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ベトナム投資とアメリカ

ベトナム投資の認可額は2017年、2018年と二年連続で日本が1位となっています。累計の外国投資では韓国が件数の構成比が27.3%のトップに対して日本が2位の14.6%となっていますが、総投資金額では韓国と日本が拮抗しています。この2か国以外の上位国としては、シンガポール、香港、台湾、中国と続きます。つまりベトナム投資の大半がアジア地域からとなっています。

一方、欧米からの投資については、ベスト10にオランダが入り、米国は11位と全体構成金額が2.7%と非常に少ないです。カナダ、フランス、イギリス、ドイツはさらにその下で1%前後という状況です。実際ベトナムで暮らしてみるとわかるのですが、欧米企業のベトナム法人を見かけることがあまりありません。一部コカ・コーラ社のように現地で製造販売事業を長年やっているところもありますが、最近スタバやマクドナルドなどがようやく展開を始めたといったところかと思います。

このようにベトナムでは欧米とのビジネスが小さいのかといえばそうではありません。欧米各国ではまだベトナム含め東南アジア各国を安価な生産拠点とみなし、輸入相手先として見ています。しかも、自社で投資を行って製造販売機能を充実させるところまでには至っていないのが現状かと思います。

米中貿易戦争により中国からのシフトが進む

2019年上半期でアメリカの輸入額に大きな変動が起きています。アメリカ全体ではこの半年で輸入額が3,891百万ドル増加しています。ところが、中国からの輸入が追加関税の影響によって全てのカテゴリーで大きく減少し、全体で35,644百万ドルの減少となりました。つまり中国以外からの輸入が39,535百万ドルが増えているのです。そのうち、ベトナムの輸入額の増加が7,746百万ドルとなり、増加分の20%がベトナムからでした。つまり中国に代わる対米輸出国として、ベトナムの存在感が高まっています。中国と比較するとまだまだ供給能力で物足らないのですが、特に中国からの輸入額減少の大きい分類でベトナムが伸びているものは、通信機器や家具・寝具となっています。

コロナ危機に加えて香港の国際政治問題が複雑化するにつれて、今後米中問題が大きくかつ長期化することで、ベトナムが輸出拠点として一層注目されることは十分考えられます。特に労働集約型の製品では、中国に次ぐ製造業拠点としてタイ同様産業集積が高まっており、人件費が相対的に低いベトナムの優位性が際立つことで、中国から生産シフトが一層進むと期待されています。

このように中国リスクの受け皿としてますます注目を浴びるベトナムですが、コロナ発生以前よりベトナム投資の増加が顕著になってきており、道路・港湾など物流のインフラ整備とともに、工業団地への外資企業の進出が増えてきています。もちろん欧米企業としての中国からの投資シフトもありますが、日本企業や韓国系企業も追加投資でベトナム拠点の強化に動いています。これは中国事業投資リスクからサプライチェーンの見直しへと動いていることがその背景にあり、欧米資本にとっても中国リスクからベトナムなど東南アジアへのリスク分散の動きに加え、中国ローカル資本自身も、貿易摩擦リスクやFTAのブロック化を回避するための調達ネットワークの拡大目的からベトナム投資が増えてきているようです。

しばらくは外資企業のベトナム投資から目が離せません。

トラウマを抱えるアメリカのベトナム投資

日本人にベトナムと聞いて何を思い浮かべるかと問うと、中高年以上のほとんどは「ベトナム戦争」と答えます。一方で、ベトナム人にとっては「ベトナム戦争」っていつの戦争のことかとの受け止めです。太平洋戦争後での年月の中でも、ベトナム人にとってはフランスからの独立戦争があり、またアメリカとのベトナム戦争というよりも、南ベトナムの解放のための戦いでそのバックについたアメリカを追い払った戦争、そしてカンボジアと国境付近で揉めて侵攻後に中国が仕掛けてきて同じく追い払った中越戦争、というように国としての列強からの自立をかけた戦争の一つという受け止めをしている人が大半であるように思います。

確かにベトナム戦争は悲惨な犠牲者を出しました。1975年のサイゴン陥落でアメリカの敗戦が確定し、その後ソ連崩壊を経て、1995にベトナムとアメリカは和解、越米両国の国交を樹立させ通商禁止も解除されました。そして2000年に両国間の通商協定を締結し、アメリカがベトナムを貿易最恵国として、アメリカの大企業がドイモイ政策導入後の経済成長が著しいベトナム市場に進出するきっかけとなりました。

ベトナム政府は経済、外交などで対米接近を基本政策としており、一般のベトナム人も、経済向上のためにはアメリカとの関係を緊密にすべきだと感じています。アメリカ企業で働くことの方がやりがいがあると考えていますし、アメリカの観光客、企業代表などを熱く歓迎しています。 実際、前オバマ大統領がハノイを訪問したときの、沿道での熱烈な歓迎ぶりには驚かされました。米軍に侵攻され、多大な被害を受けたにもかかわらず、政府・国民とも親米的であり、ベトナム戦争を体験した一部の世代にはアメリカに激しい憎しみを持つ者も存在するものの、多くのベトナム人はアメリカに憧れを抱いており、その点では非常に戦後の日本人がアメリカに対する感情と似通ったものがあるように思います。

ベトナムにとって、アメリカは隣国の中国に次いで、第二の貿易相手国となっており、昨今の中国の南シナ海での暴挙に対するベトナム人の感情が更に悪化する中で、ベトナムとアメリカは軍事面でも接近する動きを見せており、「昨日の敵が、今日の友」に変わる勢いとなっています。アメリカ側にはまだベトナム戦争時代のトラウマがあり、投資関係にしても軍事関係にしてもそう密接な関係までには成熟していません。確かに、コカ・コーラやヒルトン、シェラトン、フォードなどはベトナムで事業展開していますが、アメリカからの投資が急拡大しているわけではありません。ベトナムはアメリカからの投資を歓迎していますし、対中国の問題でもっと強い関係づくりを行いたいと願っています。しかし、肝心のアメリカ企業側が、投資に踏み切るのに躊躇している感じがします。今は「AMERICA FIRST」の政策ですから、アメリカの雇用を増やすためにむしろ外国資本をアメリカに誘致したいという思いが強く、ベトナムからの輸出の急増が続くと、ベトナム企業のアメリカ投資も現実課題として増えていくように思いますが、まだまだそこまで体力はありませんので、当面が中国リスク対応でアメリカから投資を呼び込むことが両国にとっても更なるWINWIN関係の強化になるでしょう。