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改めて考えたい企業の社会的責任

「企業とは社会の公器である」これは私がパナソニックで三十数年勤務していたときずっと聞かされてきた言葉です。企業の目的は利益を上げることだけではありません。儲けるためだけに人を騙して振込詐欺をやったり、従業員に過酷な労働を強いたり、社会に公害をまき散らすような存在は許されるはずもありません。企業は人も、資金も、インフラも社会資源を借用して付加価値を生み出しているのであり、その対価の結果として利益を社会全体からいただいているのだという考え方が徹底して身に沁みついています。

企業の社会的責任はいつの時代になっても厳然としてあります。松下幸之助翁は企業の社会的責任として次の3つを繰り返し言っていました。

1.企業の本来の事業を通じて、社会生活の向上、人々の幸せに貢献していく。これは企業の基本的使命である。

2.事業活動から適正な利益を生み出し、それをいろいろな形で国家社会に還元していく。

3.そうした企業活動は、公害というような問題も含めて、社会と調和したものでなくてはならない。

企業の社会的責任は企業理念の一丁目一番地

つまり企業は社会に支えられて事業を行い、その成果を社会に還元していく「社会の公器」であるという考え方です。役所など公的機関は、企業や国民が生み出した付加価値から還元された税金を使って社会インフラや公的サービスを提供しています。しかし社会全体が享受する付加価値は、決して公的機関だけが提供するものではありません。

企業はとにかく利益を上げて税金を納めれば十分というわけではないのです。顧客や社会に提供する商品・サービスを通じて、その付加価値が社会の発展に、人々の幸せにどう貢献していくかというのは、企業理念の一丁目一番地であるべきです。

ただ残念ながら多くの中小企業で見られるのが、とにかく儲けるために何をやったら良いかにしか関心がないというものです。そもそも何のためにその事業をやっているのか?という問いに、「儲かるから」という視点しか持っていないところがかなり多いという実感があります。企業を訪問して、その玄関や会議室に、理念やビジョン、行動規範など大事にする考え方などの額が掲げられていないところは、従業員の考え方もバラバラで決してモチベーションが高いとはいえません。

だいたいそういった企業経営者からの海外展開相談は、「この商品は日本でも高く売れているんだ。だから日本品質をPRすれば海外でも高く買ってくれる客はいるはず。必ず売れて儲かると思うから、このまま輸入して売ってくれる商社か現地の代理店を紹介してくれ」というようなものです。海外事業を儲けるためにやりたいという会社はまず失敗します。したがって「私はそのチャネルに詳しくないので他をあたっていただいた方が良いと思います」と丁寧にお断りしています。理念なき海外事業は100%失敗すると言っても良いでしょう。

ベトナムの企業経営者の変化

私は5年前からJICAのODAで、ベトナム人経営者の経営塾での講師を担当しており、通算200人以上のベトナム人経営者を接してきました。その経験から最近の彼らの経営に対する見識とか考え方の高度化を実感することがあります。私が担当するビジネスプラン・実践のセッションは、10か月間にわたる経営塾プログラムの最後の方に設定されていますので、ある程度経営の基本について切磋琢磨して学んできています。当初はこれでよく会社を経営しているなと感じたこともありましたが、昨今のレベルの高さには驚かされます。

一番の驚きは、近年の塾生である経営者の多くは、一様に経営理念の重要性について熱弁をふるうようになってきたことです。自分たちの会社の存在価値は何なのか、何のために何を目指していく会社なのかを明確に語れるのです。もちろん経営管理面では荒っぽいなと感じる未熟さはありますが、会社経営の一丁目一番地である企業理念を確立できているベトナム企業が着実に増えているのです。

私がベトナム人を尊敬するのはこういった「人に学ぶ姿勢」です。彼らは自分たちの至らないことを十分に理解しています。でもすぐには変えられないこともよくわかっています。その中で少しでも一歩ずつ改善し発展していくために自分たちは何をしなければならないかということを真剣に考え、悩み、そして常に前を見ているのです。ベトナムは非常に親日であるというのは有名です。でもある面非常にしたたかな面も持っています。とにかく相手を持ち上げるのがうまいのです。日本人は頼られると嫌と言えない性格をよく知っています。ODA貢献でも感謝の記念碑を建てたり、ベトナムの社会発展に貢献してくれる日本政府や企業の活動に感謝しつつ、結果として最大の援助国という貢献を引き出しているのです。

どこぞやの某国のように国際条約を無視しても反日を繰り返しているところとは大違いです。

利益から還元する社会的貢献のあり方

企業の社会的責任は、Corporate Social Responsibility (CSR)と訳され、ややもすれば事業活動とは直接関係しない寄付や地域社会への貢献活動であったりします。そのため、利益が出て初めて税金として還元できるように、利益が出て余裕があるときに、その一部を寄付に回してCSRを果たしていると言っている企業が多いように思いますが、私は根本的に間違っていると思います。

社会貢献活動は、企業の理念に基づく継続的かつ一貫性のあるものでなければならないのではないでしょうか。利益が出た時に行うべきものではありません。ただ残念ながら大企業であっても、本業で利益が芳しくないときコスト削減の真っ先に挙げられるのがこういった社会貢献活動に関する経費です。

企業は社会の公器であり、国・社会が投資して育てた人材による能力や労働力をお借りし、他の企業や人々が生み出した商品やサービスを活用して事業を行い利益を上げることができていることを考えますと、企業にとっては納税や雇用の貢献だけでは決して十分ではありません。事業を通じて生み出した商品による付加価値で社会生活の向上、人々の幸せに貢献していくのは基本の使命ですが、商品やサービス以外でも企業や従業員による社会貢献は責務であると思うのです。

特に、次世代を担う人材教育への貢献、社会文化の発展への貢献、地球環境への貢献、貧困など社会問題解決への貢献、これらは決して政府や公的機関だけの仕事ではないはずです。税金を払っているのだから、企業が関わることではないというのは傲慢な態度です。どれだけ社会の資産を活用させてもらっているのかを考えると、もっと社会全体に恩返しすることが必要であり、それはまさしく企業の存在価値そのものである企業理念と連動させるべきものです。

私はとりわけ「次世代を担う人材育成」にいかに貢献していくかを念頭に、自分自身だけでなく、共感していただける企業と協力していきたいと考えています。