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ホーチミン出張所感 その②

先週のホーチミン出張時の所感その②「ベトナムの展示会で感じた公的機関による海外展開支援の問題点」です。

ベトナムで比較的大きな製造業関連の展示会である「METALEX」を見学してきました。METALEXは工作機械と金属加工ソリューションの国際展示会で、毎年ホーチミンで行われています。毎年視察することはできませんが、前回2年前に視察したときと比べて定点観測することで、ベトナムの製造業動向の変化を感じることができました。

中国の台頭が著しい一方で日本のプレゼンスは低下

展示会テーマが中小企業の事業と親和性の高いものであるだけに、いわゆる大企業の工作機械メーカーなどの出展はほとんどありません。しかし今回あたらめて驚いたのは中国企業の台頭です。2年前は中国企業が目立っていた記憶が薄いのですが、今回はざっと見て約4割が中国企業の出展でした。中国資本の工作機械メーカーや商社、中国企業のベトナム子会社などバラエティに富んでいます。以前は工作機械といえば日本企業の独壇場だったと思いますが、特に出展企業は最先端のAIを活用した工作機械や金属加工ソリューションを全面に力を入れていました。

一方残念だったのは、ベトナム地場企業はほとんど育ってきたという印象がなかったことです。ベトナム企業といっても出展しているのは外資系企業のベトナム法人が多く、純粋のローカル企業で特徴があるところはほとんどありませんでした。裾野産業育成の遅れを痛切に感じました。

また日本企業のプレゼンス低下も強く感じました。相変わらず金属加工の中小企業が多く、少なくとも中国企業を凌駕する強みがあると感じたところは皆無だったように思います。また工作機械分野にあっては、大企業はまったく出展していませんでした。金属加工としてはホーチミンの現地子会社を展開しているLIXILが目立った程度でした。

日本の公的機関によるブース出展支援のあり方に疑問

METALEXは中小企業製造業のベトナム展開の中核分野であることから、中小企業のマーケティング支援の一環として、多くの公的機関が出展支援を行っている展示会となっています。過去ブース出展においてジェトロブースを設置し、そこで中小企業の出展ブースをサブリースした支援を行っていましたが、今年は出展していませんでした。この継続性のない一貫性のないことも問題であると感じますが、そもそもこの公的機関によるブース出展で、中小企業の出展支援を行うことのあり方について大きな疑問を今回感じました。

今年はジェトロは出さなかったのですが、結構多くの地方自治体が地域産業振興の観点から、ジェトロと同様の考え方でブースを出しています。このような形態で出しているのは日本だけです。毎回出している東京都は東京都中小企業振興公社が出展、他には大阪府、神奈川県、名古屋市、相模原市、石川県などがブースを出し、その中をパティションなどで区分して、自治体管轄内で出展誘致に応募した企業が出展しています。

しかし、少し厳しい見方になりますが、このような自治体による展示会出展支援はほとんど効果がなく税金の無駄ではないでしょうか。一番気になるのは、展示会来場者視点ではないということです。来場者、つまり顧客にとっては自治体がどこであるかについては全く関心はないですし関係ありません。ビジネスにおいては意味のないことです。ところがブース名は出展申し込み者である自治体であり、そのためブースデザインは自治体名が一番目立つのです。展示会の主役は出展個別企業であり、来場する顧客候補企業との出会いです。つまり展示会ブースで最も問われるのは出展企業の展示コンセプトです。その企業が提供する価値であり、それを明確に伝えるキャッチコピーであり、その企業が選ばれる理由です。

ところが残念ながら、ブースコンセプトは企業起点、顧客視点ではないのです。どこの自治体もブース出展を行って出展企業を引っ張ってくることだけを目的と考えているとしか思えないのです。どうやったらマッチングに成功するのか、どうやったら企業のコンセプトを全面に押し出せるのか、そういったビジネスセンスが皆無といっても過言ではありません。

本来なれば、このような出展支援を通じて企業支援を行うには、コンセプトづくりから指導できる能力と経営センスが必要ですが、実際出展している個別企業のコーナーを見ると、正直準備事項もポスターのコンセプトもバラバラです。ブース集客にどれだけ真剣に取り組んでいるのか疑問に思わざるを得ませんでした。つまり自治体にその指導を行う能力が備わっていないとのです。

写真はある自治体のブースです(特定できる自治体名の部分をカットしています)が、誘致企業ごとにテーブルを用意しているだけで、訴求する内容は企業のお任せです。ポスターもバラバラで、後ろの壁に貼ってあるポスターでは、ほとんど企業コンセプトはわかりません。少なくとも通路を歩いている人から読めないのでは落第です。さらに酷いのは、出展企業の出張者にほとんど売り込む気が見られないことでした。中央の二人の女性はずっと雑談していましたし、その企業のテーブルにはサンプル一つ置いてありません。データシートと背面ポスターだけで展示会に出展して商談ができるとでも思っているのでしょうか。また、ブース全体のレイアウトも稚拙です。これでは絶対に来場者を内側の商談テーブルに誘導なんてできません。事実上、奥の商談テーブルは出展企業担当者の休憩場所となり果てていました。

この自治体は特にひどかった事例ですが、他の自治体も似たりよったりの感じです。自治体がブースを代表出展し、無理くり管轄企業を公募して出展させても、企業自身が出展の主体意識がないのがほとんどです。なぜなら出展費用のほとんどを自治体組織が負担し、企業自身は展示物を用意して出張してブースアテンドする費用だけで済むので、成果に対して必死にならないのです。このような中小企業支援はもう止めにするべきではないでしょうか。

海外での展示会出展は決して無駄ではありません。海外ての販路開拓、パートナー発掘のためには大変有効です。しかし、効果を上げるためには企業自身が主体的に取り組む真剣さが必要です。自治体など公的機関が費用の一部を助成することが、本当に企業のためになっているのか疑問に思わざるをえないのです。同じ支援を行うのであれば、展示会をどうやって顧客開発につなげるかといったマーケティング戦略の実践についてのセミナーを行ったり、経営支援コンサルタントのコストを助成するほうがよほど効果的です。展示会マーケティングのノウハウがなく実践経験がない公的機関が、ブースを出して企業をタダで参加させるという支援政策は効果がないことにいい加減気づくべきではないでしょうか。