このページはJavaScriptを使用しています。
ご使用中のブラウザはJavaScriptが無効になっているか、JavaScriptに対応していません。
サイトを正しく表示、ご利用いただくには、
JavaScriptを有効にするか、JavaScriptが使用可能なブラウザでアクセスして下さい。

NHK朝ドラ「舞いあがれ!」から中小企業の事業承継を考える

出勤時間の関係からNHKの朝ドラを見てから家を出る生活パターンとなっているのですが、沖縄を舞台とした前作の不評とは違い、現在放映中の「舞いあがれ!」の評判が結構高く大変面白く見ています。

ご覧になられていない人もおられると思いますが、ある東大阪の中小企業の家庭に生まれ育ったヒロインが、いろんな苦難を乗り越えパイロットになる夢を追いかけるというストーリー展開です。

ドラマの筋書きそのものに驚きや感動が大きいというほどではないのですが、出演者の役柄一人ひとりに感情移入するストーリー性が支持されているように感じます。

ヒロインが憧れのパイロットになりたい夢に向かって大学を中退して航空学校に入学、厳しい訓練を乗り越えて無事卒業して航空会社に内定というところまできたのですが、リーマンショックの波を受けて入社の一年自宅待機となってしまいました。一方、家業である部品製造の中小企業経営も今まで順調に拡大発展してきたのですが、急激な受注減とともに過大投資のため一気に業績不振に陥り、止むを得ず従業員を解雇しなければならないほどの苦境に直面、ところがヒロインの父親である会社の社長が倒れてしまい入院してしまいます。

社長はひとまず退院して復帰するのですが、会社の経営状況は益々悪化していきます。来年にまたがる予告編では、東大卒の投資アドバイザーであるヒロインの兄が実家の会社を売却する以外に生き残る道はない意見する中で、社長が再び倒れ・・・という展開が示唆されています。

朝ドラファンのネット上では、ヒロインは実家の事業経営危機に巻き込まれて、おそらく家業を立て直すためにパイロットの夢をあきらめなければならないのかといったことに関心が集まっているようです。

一方、私はドラマが東大阪の中小企業を舞台として設定された当初から、ヒロインの夢実現を応援したいという感情よりも、典型的な中小企業の経営問題が凝縮された事業承継問題に、子どもたちの人生がどう影響されていくのかということに関心がありました。

ドラマに凝縮されている事業承継課題

ヒロインの父親である社長は、二代目として若くして急に町工場を引き継ぐことになり必死になって頑張ってきました。奥さん、つまりヒロインの母親と学生時代に恋仲になり、五島列島の母(ヒロインの祖母)の猛反対を押し切って結婚。社長夫妻は一男一女をもうけ、長男は東大に入り実家とは無縁の投資アドバイザーとして独自の生き方をする一方、妹のヒロインはパイロットの夢を追いかけるという設定です。

私自身、東大阪の中小企業ともお付き合いがありますが、全てが経営者の高齢化に伴う事業承継の問題を抱えているわけではありません。2代目として事業承継を実現させている40代そこそこの経営者も頑張っておられる会社も多くあります。

ところが企業の持続性を考えたとき、次世代の家族承継の環境は大変厳しいと言わざるを得ません。このドラマにおいてもおそらく40代後半ぐらいと想定される社長が経営苦境に直面し、いきなり重病になったり亡くなることも十分あり得ることです。

少なくともドラマの中小企業経営一家が事業承継をどう考えていたかという点については一切描かれてきませんでした。東大卒の長男は家業の会社経営には興味がなく、経済合理性から苦境を克服するには事業売却以外にないとの分析を行うぐらいですから、自ら経営を承継しようとする意志は全くありません。

一方、ヒロインは父親の苦労をずっと見てきており、何とか役に立ちたいと考えています。そこで父親がいきなり不在(おそらく亡くなると思われる)となったとき、ドラマのメインテーマであるパイロットの夢を実現することを捨てる人生を決断するのかという、家業のために子どもが夢を諦めざるを得ない現実にどう向き合うのか・・・・経営を立て直すために子どもが夢を諦めて家業を継いで家族と従業員を守るか、それとも第三者に会社を売却するか、そうでなければ倒産廃業しか道が残されていないのは現実的に起こりうる問題です。

子どももまだ小中学生という若い経営者の認識は、事業承継はまだまだ考える段階にないという経営者が多いのが実態です。しかし、いずれは会社を続ける限りは、いつかは誰かに事業承継してもらわなければなりません。そうでなければ会社を解散廃業するということになります。いずれはその決断をしなければなりませんし、そのための準備は早ければ早いほど良いのです。

中小企業の経営者にとっては、会社は自分自身の分身そのものであり、苦楽を共にしてきた従業員は家族そのものです。であればなおさら自分の次の世代をどうするかを考えるときには、親族承継以外には選択肢はないというのは普通です。しかし、考えている親族の承継候補者はその意思があるのでしょうか? その承継者は経営者としての能力やマインドは備わっているのでしょうか? それともそもそも後継者はいるのでしょうか?

経営者としてまだ若いからと事業承継を考えないのはある意味社会に対しても従業員に対しても無責任だと思います。いつ突然社長を続けることができなくなることになるかも知れないからです。そのとき承継者が決まっていない状況は会社も従業員にとっても不幸を招くことになります。

急に会社を売却して新しい経営者に承継してもらおうとしてもそんなに都合よく進みません。ほとんどの会社は大きな借入金を抱えています。売上や資金など多くの課題を抱えたまま、突然社長を交代するのは至難の業です。最悪事業縮小、従業員解雇や廃業を決断しなければならなくなります。

雇用を守り事業を継続させるために

少子化の加速によって日本企業の多くは事業存続のための足腰が弱体化してきています。いくら強みのある中小企業であったとしても、今の事業規模で経営者に限らず従業員が培ってきた技術ノウハウの継続性も深刻な問題になってきました。外国人雇用の拡大では対応できない経営の根幹の問題です。

自分が立ち上げ育ててきた会社を継続させるために、理想的には親族から後継ぎを確保したいと考えていても、現実的にはドラマに見られるように、子供たちの人生を左右し夢を諦めさせて事業を継いでくれる保証はありません。

よって第三者承継、つまりM&Aで事業売却を考えねばならないと頭ではわかっていても、日常の多忙さに追われて真剣にM&Aの検討に取組む第一歩が踏み出せない経営者を数多く見かけます。自分の分身である会社を他人に売却するなんてそれこそ身を切られる思いですし、従業員の顔が思い浮かんで、経営を放り投げるようなことはとてもできないと悩む気持ちはよくわかります。

でも、M&Aを検討することと、全く何もしないまま最終的に廃業に追い込まれること、どちらが従業員のため、会社のため、そして社会全体の発展のためになるのでしょうか? 

事業再構築補助金よりも事業承継の取組みを最優先に

事業承継は今期の売上や利益に直接影響を及ぼすような日々の経営で直面している課題ではないため、経営者の意識としてはできることなら先送りしてしまいたいと流れてしまいます。

一方、コロナ等の影響で収益の悪化に伴い、何とか経営窮境を脱するべく新規事業に活路を見出そうとして、国が大きな予算規模で支援する事業再構築補助金を何とか獲得しようと立派な事業計画書を策定される事業者が多くおられます。しかし、補助金事務局がHPで紹介する事例を見ても、この再構築事業を将来誰がどのように引き継いで発展させていけるのか疑問に感じざるを得ない案件ばかりのような印象を受けます。

中小企業は事業再構築補助金に血眼になるよりも、事業承継の課題にもっと意識を高めと行動を起こすべきではないでしょうか。当面の収益に直結しなくても、何もしないままだとある日突然事業遂行ができなくなって倒産廃業する可能性が高いのが事業承継問題です。

健康診断で腫瘍が発見されているにもかかわらず、自覚症状がないということでほったらかしにしていると手遅れになってしまうのが、まさしく事業承継問題と通じるところです。

経営者の皆さんに寄り添いベストの将来図を描く事業承継支援の専門家にすぐに相談してみませんか? 

年明け以降、朝ドラ「舞いあがれ!」の中小企業は社長なき後どのような運命をたどるのか、またヒロインのパイロットの夢は諦めざるを得ないのか目が離せません。