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補助金がむしろ産業競争力を削ぐ?

国や地方自治体は産業構造の転換や競争力強化促進のために、税金を使って民間企業を支援する様々な行政サービスや財政支援を行います。主にやっていることは、企業が単独では入手できない調査統計や市場分析など情報を提供することや、投資のための補助金を給付するか減税といった金銭面の支援ぐらいのものです。

したがって一般的に国家公務員や地方公務員は産業政策に関する行政サービスを「事業」として税金収入から予算化、民間事業者に給付するか委託するかの仕事をしているわけです。ある意味、費用は税金から持ってくるわけなので、決して公務員自身が収益を上げて投資する事業を行っているのではないのです。

彼らの「事業」では収益を上げることが目標ではなく予算を使うことが目的化しています。管理や実施のルールを守らせることが最優先であり、「事業」を経営的観点からマネージする能力は極めて低いという現象によく直面します。

ややもすれば「事業」を次から次へと理由をつけて拡大していくことが自分たちの存在意義そのものであると考えている役人が多いように思います。当然事業の費用対効果についても、行政リビューなどで検証されるわけですが、大抵経営感覚が乏しい評価になっています。

たとえDX促進のために導入支援事業をやるという場合で、セミナーを何回開催したとか、来場者数は何名であったとか、アンケートで寄せられた声を報告書に書いて、それらしい事業効果を作文するのが仕事のように感じることが多いです。さらに加速させるために事業領域や支援サービスをより複雑に高度化し、事業成果目標を多層化して次年度の予算拡大につなげられるのが役人の能力評価と見なされてきたという場面を何度も見ています。

ある意味役人はプロデューサーの立場なので、実際にセミナーを開催したり補助金を公募審査し給付する実務は自分たちでは行いません。民間支援事業者を公募して委託するわけです。

今いろんなところで補助金行政について課題が指摘されています。このようなロジックであらゆる政府の省庁ごとに「事業」を拡大し、地方自治体ごとに独自の支援政策を上乗せの形で企画実施するため、財政はどんどん肥大化していきます。

本来は国や自治体は企業の体質や競争力強化を支援するに資するためには、できる限り関与や規制を少なくして税金負担を少なくするべきであると思います。ガソリン代が高騰したときも、トリガー条項の適用によって税負担を軽減するのではなく、石油元売り会社へ補助金を配ることで価格高騰を抑えるように対応しました。役人にとっては、税収を減らすよりも税収を確保したまま補助金で支援した方が、政府の権限つまり自分たちの存在意義を残せるという感覚があるためです。これでいいのでしょうか。

補助金の構造的な問題

補助金は給付金とは異なり事業に自由には使えるお金ではありません。産業政策に沿った事業計画が大前提であり、その事業を実施するにあたって、決められた対象経費項目の支出にその半分とか三分の二といった補助率分を補助するというものです。しかしあくまで事業主体者は事業者ですし、補助金は対象事業が終了した後に、該当する費用項目分のみ補助率をかけて事後に給付されるものです。

したがって資金は事前に自己調達する必要がありますし、当たり前のことですが補助率を超える部分は自己負担です。費用も細かく制限ルール化されていて、費用対象外の経費が相当な比率を占める場合には、いくら補助金が事後に給付されるとしても、途中で事業が行き詰まってしまうことも多いのが実態です。補助金申請を行ったばっかりに身の丈を超える資金負担に耐えられず、審査が遅れて事業のタイミングを逃してしまい、会社全体の経営がおかしくなり倒産してしまったという事例もあるほどです。

そもそも運転資金に関するものは補助金対象にはならず、店舗改装にしても内装工事はOKでも駐車場は構造物として対象外であったり、そもそも店舗の賃貸料もカバーされませんので、経営の経費全体に対する補助金ではないという構造的な問題が、かえって企業の体力を削ぐことにもあることを理解する必要があります。

さらに根本的な問題として、役人が「事業」にあれこれ政策目標を詰め込みすぎるため、ルールが複雑怪奇となり、そのルールも個別最適で公募回ごとにどんどん変更されていくのです。使い勝手のよい補助金とは、もっとシンプルなものにするべきです。汎用的なものにしようとすればするほどケースバイケースの対応で基準が曖昧になったり、相次ぐルール変更で以前ならOKでも最新公募では対象に入らないことも出てきます。

その典型的な例が事業再構築補助金です。事務局の不手際がいろいろと叩かれているようですが、そもそもこの補助金で実現したい政策目標を複雑化したことで、事務局対応に混乱を引き起こしてしまったことが根本原因だと思っています。

この補助金では申請枠を細かく分けて変更をやりすぎです。通常枠と特別枠といったシンプルなもので十分なはずですが、成長枠だのグリーン成長枠だの、他にも緊急事態宣言特別枠、卒業枠、グローバルV字回復枠、物価高騰対策・回復再生応援枠、サプライチェーン強靭化枠、大規模賃金引上促進枠・・・まだまだあります。事務局も大変でしょうし、審査員もどこまで理解できているのでしょうか。

何でもかんでも補助金申請の対象を広げすぎのような気がします。これによってルールがより複雑化し、悪徳コンサルが企業に代行申請を持ちかけて高額の申請コンサルティング費をふっかける事案が問題化しているのです。

たとえば事業再構築の採択案件にシミュレーションゴルフやグランピング、唐揚げ屋、フルーツサンド屋が集中して増えた時期があり、行政リビューでは補助金がかえって過当競争を生み出す原因になったのではないかという指摘がありました。事務局が調べていくと、それらの設備機械を販売している事業者が市場拡大チャンスとばかりに、補助金セミナーを開催して、補助金で新規事業を立ち上げたいと目論んでいた企業経営者を集めて、申請支援するからチャレンジしてみませんかと営業をかけた結果だというのがわかったのです。もちろん各事業者による経営計画がそれなりに説得力があれば良かったのですが、設備機械の事業者が関係するコンサルタントを紹介して事業計画策定支援を丸投げしたことで、同じようなパターンや記述内容の申請案件が見つかったことから発覚したというものです。

補助金はかえって民間活力を阻害する民業圧迫である

公的機関の活動原資はもちろん税金です。しかし公的機関が事業を実施するには実際には事務局が必要で、その実務のほとんどは民間事業者に委託しないと成立しません。公的機関の相談業務でも民間の専門家に委嘱しています。

補助金は使い道によっては申請企業にとっては有益なものです。しかしこの補助金が本当に社会のためになっているのか疑問に感じることもあります。補助金を貰えるからと新しい事業に取組もうとする企業が後を絶ちません。事業体制も人もノウハウもないのに、経験したことのない事業に補助金で投資してもまず行き詰まることが多いのが実態ではないでしょうか。

補助金がないと利益が出ない事業なら最初から申請するべきではないのです。補助金が出るから収益上有利であるというのが幻想にすぎません。確かに補助金が入金されたときにはその分収益はプラスに働きます。しかし補助金の入金は事後に営業外収益として計上されるものです。事業としての実力値は営業利益に表れてきます。補助金が入っても販管費が減額されるわけではないので、補助金が収益性と成長性につながる事業に資するものかどうかは一概には言えません。ただ、補助金によって顧客の開発拡大による売上高増や、商品の付加価値増による限界利益の拡大に貢献できるものであれば有意義なものとなりますが、補助金が出るから事業に取組むというのは本末転倒と言わざるを得ません。

また税金を使って外部支援機関に委託し、企業支援を実施することが公的機関としての「事業」というのもおかしな論理です。委託される外部支援機関や専門家は、審査によって決められたほんの一部であり、公的機関の支援を受けられる企業も一部に限られます。公平に負担している税金を一部の外部支援機関に業務を委託する事業で一部の企業を支援するのは、本来公的機関がやるべきことなのでしょうか。

むしろ企業ニーズに合わせて社外リソースを活用するための支援給付金として配る方が余程社会コストを削減できます。市場調査に支援してほしいところもあれば、新規設備導入によってより高度な技術革新を図りたいところもあるでしょう。それより優秀な人材を雇用したいところもあれば、外部の支援機関に経営顧問として支援してほしい経営者もいます。

それぞれニーズが異なっているのに、公的機関の政策支援という観点から対象を絞り今dな補助金事業や、専門家派遣事業などを拡大しているのは、企業に対しても、また支援事業者に対しても民業圧迫以外の何物でもありません。

むしろ減税と給付金で企業が自由に成長発展に投資する環境を整えることこそが行政の役割であり実施コストも低いと思います。補助金は実施するための規則、ルールが肥大化したことによって事務局費用が肥大する一方であり、役所の権限とメンツを守るだけの無駄なコストではないでしょうか。補助金は極力縮小して、その費用分を減税するか企業に直接支給し自由に投資原資に使ってもらうことの方が、結果として産業競争力強化に資するのではないでしょうか。