海外事業承継計画の策定と実行
事業承継は全ての企業にとって重要な経営戦略です。とりわけ中小企業にとっては、後継者へいかにバトンタッチしていけるかは企業の存続そのものにもかかわる問題です。しかし、事業承継を単にオーナー社長が持っている株や資産をどう相続していくかという視点で、税金対策や法律的な相続対策としてしか捉えていない経営者が多いのが実態です。
結果として事業承継の対策を遅らせて、経営戦略としての事業承継の失敗につながっています。社長の子供や親族などを後継者として考えていたとしても、単なる相続対策として税理士だけに相談して、遺言書をどうすれば相続税を押さえて後継者に経営を引き継げるかと、70歳になってそろそろ考え始めたところははっきりいって遅すぎです。
コロナやデジタル化の影響で企業の経営環境は激変しています。中小企業で黒字のところはわずか1割程度といわれ、過剰債務に陥って債務超過になっている企業も多いのが実態です。中小企業の多くはさらなる発展と生き残りのために大変厳しい局面に立たされています。この状況にあって、そのまま自分の子供や親族に税務対策だけで承継できるはずはありません。
事業承継は社長交代をするだけの意味ではありません。事業承継には、①経営の承継、②人・組織の承継、③資産の承継、の3つの承継をバランスよく進めていかなければなりません。
①経営の承継は、企業の経営理念やビジョン、経営風土や経営管理、業務プロセスや事業のノウハウ、顧客、技術など、経営にとっての無形資産をどう次世代に承継するかという視点です。激変している経営環境に対応し、後継者が引き継いだ後も成長発展を実現するための経営革新に取り組まず、後継者が好きなように任せるといって承継するのは無責任です。
②人・組織の継承は、単に後継者を確保したら終わりではありません。経営者と一緒にやってきた同じく高齢の経営幹部はどうするのか、ノウハウやモノづくりの強みそのものであった熟練技能をどう次世代に引き継ぐのか、その人材は確保し育成できているのか、後継経営者は経営能力やリーダーシップがあるのか、そもそも会社を引き継ぐ固い意志があるのか・・等準備するには長い時間と具体的取組みが必要です。
③資産の承継は、会社、個人を含めて不動産や株、債務等をどう後継者に承継するかという視点です。過去はこの承継部分に重点を置きすぎていました。ただ同族経営であればなおさら相続が争族化する可能性があり、相続する財産が相続人間でバラバラになってしまい、相続した後継者が多額の相続税を払ってなおかつ会社の負債や債務保証を持たされ、経営実権を持てなくなって二代目で経営がおかしくなってしまったケースは多々あります。
このように事業承継をうまく進めるには長期的視点で、かつ多面的な専門知識と支援が必要です。この問題は単に個人資産をどう相続させるかという考えだけに立つべきではありません。会社は従業員の雇用がかかっています。会社が提供する商品やサービスを買って新たな価値を創造する顧客企業に対する供給責任があります。会社は利益を出して納税することで社会が成り立っている社会的基盤そのものです。
子供は独立して継ぐ意思がないとか、後継者候補がいたとしても経営者として育ててこなかったので経営能力もリーダーシップもないから任せられないとか、いっそのこと廃業しかないかというのはあまりにも無責任ではないでしょうか。後継者がいなければ、社会的存在である企業をいかに存続させるかを考えるべきです。株だけオーナーとして引き続き持って、能力ある幹部に社長職を任せるのも一つの方法ですし、外部から経営者を招聘したり、さらに成長発展していくために思い切ってM&Aで事業売却も含めて検討する事業承継が増えています。
海外事業の承継は海外展開した時点から取り組むべき
中小企業本体の事業承継は、相続も絡んで専門的かつ多面的な取組みが求められていますが、一方で海外に展開した現地法人の事業承継も大きな問題であるという認識が必要です。
過去多くの中小企業は、顧客の海外シフトに合わせて海外で工場展開したり、人件費コスト削減を求めて持ち帰り海外生産に踏み切ったり、新たな市場や顧客開発のために海外に拠点展開してきました。つまり顧客や市場視点で海外展開してきたわけですが、問題は海外経営の継続性です。もともと中小企業は海外で経営を行える人材の育成が人数的にも質的にも十分ではないところがあります。
本体そのものの経営者をどう後継に承継していくかという問題に直面している中、海外に展開した子会社の経営の承継まで取り組む余裕があまりありません。経営者の兄弟や親族に経営幹部が充実しているのであれば、少なくとも第一世代は海外拠点の責任者として赴任させることができます。しかし第二世代以降になりますと、海外経営ができる能力を持った人材を社内から抜擢して育てないといけません。でもそう簡単に短期間で確保するのは厳しいです。
本来は最初に海外に出る段階で10年ぐらいのスパンで経営計画を立てるべきなのですが、実態は当面の顧客と売上、利益を試算して進出するのが精一杯で、とても数年後以降の事業承継まで視野に取組めているところはほとんどありません。
ただ大企業であれば、少なくとも事業承継における経営の承継は、だれが経営責任者として赴任しても経営理念やビジョンの承継は比較的容易です。また人、組織の承継も後継者育成は組織的に取り組むことができますし、資産の承継は所有と経営の分離ができているので、これもそう問題にはなりません。事業承継は特に中小企業にとっては企業存続のカギを握るものといってもよいでしょう。
中小企業の海外拠点の事業承継が取り組めていないことで、急に後継者が必要になって経営がおかしくなってしまった海外拠点についてよく聞きます。
例えば、某国の現地法人で新たに社長を決めなくてはいけない状況になったとき、「日本から赴任する人材がいない(育ててこなかった)」「現地法人の現地社員はまだ経営を任せるまでには育っていない」・・・さあ、困った! そうだ! 某国には大企業の現地法人で製造責任者をやっていて退職されて現地に住んでいるOB人材が多くいると聞く、言葉もできるし、日本のモノづくりにも精通しているから現地社員を指導できるだろう、人材紹介会社に問い合わせると、そういった人材を紹介できるという、そして面談して即採用した。さあ、どうなったでしょうか? うまくいくはずがないとは言い切れませんが、うまく承継できているというところの話はあまり聞くことはありません。一方で、M&Aで日系の現地製造会社を売却したいという案件が増えているのです。
海外事業発展のために【海外事業承継支援事業を始めます】
私は今まで中小企業が海外展開に成功するために、海外事業のスタートアップ支援を主体とするコンサルティングを行ってきました。一方、市場環境が激変している今、中小企業が海外事業をサステナブルに成長発展していくには、海外事業の承継そして事業再編なしには実現は不可能であるという考えに達しました。
第一世代の事業展開の目的は時間の経過とともに薄れてきます。展開したときの事業環境と数年後の状況はガラッとかわっています。にもかかわらず海外現法の経営革新なしに未来はありません。しかし、環境が変わったからといって、簡単に撤退とかはあり得ません。現地でも雇用の喪失と取引先への影響に対して責任があります。海外事業でも安易に清算して撤退すると、予期しない時間とコストがかかります。撤退しようにもできなくなっている中国の事例は山ほどあります。
つまり海外事業発展のためには、より緻密な事業承継計画や事業再編計画の立案と実行が必要です。しかしそれをやれる中小企業はどれほどあるでしょうか? 実際海外の事業承継計画や再編計画を支援できる専門家は極めて稀といっても過言ではありません。そこで、私が今まで取り組んできた中小企業の海外展開支援のノウハウと、現在準備をしております事業承継マネージャーとしての専門的知見を合わせ、海外を舞台に事業承継・事業再編支援サービスの事業を4月より開始します。
海外事業承継・海外拠点再編支援事業の概要
4月から取り組みます「海外事業承継支援・海外拠点再編支援事業」の骨格は下記の通り構想中です。
1)フェイズ1
◆ 海外事業承継調査
① 海外事業デユーデリジェンス (事業DD・財務DD)
② 事業承継課題と施策の具体的対応策提言
◆ 事業承継計画策定支援 (主体はクライアント様)
2)フェイズ2
◆ 事業承継計画実行支援 (主体はクライアント様)
① 組織・業務設計、改善支援
② 社内制度(人事制度・経営管理)設計支援
③ 機能的戦略策定支援 (M&A,他資本政策)
④ 後継者育成支援
⑤ 実行モニタリング
海外事業の承継支援を基本とする概要ですが、海外拠点再編支援も進め方はほぼ同様のプロセスとします。特徴としてはデユーデリと提言は弊社の専門家ネットワークグループによる報告を骨格に、承継計画・再編計画そのものの策定主体はあくまでクライアント様のプロジェクトチームとし、そのプロジェクト支援の立場でまとめ、計画実行のフェイズ2もクライアント主体の取組みを支援参加する形とします。
この新事業をキックオフするため、オンラインセミナーにおいて海外事業承継無料アセスメントを提供することを考えています。次のアナウンスをご期待ください。