このページはJavaScriptを使用しています。
ご使用中のブラウザはJavaScriptが無効になっているか、JavaScriptに対応していません。
サイトを正しく表示、ご利用いただくには、
JavaScriptを有効にするか、JavaScriptが使用可能なブラウザでアクセスして下さい。

ホーチミン出張所感 その①

今年6月以来のホーチミン出張に行ってきました。ベトナムに4年間暮らしていたとはいえ、その後帰国してからも出張ベースで年に3~4回はベトナムに行くのですが、その度に刻一刻と変貌するベトナムの姿に新しい刺激と驚きを感じます。

いつもながら町は活気であふれています。車やバイクの洪水や騒音の中、街を歩くベトナム人や観光客の数は確実に増えており、聞こえてくる笑い声や大声での会話などからも日々発展している様子がひしひしと伝わってきます。

ホーチミンへはせいぜい年一回か二回しか来れないのですが、ベトナム最大の都市であり、かつ多くの中小企業が展開していることに加え、商業都市としてベトナムの社会、文化をリードする拠点という特徴があります。私がいたハノイは首都ですので、それは同じように活力を感じるのですが、人間の営みというか、街自体の爆発力から来る魅力というか、文化や経済の変化度合いはホーチミンの方が一歩先に進んでいるのは間違いありません。

私が一番最初にベトナムを訪れたのは2007年ごろだったと思いますが、そのときのハノイの町全体の印象は何か暗い感じでした。店舗照明も顧客を惹きつけるようなものではなく、街の街灯も家々も暗い蛍光灯ランプが一般的だったのですが、その後2回目の出張でホーチミンに行ったときの第一印象は、街全体の明るさが全く違っていたため、さすが商業都市だと感心したのを覚えています。

その後ハノイも急速に発展し、地方都市でもだんだんと明るい照明も広がってきました。しかし、何か新しい試み、特に商業流通の発展はまずホーチミンからです。コンビニも、マクドナルドも、スターバックスも、大型ショッピングセンターも、ファッションブランドの旗艦店も、イオンモールも、まず最初はホーチミンからでした。今やホーチミンの日本料理店は何と700店を超えているとのことです。(私が駐在していた2010年当時は、ハノイで100店、ホーチミンで200店ぐらいだったのを記憶しています)

過当競争状態を迎えたベトナム消費者市場

当然、ここまで一気に商業分野が拡大発展してきますと、海外進出してきた外資を含めて市場は過当競争の時代に入ってきています。2013年頃から流通市場は一気に開放の流れが顕著になり、それまでの製造業を中心とした海外展開から、流通・サービス分野の進出が相次いでいます。多くの日本の飲食関係や小売りなどの中小企業が新たにベトナム展開を図っています。しかし、それらの多くは大変な苦境に直面していると聞きます。それは実態経済の拡大のスピードよりも、外資の投資展開の拡大スピードが速いために、市場の規模拡大以上に事業者の展開拡大が見られるため、実質極端な過当競争状態に陥っているということを実感として感じました。

2010年当時でホーチミンの飲食店はせいぜい200店でした。しかも、当時は独資で認可がなかなか下りず、ベトナム人の名義貸しでマイナー出資で細々とした日本食レストラン経営が一般的でした。

ところが今回来て改めて驚いたのは、レストランの数が700店超まで増えたという数もさることながら、進出してきているレストランも、牛角や一蘭ラーメンといった有名日本食チェーンがバンバン出てきていることに加え、それらがリードする形で、日本人通りとも言われるレタントン通りに集中している日本食レストランの淘汰が激しいことです。前回6月に来てわずか4か月しか経っていないのですが、どんどんレストランの入れ替わり、しかも居抜きで別の名前のレストランに変わっているところが何軒もあったのです。「一蘭ラーメン」もその一つでした。他にもパン屋もバーに変わっていたり、また新たに大幅改装工事中の店舗がいたるところにありました。

一方、在留日本人の数はそう急激に拡大しているわけではありません。増えているとはいえ、ベトナム全国でもせいぜい13万人と言われています。当然、過当競争になって決して飲食事業で黒字化するのは至難の技であろうと推察できます。

限られている顧客の奪い合いで生き残るには、余程特徴のあるメニューで、美味しいとの評判でリピーターを確保しなければならず、そのためには日本人顧客だけではやっていけない状況になっています。何とかもっているのは、ベトナム人のミドルアッパークラスをターゲットにリピート顧客を開発できたところのみでしょう。

顧客の拡大に加え、悩ましいのは地価の上昇に伴う店舗賃料の急上昇と、人件費の上昇です。特にレタントン通りや日本のサービス関連会社が集中している1区の店舗やオフィス賃料の値上がりは激しく、JETROのホーチミン事務所も賃料を3割アップを要求されたところで、一部の事務所スペースを返したとのことでした。また、コンビニのファミリーマートは、当初パートナーとの合弁で参入したものの、経営方針の食い違いから一旦合弁契約を解消、その後直営店舗拡大戦略で再参入したのですが、今は地価上昇の影響で直営店拡大スピードが鈍り150店止まりとなっているとのことです。

一方、鳴り物入りで展開されたイオンも、モール事業としてはそここそやっていけているようですが、スーパーマーケット(GSM)事業部門としては苦しい状況との評価です。

かように消費者市場が急速拡大する段階に入った新興国においては、まず先行者利益を確保するべく投資競争が活発化しますが、それによるマイナス効果に注意しないといけません。市場の拡大スピードが追いついていないため、先に過当競争状態を生み、市場を押さえる前にコスト上昇による収益圧迫のために赤字状態が続き、遂には資金が続かず撤退を余儀なくされるという状態が今起きています。

外食産業は経営センスが一番問われる

厳しいホーチミンの外食産業や小売り、流通業の経営実態を目の当たりにして、改めて感じるのは、経営感覚のない経営者が結構「市場が拡大している、儲かりそうだ」という感覚だけで新店舗を立ち上げたり、安易に海外展開して失敗するケースが多いということです。

外食や小売り、流通は、ほとんど全ての領域のマネジメント能力が問われます。「こだわりのメニューで差別化すればお客はついてくる」という単なる自己満足で経営を行うオーナーが多い気がします。この業界で事業を行うには、店舗立地戦略に加え、仕入れから在庫管理、基本の商品戦略、価格戦略に顧客管理、原価管理、マーケティング戦略、そして資金繰りにそして人的資源管理まで、それこそあらゆる経営管理を総動員しないと、損益分岐点売上を継続的に確保することができない業界です。まして店長はーは実質シェフオーナーであることが多く、商品にこだわりがあっても、経営管理には疎い人がほとんどではないでしょうか。また、そのための時間をどれだけ確保できているでしょうか。これでは事業は続きません。

特に海外に進出して事業拡大していこうとするのであれば、どの部分の経営管理に穴があるのか、外部からの冷静な分析と助言を得ることが成功への道標となると思うのですが、実態は過当競争状態でどうにもならないまま撤退に追い込まれている現状を、ホーチミンの最前線で感じることができました。

海外拠点の経営には羅針盤が必要です。経営がおかしくなる前に、外部視点で問題の本質からのアセスメントを受けてみませんか。いつでもご相談ください。

・・・次回のブログは、ホーチミン出張所感 その② 「ベトナムの展示会で感じた公的機関による海外展開支援の問題点」をお送りします。