中小企業だけが行うべき取組みではありません。中堅・大企業であったとしても、今まで強みとしてきたビジネスモデルが技術革新によって一瞬にして崩壊することは枚挙に暇がありません。しかも企業規模が大きいほど変化対応力に欠けています。今までの成功体験が変化することに対する心理的抵抗と危機感の欠如で手遅れになってしまう傾向が強いと言えます。
今の日本の大企業の経営者は、国際競争力が一気に低下してきている現状を本当に直視しているのでしょうか。
一方で中小企業は経営者一人の判断で機動的に変化できる強みがあります。国際間連携によるグローバル展開も柔軟性とともに決断が速いという優位性があります。
この閉塞感が深刻化している今の日本で、いつまで日本市場と日本でのものづくりにこだわり続けていて未来があるのでしょうか。今こそビジネスモデルを海外の視点から見直してみることで課題が解決できることがたくさんあると思います。
しかし、今、誰も事業パートナーとして価値を感じず、買収するに値するような強みを有しない事業経営で、いきなり海外で事業展開するというのはあまりにも無謀です。そんな感じで海外で飲食店事業をやるんだと安易にベトナムに進出し、一年も経たずに閉店に追い込まれている店舗をホーチミンのレタントン通りのあちこちで見かけます。
今やらねばならないこととは・・・・。まずは専門家による経営診断を受けてみてください、そして社会における自社の存在理由とは何なのかをとことん振り返り、自分のやりたいこと、解決したいことを素直にぶつけてみてください。そして、将来自分の会社を第三者が買収してみたいと思わせるような企業として、何を変えていくべきなのかという観点から経営の磨き上げに全力で取り組んでもらってはどうでしょうか。
企業を売る、売らないは別次元の話です。場合によっては、買ってもらうに値する経営磨き上げの結果、自社を売却するよりもむしろ他社を買収する戦略も選択肢に入ってくることもあるでしょうし、買収することで事業承継や海外展開による次世代に向けた成長戦略の実現も可能になってくると思うのです。