勉強しない日本人と教育投資しない国、企業の悲惨な未来
日本は少子化が加速しているにもかかわらず、国も企業も人材教育にあまり投資しません。デジタル技術による社会構造の変革に直面しているのに、子どもの教育だけでなく、第一線で経済社会を牽引する社会人の教育訓練に対する意識が低い上に、日本人全体が今までの暮らしのぬるま湯に漬かり続けたことによって、自己啓発によって能力を高めていかなければならない意識もないことは極めて憂慮するべき未来が見えてくるのです。
バブル崩壊後の失われた30年という認識は正しいのでしょうか。何故この30年間、日本人の給与は下がり続けたのでしょうか。非正規雇用が増えて人材を使い捨ててきたから? 企業経営者が内部留保を貯め込んで給料を上げてこなかったから? ある面ではその要素があったかも知れません。しかし一つ明らかなのが人口が少子化によって減少局面に入ったために、GDPが伸びなくなったということがあります。人口が減少している中でGDPを上げるには、当たり前のことですが一人あたりの付加価値を上げる、つまり一人が生み出す価値である生産性が上げる必要があります。
そうすれば一人あたりの生産性を上げるにはどうするべきでしょうか? 国が財政出動して新規分野に投資して競争力ある産業を育てることもその一つでしょう。企業も新規技術や設備投資によってより付加価値の高い商品を創造することも必要です。
しかし日本人の多くが忘れていることがあります。国民一人ひとりがもっと勉強して自らの能力を高める意識を持たなければどうしようもありません。給料が上がらないのは決して国や企業だけのせいではありません。自分自身が学習や自己啓発活動で成長すれば、もっと高いレベルの仕事ができて収入も増えるはずです。
いやそんなことはない!いくら頑張って営業成績を上げても給料が上がらないではないか!という方もおられるでしょう。それほど自己成長しているというのであれば、ならば何故その会社を飛び出して自ら事業を興してサラリーマンとしてもらっている給料以上の付加価値を上げようとしないのでしょうか。そういう事業を行う能力や自信がなくてリスクも取りたくないというのは、つまり勉強は不十分でしかも安い給料で安住しているということに過ぎません。
本当に日本人は勉強しない国民だということを改めて知る
皆さんの意識の中に、「日本人は働きすぎ」という感覚があるのではないでしょうか。また日本は日本人一人ひとりが頑張り、戦後の高度成長を達成して世界に冠たる経済大国まで登りつけたという意識のままでおられるのではないでしょうか。確かに中国の急成長でGDP第二位を明け渡したが、モノづくりではまだまだ引けを取らないし、品質のこだわりはまだまだ優位にたっていると思ってはいませんか。日本人の能力を引き出すためにも残業を減らして質の高い労働を活用するための「働き方改革」に邁進してきたのがこの10年間だったと思います。
しかし、「働き方改革」は「好きなことをやる労働」に変質し、自ら能力を高めてより高度な仕事に挑戦する意識もなくしてしまった結末となってはいないでしょうか。「楽して給料が貰えたら満足」な若年労働者が増え、海外に飛び出てグローバルに活躍したいとか、もっと高度な業務を任せられるように自己研鑽したいという従業員の比率が急減しています。
能力を高めて自己成長することと自分自身の労働観が一致しません。自分が楽しければそれでいい、自分の能力を高めるために自分の時間を費やすなんで真っ平ごめん、好きなことをやるための手段として働いているという感覚の人にとっては、「働き方改革」は個人の楽しみのために楽して収入を得るだけの旗印にすぎないように思えるのです。
最近、パーソル総合研究所が2019年に調査公表した「APAC就業実態・成長意識調査」を見てすごいショックを受けました。
この調査はアジア14か国(日本・中国・台湾・香港・シンガポール・タイ・インドネシア・マレーシア・ベトナム・フィリピン・インド・韓国・オーストラリア・ニュージーランド)の就業意識と自己成長についてのものです。主に、社会人が社外でどれだけ学習や自己啓発活動を行っているかという観点から調査してものです。
項目はいろいろあるのですが、学習・自己啓発活動において、日本は断トツの全項目最下位だったのです。いかに就業している日本人はほとんど勉強していないかを物語っています。
①社外の学習・自己啓発を行っている割合
勤務先以外での学習や自己啓発活動について行っている割合が最も高いのがベトナムで何と98%です。続いてインドネシア、タイ、フィリピン、インド、マレーシアと続きます。「特に何も行っていない」がベトナムではわずか2%であるのに対し、日本は46.3%で断トツの最下位です。
②社外の学習の中身
学習や自己啓発活動には様々な項目があります。一番身近なものとしては「読書」です。この読書を行っている割合が最も高い国がベトナムで53.7%、以下フィリピン、マレーシアと51%台が続きますが、14か国中最下位は日本で27.4%です。アジア大洋州の中で一番本を読まない国民が日本人であるということにどれだけ気づいているでしょうか。
③研修・セミナー、勉強会等へ参加している割合
トップはフィリピンの55.1%、続いてインドネシア、マレーシアが50%超です。他の国のほとんどは24%以上つまり4人に一人は外部の研修や勉強会に参加しているのですが、これまた断トツの低い国が一つあります・・・日本です。唯一13.6%とガクッと落ちています。
④資格取得のための学習をしている割合
トップはインドネシアの50.7%で第二位が中国の35.9%。そして最下位は・・・・これまた日本の13.6%
⑤語学学習をしている割合
トップはベトナムの46.3%、続いてタイの42.2%、インドネシア32.2%、韓国の31.7%です。一方、英語が母国語のオーストラリアは12%、ニュージーランドは9.1%と低いのですが、日本はブービーの10.2%です。
⑥通信教育、eラーニングをしている割合
トップは中国の32.7%、そして最下位はこれまた断トツの日本7.7%です。ブービーの香港でも14.4%ですからいかに日本が勉強していないことがわかります。
⑦勉強会等の主催・運営をしている割合
トップはベトナムの25.1%。勉強熱心な国民性というのが実証されています。そして最下位はこれまた言いたくもないですが2.7%の日本です。
⑧社会人で大学・大学院・専門学校に通っている割合
トップはインドネシアの22.6%、2位がインドの22.5%です。日本を除く全ての国が10%以上ですが、唯一日本が4.6%の断トツ最下位です。
⑨NPOやボランティア等の社会活動に参加している割合
もう言いたくもありません。日本が断トツの最下位4.4%です。ちなみにトップは37.3%のインドネシアです。
勤務時間外に勉強しない日本人は働き方改革を語るなかれ
日本人は社会人になるといかに勉強しないかということが数字で実証されています。「日本人は真摯に働く国民性だから働くことに一生懸命で勉強する時間がない」というのは単なる言い訳です。日本人の労働観を根本的に変えていかなくてはならないと思います。日本人の多くにとって、勉強して自己成長しないと生産性が上がらない、つまりより高い暮らしができないという切迫感がなかったゆえに、あまりにもぬるま湯的な人生で生きてこれたのが今まででした。
このアジア大洋州14か国のほとんどが日本以上に必死になって自己啓発に努めて、その結果どんどん能力を高めています。10年以上ベトナム人材の育成に関わってきたものとして、ベトナム人の 勉強熱心さに感心するだけでなく、実際に年々人材のレベルが高度化している実態を目の当たりにしています。
このままでは早晩、アジア全ての国民は日本人よりも高い能力を身につけることは間違いありません。その結果、最も付加価値の低い仕事しかできない国民に成り下がってしまう日本の悲惨な未来を見たくはないです。
そのためには、日本人全員に強く訴えたいです。「日本人よ!好きなことばかりに現を抜かすのではなく、もっと勉強せよ!」「人口減少率以上に自分の能力成長率を上げなくては国全体が衰退する現実を直視せよ!」「今こそ働き方改革ではなく、働きぶり改革を!」
そして国はもっと社会人教育を奨励、促進する政策を打ち出すべきですし、日本企業も断トツで人材育成に投資をしない経営を見直すべきです。給料を上げることも大事ですが、教育訓練に投資し従業員の能力開発こそが持続可能な企業体質を作るという意識を持ってもらいたいと思っています。