激動の2023年へ!「中国」と「半導体」がキーワード
2022年は国際情勢も国内外の社会、政治、産業もまさに激動の一年でした。この3年間はあらゆることが明けても暮れてもコロナに右往左往させられ、日々新規感染者数の数字の変化ばかりに目を取られていたように思います。
特に昨年はロシアのウクライナ戦争に始まり、エネルギー価格の上昇とともに、今までほとんどの日本人が最近経験していなかった輸入資材の高騰による円安とインフレ動向が顕著になってきました。さらに中国がいつ台湾侵攻するのかという懸念が高まるとともに、中国共産党の傍若無人の言動や恫喝などの異常さを改めて実感するようになり、2023年は日本に経済安全保障で大きな災いが降りかかってくるさらに激動の年になるような予感がします。
日本産業の今年の命運は「中国」と「半導体」にどう向き合うかにかかっている
私が日本企業の海外展開支援事業に関わる以前に勤めていた会社では、ベトナム現地での経営が最後のキャリアであったこともあり、現在はベトナム専門家の中小企業診断士として支援させていただいています。
ただ30数年にわたる前職での仕事は、大半を電機メーカー全社および地域本部でのグローバル経営戦略に関連していたのですが、実際の事業としては、半導体を始めとする電子部品の海外輸出および現地販社での販売、また全社経営における中国事業戦略プロジェクトのスペシャリストとして関与していた経歴を持っていました。
しかし中国事業や半導体デバイス事業に関係する部門から異動し、ベトナム事業に深く関わるようになって以降、中国とデバイス事業をベトナム現地から見ていたのですが、おそらく会社の命運を左右するであろうと感じていた両事業の方向付けにリスクを感じるようになったいたころに早期退職して今の事業を独立開業しました。
80年代の中国事業の黎明期から、また半導体事業のトランジスタから集積回路化へ展開する時代に半導体製造・開発・営業を経験したものとして、あくまでAV機器や家電事業の下請けビジネスのように異端児事業扱いし、真剣に向かい合うことができなかった経営幹部層の先見性の低さを若いころから感じていました。
中国も半導体も企業経営にとってはとてつもなく巨大なリスク事業です。戦略的にどの分野に絞りどう先を読み、どのように戦略的にポジショニングしてテクノロジーコンピタンスを確保するかが極めて重要です。しかしその市場規模の大きさに目がくらみ、闇雲に投資領域を広げてしまい一歩間違うと本体経営を潰しかねないほどの長期的な戦略投資が必要なる事業分野です。しかし、リスクが大きいと尻込みし、自社の海外投資や開発投資に対する回収が耐えられなくなって事業撤退に追い込まれたデバイス関連事業は数多あります。
一方、中国事業は単に事業ポートフォリオで進めるべきものではなくなっていることに早く気づくべきです。あまりにも政治的リスクが大きくなりすぎています。14億の巨大市場を獲得するためには、多少のリスクは覚悟しても中国事業投資を続けるべきだと考えている経営者や政党は視野狭窄病にかかっているように思います。市場としてまた製造拠点としての魅力よりも経営リスクとして直視しないと、ある日突然全てを失ってしまうようになることになりかねません。
複合機を中国で外資が販売するには、開発機能を含んだ現地生産でないと認めないとか、化粧品販売には全ての成分開示を条件とするなどは典型的です。過去は中国発展のために日本企業企業としても協力し、中国合弁事業を行ってきた結果どのようになったのかもういい加減気づくべきです。新幹線はいったいどのようになったのでしょうか。
デカップリングは止まらない!「脱中国化」をどう実践するか
中国リスクは日を追って先鋭化し、デカップリングの動きが進んでいる状況です。特に安全保障の問題として米国はハイテク分野の中国排除の動きを強化しています。ウイグルの人権問題に対する非難が高まり、新疆綿を使ったアパレル製品が欧米市場から排除されています。
中国を製造拠点として位置づけ、巨大市場として強化してきていた日本の製造業にとっても、人件費の急上昇とともに情報漏洩のリスク、サプライチェーンの不安定さから、いつまでも中国での事業を継続していくことに対する課題が大きくなってきたように思います。
まさに「脱中国化」が国の政策としてのキーワードになりつつあります。
経産省が新年度予算で打ち出している政策でよく出るワードとして、「サプライチェーンの強靭化」「新規輸出1万者支援」というのがあります。
「サプライチェーンの強靭化」という言葉が意味するのは、「いつまでもサプライチェーンを中国に依存していると危ないぞ!できる限り早く日本回帰もしくは中国以外の東南アジアにシフトし、サプライチェーンを再構築して強化しなさい」ということを役人特有の単語で表したものです。
「新規輸出1万者支援」というのは最近打ち出した政策で、「サプライチェーンを中国依存から脱却して、日本で事業拠点を再構築しても少子化が加速している日本市場だけでは成長できないので、もっと海外に輸出せよ(中国に製造拠点を展開するのはリスク)」という主旨の政策です。
私は今まで中国事業展開支援には意識して関わってきませんでしたが、今後は脱中国支援でサプライチェーンの再構築で貢献できればと考えています。
「脱中国」による半導体産業の復活が経済安全保障に直結
以前より半導体は産業のコメと言われてきましたが、私自身には違和感がありました。コメは食物の中でも一番重要だという意味だったと思います。実際にはそんな生易しいものでありません。半導体があらゆるものに使われており、半導体がなくては産業どころか人々の生活がそのものが成り立たなくなっています。
私はこのように定義したいと思っています。「半導体は国・社会にとって生きるための水であり酸素である」
半導体は電子回路を制御するシステムを高度に集積化したものです。実際にはパッケージ化されていますので、生の半導体を目にすることはほとんどないと思います。よって何がどう競争優位性があるのか商品を見てもわからないわけですから、半導体産業のどこをどう押さえれば国際競争で優位に立つのか、どう経済安全保障とつながるのかほとんどの人は想像がつかないでしょう。
半導体といってもメモリーもあればロジックLSIもあります。LEDも半導体ですし、光センサーや高電圧制御用のパワー半導体など、用途面だけでなく集積度面、設計面でも極めて分かりにくく幅広い領域をカバーします。半導体産業全体からみても、回路設計開発から検証システム、チップ製造工程からパッケージ技術に要する製造機器など非常に広範囲です。
昨今話題になっている台湾の半導体ファンドリーメーカーのTSMCが熊本で新工場建設中ですが、TSMC自体は設計された回路を半導体ウェハー上にいわゆる印刷のように製造していく高精細加工を請負っている一部に過ぎません。もちろん最先端技術はこの高精細加工の限界を意味するのですが、製造装置の技術では牛耳っているのはアメリカ、オランダと日本のメーカーです。
ここに中国の一番のアキレス腱があります。今まで中国は金に物を言わせて半導体の国産化にも注力してきましたが、実際中国で半導体チップを製造できている主力メーカーは台湾であり、半導体装置を必死になって取り込もうとして日本メーカーを誘致したりしていました。しかし、半導体は兵器にとってもなくてはならない技術ですので、デカップリングを安全保障上強化しなければ国として憂慮するべき事態となることから、アメリカは半導体技術の中国遮断を図り、TSMCを日米側に引き込んだわけです。
つまり半導体産業のデカップリングが意味することは、アメリカは中国産業の水と酸素を遮断し息の根を止めに来ているという本質を理解しなくてはいけないと思います。
今後日本の半導体関連企業が中国市場に関わっていくこと自体が困難になってくることは容易に想像できます。まさに高度技術分野の「脱中国」は経済原理とは別に、国家の存立危機事態に直結しかねない「国・社会によって生きるための水であり酸素である」原則を意識する必要があります。最近では中国に新たに投資を発表した積層コンデンサーのM製作所に対しては批判が寄せられています。いつまでも中国にのめり込む事業では早晩足元を見られ、半導体実装回路で重要な技術となっている積層チップコンデンサー技術を中国に盗まれるのは火を見るより明らかではないでしょうか。
「サプライチェーンの強靭化」= 中国投資は企業だけに限らず国・社会にとってもリスク以外の何物でもないと感じた2023年の始まりでした。