最近のスタバとドトールを見て感じる顧客価値の変化
スタバが以前のような賑わいに陰りが出て、ドトールが最近元気になって客が多く入っていると感じませんか。コーヒーの単価も違うし、客層も異なるターゲットなので比較はできないと思われる方もいるでしょう。おそらくスタバ自身は、マーケティング戦略上は直接競合しないと分析しているでしょうが、利用者の視点で見たとき、顧客価値の変化を肌で感じています。多分、このままでいくとスタバの客足は衰えていくのではないでしょうか。実際の売り上げがどうなっているかは知りませんが、一人の利用者として非常に興味深い現象が見えてきます。ただ、ドトール自身も顧客離れを起こしかねないマネジメントの実態も感じます。なるほどと思われる方もいれば、そんなことはないと反対の考えの方もおられるでしょう。企業診断の場で最も重視する「顧客価値」をどう定義し、「顧客満足」をどう現場で実践しているかという視点で考察してみたいと思います。
顧客がコーヒーショップに求める価値とは
コーヒーショップほどマーケティング戦略の基本であるセグメンテーション、ターゲティング、ポジショニングのSTPマーケティングが明確に分類できる題材はないと思います。皆さんが外でコーヒーを飲みたくなったときどこに行かれるでしょうか。ここ数年で急速に地位を確立したのが、いわゆるコンビニでの100円コーヒーです。自動コーヒーサーバーから豆を挽いてドリップしてすぐに美味しいコーヒーを安価に、しかもイートインもしくは持ち帰りで飲める業態は画期的でした。
スタバやドトールなどのコーヒーショップを比較すると、コーヒーのドリップ方法や味にそう差があるわけではなく、ゆっくりと席に座ってコーヒーを味わうことを目的としない限り、コンビニに100円は美味しいコーヒーを安価で飲みたい顧客層に合致したのです。ほとんどの顧客は持ち帰って自分の会社で飲むというものでしょうか。
一方、スタバやドトールはコーヒーを味わいながら自分の時間を過ごす場を顧客価値として提供するビジネスモデルです。そういった顧客層が求めるコーヒーショップの雰囲気は、いわゆる昔ながらの喫茶店とは全く異なるものです。スマホやパソコン、読書などの時間を過ごしたい顧客にターゲットを置いているわけですから、喫茶店のようなウェイトレスによる接客も、高級なソファも不要です。まして赤鉛筆を片手に新聞を広げてタバコを吸う客と同じ空間でコーヒーを飲むのは、少なくとも私にとっては苦痛以外の何物でもありません。
つまり、コーヒーショップは明確にターゲットが分かれており、それによって提供する価値も異なります。その中で同じターゲットに属すると思われるいわゆるカフェの業態にある、スタバやドトール、またコメダ珈琲などの顧客囲い込み戦略は非常に面白いものがあり、提供する価値も微妙なところで差別化を図っています。その微妙な差が大きく客足に影響することを感じています。他にもコーヒーショップはありますが、店づくりや提供商品のコンセプトを比較対象することで、世の中の動きを探るヒントとなることが多いと思います。
店の雰囲気や設備
そもそもコーヒー一杯の原価はせいぜい数十円です。それをコンビニは100円で売り、ドトールでは220円、スタバではショートで280円で販売しています。これがホテルでは数百円にもなります。この付加価値で大きな部分を占めているのが、店の雰囲気やテーブル、椅子など什器関連です。コーヒーが与えてくれる落着きの場であるとか、ゆっくりと自分の時間を過ごせる、待ち合わせの時間を思い思いに使える、本を読みたい、空き時間で勉強したい、友達とおしゃべりをしたいなど、様々な目的を持って時間と場を提供する店の雰囲気に価値を認めているのです。しかし、コンビニが提供する100円の価値と、スタバが提供する280円の価値にはどちらが優れているかという観点では語れません。人それぞれが求める価値にどうマッチしたものを提供できるか、まさしくマーケットのセグメンテーションとターゲティングで狙いを定めて、店が提供する価値を定義することになるのです。同じ人でもあるときはコンビニのコーヒーが良いという場合もある一方、別の場面ではスタバでコーヒーを飲みたいと思うのです。ここがマーケティングの難しいところで、必ずしも個人を属性で語れません。個人の価値観によって異なる商品・サービスが求められるのですが、個人は一つのニーズを持っているわけではありません。毎日スーパーの売り出しで1円でも安い卵を買い求めてリサーチしている人が、あるときは女子会のランチに簡単に数千円もかけるのです。
ここでスタバとドトールを比較してみます。スタバが一気に日本で出店を拡大したときには、今までの喫茶店とは異なるコンセプトで、家でも会社でもない第三の場を提供するという斬新なものでした。テーブルやいすも落ち着いた色でした。ただ、スタバのテーブルやいすは、落ち着いた時間を過ごすには安っぽさを感じていました。椅子の木のままというところもあり、横のテーブルとの間が狭くて、周囲の客の様子が気になるという印象もありました。つまり一人で落ち着いた時間を過ごすには少々窮屈さを感じるのです。
一方ドトールの方ですが、最近は非常に変わってきたと感じます。以前はやたらとタバコくさいという印象がありました。しかし、最近新しく出店、もしくは改装したドトールでは、スタバと違ってタバコは吸えるものの、分煙はきっちりできており、タバコの煙が耐えられない私でも全く気になりません。しかも、テーブルの多くが一人用にレイアウトされており、椅子のクッションも結構快適です(スタバと比較して)。また、多くのテーブルでスマホやパソコン用の電源が設置されています。もちろんスタバやマクドナルドでも電源が設置されているテーブルはあるのですが、数は少ないのです。ところが、ドトールのテーブルは幅が結構あるために作業がしやすいのです。どちらが落ち着いて時間を過ごせるかといえば、最近では明らかにドトールです。
重要な点は、過去のブランドイメージに依存したままで、店舗コンセプトを変化させないスタバと、ターゲット顧客層が求める価値を敏感に感じ取り、店舗コンセプトを変化させているドトールの違いです。さあ、どうなるでしょうか。
提供商品の差
もちろん、店によって提供する商品の品質の差や品揃えで付加価値に大きな差が出ます。スタバにしても280円のドリップコーヒーだけを売っているわけではありません。サイズの差もあれば、ラテやキャラメル、セスプレッソなど様々な品揃えによる嗜好品の多様性でマーケットを細かく細分化、つまりセグメンテーションを行って、少しでも客単価を上げようとしています。
ここでも、スタバは戦略を間違っているのではと感じることがあります。若い人の話を聞くと、スタバの飲み物はおいしいことには違いはないが、何せ高いので足が自然と遠のくとのこと。確かに飲み物だけで500円もするのは高すぎますし、軽食メニューもドトールに比べて乏しく、どう考えてもクッキー類では昼食の代わりにはなりません。一方ドトールはサンドイッチとのセットメニューもあるので、定食屋で昼食をとる代わりに、コーヒーを飲みながら軽食をとり仕事を片付けることが可能なのです。どう考えてもスタバやマクドナルド、昔からの喫茶店では昼食をとりながらの仕事は無理です。
接客態度や顧客サービスの差
ただ、ドトールに死角がないとは言えません。特にドトールで気になるのが、店頭スタッフのやたら甲高い声です。スタッフがはきはきと返事するのは元気があってよいと考えているのでしょうが、店にいるのは注文する人だけではありません。いったん商品を買って席についた人は落ち着いてコーヒーを飲みたいのです。しかし、店舗の隅々までいきわたる甲高い声で注文内容を繰り返し、しかも一番気に入らないのは、勘定するときに「Tポイントカードはお持ちでしょうか?」と聞くのは、正直店にいる人にとって耳障りです。私自身、Tポイントカードを持っていないので、毎回毎回聞かれるファミマとドトール、吉野家ではムカッとします。まあおそらくマニュアルなので我慢していますが正直毎回聞かれるのは嫌です。また、勘定する人だけに聞こえればよいのに、あれだけ大きい声で叫ばれると、飲んでいるコーヒーがまずくなるということも考えてほしいものです。顧客サービスというのは人によって受け止め方が異なるため非常に判断が難しいことですが、何でもマニュアルに依存するのではなく、顧客の声も定期的に聞くということもマーケティング戦略の基本ともいえるでしょう。
半年後のコーヒーショップの動向が楽しみです。