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異文化コミュニケーションの難しさ

技能実習生や留学生でベトナム人が急に増えているのは日常実感で感じられるところです。技能実習生などは前年比40%増ですからいやがおうにも目立ちます。

通常、ベトナム人に対する日本人の評価は好意的です。中国人はそもそも労働者も観光客もダントツに多いので、中には傍若無人なふるまいが目立って批判されることも多いようです。一般的に日本人は外国人に対して寛容で、同時にベトナム人も外国人に対して排他的ではなく受容的な国民性で、性格的にも真面目な人が多く、自我を全面的に出して自己主張するのはあまりないので、割合日本人と似通っています。

技能実習生としての勤務態度や留学生のアルバイトでの評判もなかなか良いほうだと思います。しかし、やはり日本人とは違います。育ってきた社会環境や価値観の違いが根本的に異なっているので、いわゆる常識ということにおいても、我々日本人はややもすると日本人の価値観による常識に捉われて判断してしまうことがあり、異文化コミュニケーションでの難しさとなっています。

日本では「郷に入っては郷に従え」という言葉があるように、日本に働きにきて外国人として暮らすには、その国のルールややり方に合わせるのが当たり前と考えられがちです。日本に来る中国人や韓国人はどう教えられているのかはわかりませんが、少なくともベトナム人が日本に来る前には、送り出し機関などで事前教育を受けるときにも、「郷に入っては郷に従え」と教えられるのです。

また、日本人に対しては嘘をつくな、約束を守れ、相手の信頼を得ることがいかに日本社会で生きていくには重要で、特に時間を守ることが信頼を得る第一条件だ・・・ということは教えられはします。私自身、ベトナム人の経営者層向けの経営研修においても、日本企業とビジネスを成功させるには、この点を繰り返し伝えます。

しかし、それでも守れない人が多いのです。これは能力や意識が低いという問題ではありません。いくら頭で理解しても行動が伴わないのは、基本的な文化的背景や身に染みついた社会的規範としての常識、行動パターンによるものです。

ベトナムで研修講師をずっとやっていますが、時間厳守がなかなか守れないのです。団体行動としてバスのトイレ休憩で出発時間を何度繰り返して徹底しても、必ず何名かは遅れてきます。そのたびにスケジュールがずれてくるのですが、ほとんどの人は全く気にしていません。スケジュール管理にうるさい日本人だけがイライラするのはいつものことです。なぜそのルールが守れないのかというのは、そもそも時間に対する価値観が全く日本人とは異なるからならのです。

日本人は時間厳守を時間価値と置き換えて理解できます。ですから、納期を守るというのはビジネスの基本中の基本であって、納期を守れない取引先は相手の時間価値を奪っていると考えるので、信頼関係を構築することができません。

ところがベトナム人に限らず南方系の国々では、肥沃な土地で農業を中心に生活が成り立っていた文化土壌があります。そういった価値観を持っている人たちに、一分一秒を削り出して時間を付加価値として競争力につなげるという発想を理解することは厳しいのです。農耕文化において10分や20分の時間は誤差にしか過ぎません。しかし、その価値観そのものを否定するのではなく理解するべきものです。ただ、ビジネス競争力という点でどうあるべきかというところまで分解して議論をしていくと、ほとんどの人は理解してくれます。粘り強く目指すべき方向性と何をどう変えるのかという取り組みが成功の秘訣の一つです。

夜に騒ぐベトナム人をどう見るか

最近、あるフェイスブックのコミュニティーで、同じアパートに住んでいるベトナム人が毎週末集まってきて夜遅くまで騒ぎ立てるので警察を呼ばねばならないと投稿した人がいました。

日本人の感覚からすると至極当たり前の反応かと思います。日本人にとって「騒音」というものに対して非常に敏感です。人に騒音をまき散らすのは迷惑行為そのもので罰せられるべきと考える人が多いと思います。「人様に迷惑をかけない」というのは、日本における「郷の掟」でもあります。人に迷惑をかける人は社会から弾かれるというのが、日本の文化土壌の一つでもありましょう。

しかし、ベトナム人にとって「騒音」に対する感覚が全く日本人と違うのです。一言でいいますと、「騒音」は迷惑行為でも何でもないのです。あのベトナムでのバイクの洪水や鳴りやまないクラクション・・日本人にとっては最初は耐えられないものです。でも彼らは「騒音」は迷惑行為ではありません。お互い様なのです。クラクションも「自分が行くから気をつけて」という合図ぐらいにしか思っていません。クラクションを鳴らされてムカッときてケンカになったりする日本人のほうが異様に映るのです。

週末には親しい仲間が集まって、夜遅くまで飲み明かして、大声で乾杯を何回もやるのは、彼らにとっては楽しいコミュニケーションであって、周囲も迷惑とは考えていません。ベトナムでは屋外パーティも頻繁にやっていて、夜の12時過ぎまでどでかいスピーカーでディスコ音楽を流して踊ったり、カラオケをやったりしています。以前出張で泊まったホテルの横がクラブのようなところで、夜遅くまで突き上げるような低音のドラムがガンガンなって眠れなかったことが何度もありました。まさしく一年通して渋谷のハローウィンという感じです。

しかし、これを迷惑として文句を言うのは間違いなく日本人です。でも、どうしようもないのです。ベトナム人にとっては騒音をまき散らすこと自体が迷惑行為でも何でもなく、そういったコミュニケーションで成り立っている社会であるという理解が必要です。

面白いことに、携帯で音楽を聴くときは日本人はほぼ全員イアホンをしますし、音漏れに対して非常に敏感ですが、ベトナム人でイアホンをしながら音楽を聴いている人はあまりお目にかかりません。中にはバイクの後部シートにでっかいスピーカーを乗せて、好きな音楽をガンガンかけながら走り回っている人も多いのです。

ベトナム人の技能実習生や留学生にとって、遠く家族から離れて意思疎通がなかなかできない日本社会で生きている厳しさ、寂しさの憂さを少しでも癒すために、週末に仲間が集まって何度も乾杯して大声で騒ぎたいという気持ちは痛いほどわかります。少しぐらい大目に見てあげてほしいなという感じもしますが、これほどベトナム人の労働者が増えてくると目立ってしまいます。でもやはりここは日本です。彼らとうまく日常から交流があれば、お互いの文化や価値観の理解が進み、「騒音」に対して迷惑と感じる日本人の特性に合わせてもらうことも学んでもらわなくてはなりません。

彼らはちゃんと説明すれば十分理解してくれます。迷惑だから止めてほしい、社会のルールを守ることの大切さを粘り強く伝えていけば聞く耳をもっています。すぐに警察に通報だとか言わないで、お互いうまくコミュニケーションを図ってもらいたいと願っています。