認定経営革新等支援機関の登録を機に
少子化の加速によって国内市場は縮小する一方で、人材不足とともに国際競争力が急降下している感が否めず、海外市場を舞台にいかに成長発展に取組むかが企業経営の根幹になっています。私は今までASEANを中心とした中小企業の海外展開支援のお役立ちに注力してきましたが、今後は次世代に向けて海外事業を軸に事業承継を実現していくための支援に重点を移していきたいと考えています。
事業承継は個々の企業だけではなく日本経済全体にとっても喫緊の課題です。2015年時点で381万社の企業数の内、70歳以上の経営者が約245万人でした。その約半数の127万人が後継者未定で、この現状を放置すると2025年までには中小企業・小企業事業者の廃業が急増し、650万人の雇用、約22兆円のGDPが失われる可能性が高いと中小企業庁が報告しています。
コロナ後の統計はまだはっきりとしてはいませんが、その後年々休廃業が増加し、2020年には5万件に達しています。ところが中小企業の第三者承継は年間4000件程度に留まっています。親族内に後継者がいないため止むを得ず休廃業を選択してしまうということは、雇用が失われるだけでなく、関係する販売先や仕入れ先等の取引先の事業も縮小する地域経済への影響も大きく、経営資源として培ってきた技術やノウハウを次世代に継承できない由々しき問題です。
後継者がいないために廃業してしまうよりも、第三者に経営を継いでもらうM&Aを選択するのは、経営者としての社会的使命ではないでしょうか。実際第三者承継を契機に企業の業績は上向く傾向があります。事業承継後の純利益成長率は同業平均値と比べると約20%高く、労働生産性においてもM&A実施企業の方がしていない企業と比較して6ポイントほど高くなっています。
一方、海外展開においても、過去に取引先の海外展開に追随して海外で子会社を作った企業も事業承継問題は徐々に顕在化しています。重点市場や技術が年々変化し、単に下請け生産対応やコスト削減のために海外に製造会社を設立して販売するビジネスモデルは大きく変化を求められています。海外市場の成長性や人材確保の点で海外事業はより欠かせない一方で、超円安によるコスト構造の変化によって海外拠点の意義も変わってきています。
新たに海外事業によって成長発展を目指す経営戦略を推進するにあたって、今までのような製造子会社の設立や出店計画を立てて海外展開するよりも、もっとスピード感をもって、他社の事業拠点の経営資源を活用する海外M&Aによる優位性も出てきています。最初から人を採用して、教育訓練し、生産管理体制や設備、経営インフラを日本から導入して事業を立ち上げるよりも、既に基盤ができている他社の拠点を買収することの方が時間的にもコスト的にもメリットが大きいように思います。もちろんM&A特有の困難性も大きいですが、きっちりとPMI(Post Merger Integration) を支援パートナーと取り組めば競争優位性は十分確保できるはずです。
既に海外に拠点を設立して展開してきた企業も、今のビジネスモデルでの限界を感じていることで撤退を考慮している会社も増えているように思います。本体事業そのものの事業承継で悩みが大きくなってきていると同時に、海外拠点の経営管理できる人材も育ててこなかったため、閉めざるを得ない状況に直面しているのです。しかし海外事業の撤退もそう簡単ではなく、法律上の問題や税務処理に加え、従業員の再就職対応を求められます。海外拠点も日本と同様、廃業撤退することは展開国での社会的損失でもあります。
そこで今後、ニーズが大きくなってくる海外拠点の事業承継に貢献していきたいと考えているところです。
認定経営革新等支援機関に登録した理由
1年前のブログで「認定経営革新等支援機関」への登録はしばらくの間行わない理由を述べました。政府のいろいろな補助金申請に認定経営革新等支援機関による関与が必須となる事業が増えており、私も当初は支援機関への認定登録を検討しました。ところが制度の運用そのものが十分整備されておらず、当時中小企業診断士や公認会計士の資格保有者であったとしても、中小企業大学校で改めて所定の研修を受けることが条件とされていたときもありました。その後運用が緩和されて、3年間の支援業務の実務経験があれば登録可能となったのですが、あくまで診断士としての個人事業の3年間の青色申告書が条件とあり、私のように法人化すると登録支援機関申請は民間コンサルタント会社扱いとなり、会社の代表としての所定研修を求められたのです。
研修を受けなおす選択肢はありましたが、事業再構築補助金の補助金申請支援を行う業務を外すことを決断し、暫くの間認定支援機関に登録は行わないことにしました。ところが、今回中小企業庁の運用がさらに変更となり、申請者である中小企業診断士または公認会計士が代表を務める法人が中小企業等に対する経営相談といった経営支援を継続的に実施してきたことが客観的に認められる場合、当該法人の事業基盤をもって、中小企業診断士または公認会計士である個人の事業基盤とみなし、認定人格は「個人」とし、認定支援機関名は「個人名」を使用するとともに、認定支援機関種別は「中小企業診断士」または「公認会計士」とすると発表されました。
以前から近畿経済産業局に相談していたこともあり、これにより今月登録の認定経営革新等支援機関として登録されることになりました。
私自身は、とある理由で事業再構築補助金の申請支援は行わないことにしていますが、そもそも認定経営革新等支援機関に登録を決めたのは、事業承継・引継ぎ補助金等、M&Aでの領域での支援でのお役立ちを目指したいからです。海外事業のM&Aに補助金が活用できるかどうかはまだわかりませんが、既存の海外拠点を第三者に継いでもらいたい企業様の相談を受けるとともに、M&Aを活用して新たに海外展開を図りたいと考えている企業様との橋渡し役として、まさに成長の架け橋(リープブリッジの由来)になっていきたいと考えております。
中小企業の海外M&Aはまだほとんどの人が手をつけておらず相談相手も少ないのが現状です。M&A仲介業者や商工会議所に相談しても、おそらく的確な対応はしてもらえないでしょう。でも日本の中小企業・小規模事業者にとっては非常に重要な事業承継です。親身になって相談してもらえるように精進してまいります。