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FTA統括機能の充実が求められる

先回のブログでFTAの重要性について述べました。時は今、FTAがこれほど重要な局面を迎えたことはないと思います。アメリカと中国の貿易戦争は待ったなしの状況になっています。中国からアメリカに輸出される全ての産品に25%もの関税がかけられるのです。関税3%の差であったとしても、利益ベースでは30%もの影響が出てくる中で、25%の関税は事実上輸出ができなくなるぐらいの激震です。

一方、最近のジェトロの調査によれば、グローバル全体で自由貿易協定は、昨年末現在で発行済もしくは暫定運用となっているものだけで308件にも上るのです。政治的な動きと合わせ、より複雑な経済連携協定の中で、企業にとっての通商戦略は生き残っていくために極めて重要な経営課題になっています。

どこからどこの国に原材料と仕入れ、どこの国で製造を行い、どこの国の流通チャネルを使って、どこで販売していくか、この選択は企業の競争力差別化を左右します。過去は人件費の安いところでモノを作って需要の大きい先進国に輸出するビジネスモデルを考えてさえおれば、一定の売上と利益が確保できる時代はもう終わりました。世界情勢がどのように動いているのか、その動きに合わせて企業戦略をどう組み立てていくのか、通商戦略なしには事業拡大は望めないのです。

事実、トランプ大統領が制裁関税を発表してからこの一週間の動きをどう見ているでしょうか。このままではアメリカ市場向けに中国に進出して製造をやっていた企業はもう立ちいかなくなる可能性が極めて高くなっています。昨年から既にスズキ自動車が中国生産から撤退し、最近では多くの台湾企業が中国から撤退してアメリカに拠点を移しつつあります。また、リコーはアメリカ向け複合機を中国生産からタイ生産にシフトすることを発表しました。

企業経営者はのほほんと指を咥えてじっと状況を見ているだけでは失格です。米中貿易戦争は対岸の火事ではないのです。単に完成品の輸出関税だけの問題ではありません。サプライチェーンで中国が絡むビジネスモデルを抱えているところは一様に打撃を受けるのは必定です。

FTAを駆使したビジネスモデル構築を

アップルのIPHONEも25%関税がかかってしまうので、このままでいくと中国で作ってアメリカ市場向けに事業を行う企業全てに経営危機が訪れます。そうすればどこで部品を調達してどこで作って、そしてどこの市場向けに販路開拓するべきでしょうか。

それは一言では回答はでません。要するにまずターゲット市場の選定は先で、その市場にアクセスするにはどこの原産国で作るのが一番関税上有利になるのかを検討するのがまず必要なことです。一見単純そうですが、実施には世界中で308ものFTAの中身を検証し、どういう基準で原産国認定を行う協定になっているのかを知る必要があるのです。

それを見極めることができた企業で、かつ即決で動きの早い戦略的経営者がいる企業が勝ち残るのです。その意味では、今後ますます東南アジアをいかに活用してアメリカ市場戦略を組み立てるかが重要になってきます。ある意味、FTAの中身を精査し、中国の技術やノウハウを活用するもいかにしてMADE IN CHINAの原産地基準を回避していくかが大事になってきます。

例えば中国資本であったとしても、今後は東南アジア各国でのオペレーションを拡大し、その国で付加価値基準や関税番号分類変更基準などをクリアして、アメリカや他のFTA締結国向けにアクセスしていくことが広がっていきます。

昨年締結したTPPが間もなく発効します。アメリカが外れてしまっていますので、アメリカ市場アクセスには直接関係しないともいえますが、TPPの枠内でアメリカと個別FTAを結んでいる国での原産地基準をクリアすれば低関税で入っていくことが有利になってきます。それらを考えていくとどのような形で業界再編が進んでいくのか、戦略感度を高めておかなければなりません。

TPPや日欧FTAは自動的にメリットを受けるわけではない

多くの人が誤解するのが、日本はTPP締結で主要な枠割を演じたわけだし、日欧FTAが実施されたらすぐに日本企業として輸出するもの全て関税が下がると思っていることです。おめでたいとしか言いようなありません。FTAに基づく関税減免を受けるには、FTAで合意した原産地判定基準に沿って、原産地証明を取らなければ適用されません。原産地証明がなければ通常の関税率が適用されるだけの話です。

今までの日アセアンFTAなどで原産地証明を取るには、商工会議所などでの第三者認証が必要でした。正直面倒くらいと感じている人が多かったと思います。ところがこれから実施されるTPPや日欧FTAでは完全自己証明制度が導入されます。

「それはラッキーだ。商工会議所へ申請するためには費用もかかるし面倒だしな」

本当におめでたい経営者です。この完全自己証明ほどリスキーなことはありません。今後ますますコンプライアンスリスクが大きくなってきます。事後に輸入国側の税関当局から少しでも疑義があれば、ずっと後になって査察が入ることが多くなると想定されます。これでもし原産地基準を満たしていないと判定されてしまいますと、いわゆる虚偽申告になって懲罰的な罰金が科せられたり、輸入禁止になることもあり得るのです。今後通商コンプライアンスは非常にリスクが増大してきます。

貿易コンプライアンスの変化

私が若い頃貿易部門で働いていた時のコンプライアンスと言えば、いわゆる輸出コンプライアンスであって、具体的には対共産圏向けの戦略物資輸出管理法令の遵守と同義語でありました。もちろん、今でも外為法違反や輸出禁止国への取引であったり、輸出ライセンス取得違反などのコンプライアンス管理は重要ではあります。

ところが昨今のコンプライアンスは、FTAの広がりとともに原産地基準の判定違反による関税のごまかしと見られる違反がクローズアップされてきています。原産地基準はFFTA協定ごとに様々ですので、一つの基準で全て原産国が確定するわけではありません。しかも、輸出者にとっては、それが関税コード判定がたとえ間違っていてもすぐに問題とはならないので感度が鈍いのです。ところが、輸入国の税関当局が摘発することの影響度合いは桁違いです。

リスクを避けるだけでは成長は見込めない、今こそFTA統括機能を充実させるべき

こんなややこしくて難解は原産地判定をやって、かつ判定に対してコンプライアンス違反を追及されて罰金をくらうことぐらいなら、輸入側に通常の関税払ってもらっておればいいのではないかと考えがちです。でもその時点で商売は負けです。

このリスクは勉強していないか、またそれを管理する体制を作っていないから発生するものです。もっと経営課題として真剣に取り組み、原産地判定をきっちりと行う体制と仕組みを持つことで、同業他社より遥かに優位に立てる競争力を持つことができるのです。

FTAはコンプライアンスリスクで恐いのではありません。大手取引先はグローバル戦略の観点から最適地生産、最適地販売を常に最大化するように取り組んでいます。そしてそのためのFTA活用によるコスト削減は経営上インパクトが大きく、原産地判定には部品レベルのサプライチェーンまで分解して行う必要があり、そういった大手取引先のニーズに対応できないサプライヤーは排除されてしまうのです。

企業が成長発展していくには、リスクを回避するために何も動こうとしない、足が止まっている企業は、いずれ弾かれてしまうので、いかにしてリスクを最小限にするかの取組みを進めつつ、新たな時代の変化に対応していく意識改革と具体的行動の素早さが求められる時代に生きているのです。

FTA統括機能を充実させることにより、リスクコントロールと成長へのチャレンジ双方を実現できると思います。